アフリカの自動車産業、ローカルなメイド・イン・アフリカ車の動向は ?

投稿日: カテゴリー: アフリカ経済・産業・社会事情

欧米、中東等からの中古車輸入市場が長年圧倒的シェアを占めてきたアフリカの自動車市場では、最後の新車フロンティア市場を狙う世界の多国籍大手メーカーが数年前から進出を加速しつつある。一方、困難な環境下で、活用しうる資源と能力を活用しながら、素朴堅牢なピックアップからSUV、ラグジュアリーまで、さまざまなタイプの自動車を開発実用化しようという忍耐強いローカルな試みも見られる。

カレンジー、キイラ、カンタカ、イノソン、モビウス、タートル、ワリス、フルグーラ―これら聴き慣れない一連の単語は、アフリカでこれまでに設計、生産されてきたローカル企業による「メイド・イン・アフリカ」車の呼称あるいはその製造者名である。

周知のように、自動車に関してアフリカはまず、ヨーロッパ、中東等から流入する中古車の一大市場となってきた。中古車市場は圧倒的にインフォーマルセクターであるため、その規模を算定するのは容易ではないが、2020年現在、年間500~600万台の中古車が輸入され(新車の年間販売台数は150万台)、アフリカを走行している車10台のうち9台までが中古車との数字も報道されている。

他方、経済活動の発展による中間層の形成に伴い、新車市場の新たなフロンティアとして、世界の多国籍大手がアフリカ各地への自動車組立工場建設を急ぎ始めた。アフリカ開発銀行(ADB)と経済協力開発機構(OECD)がアフリカの中間層の人口として3億5000万人という数字を発表したのが2017年。その翌年の2018年には、すでに始まっていた自動車大手の工場設置が一段と加速し、現代自動車がエチオピアでの生産台数を年間1万台まで増やした後、7月にはいすゞがエチオピアへの組立工場設置を発表。フォルクスワーゲンも同年、同じく東アフリカのルワンダへの組立工場建設(投資額2,000万ドル、年間生産能力5,000台)を発表した。ガーナではコロナ禍の最中、2020年8月にフォルクスワーゲン工場(年間生産能力5,000台)が稼働したのに続いて、2021年6月にはトヨタの組立工場(同じ1,330台)が運転を開始した。

北アフリカでは、サブサハラに先行して外国自動車大手の生産拠点設置が始まっていた。モロッコでは、こうした投資拡大の波に乗って、2010年に5万台だった年間生産台数は2017年には33万5000台まで増加した。モロッコの場合、2003年の民営化を機に本格進出したルノーがモロッコ製造車を欧州市場へ輸出する戦略が成功して拠点を拡大。世界的な部品大手もモロッコに進出し始めたほか、2019年にはPSA(現ステランティス)が年間生産台数10万台規模の工場を開設。ルノーと同じく、近々の生産倍増を目標に掲げている。

モロッコに肉薄されているとはいえ、アフリカ最大の自動車生産国である南アフリカに関しても、複数の大手自動車メーカーが続々と投資計画を発表しており、その総額は5年間で30億ユーロを超える見通しだ。

こうした新車市場への投資拡大を自国にとってのビジネスチャンス、製造業発展のチャンスとするため、新車と競合する中古車輸入を禁止、あるいは制限することを決めた国もいくつか出てきた。2020年10月時点で中古車輸入の禁止を決めていた南アフリカ、エジプト、スーダン、モロッコ、チャド、コートジボワール、ガボンなどは走行年数5年未満、モーリシャスは同3年未満の中古車に限って輸入を認める方針を採用した。ケニアも2019年に、中古車輸入規制措置を2021年にも導入すると発表、同時に、国内自動車産業の支援を目的に減税措置等を導入する方針も示した。

なお、中古車に関しては、大気汚染や温暖化ガス排出の点からも国際的に懸念が高まっており、国連開発計画は2020年に初めて途上国146カ国における中古車輸入問題についての報告書を発表。これによると、2015~2018年の期間に世界で輸出された中古車の40%以上がアフリカで購入されていた。

根強い中古車市場、多国籍企業の進出(中国進出で出遅れた企業が、同じ轍を踏まないようアフリカ進出を急いでいるとの分析もある)という状況下、アフリカにおいてローカルなイニシアチブによる自動車産業が根づくのが容易でないことは想像に難くない。

とはいえ、アフリカで設計され、組み立てられたローカル企業による「メイド・イン・アフリカ」車は存在する。資金面も含めた多くのハンディを抱えつつ、すべてに組織化された大手多国籍メーカーに伍するのは当面困難であるにしても、地元の知恵と資材、ビジョンと才覚をテコに、冒頭に上げたカレンジー、キイラ、カンタカ、イノソン、モビウス、タートル、ワリス、フルグーラといった名前の車が誕生してきた。

カレンジー(Karenjy)は、ローマ教皇がマダガスカルを訪問した際に乗車した防弾ガラス張りの教皇専用車「パパモビル」を製造したメーカーである。1989年にはヨハネ・パウロ二世、2019年にはフランシスコと、30年の間隔を置いて2人の教皇が乗車した。カレンジーは、「経済活動のマダガスカル化(経済的な植民地主義的状況からの脱却)」が叫ばれた1980年代に創業したものの、生産台数は5年間で100台止まり。商業的成功からはほど遠く、「パパモビル」で注目を集めた後まもなく営業をストップした。2010年になって再び雇用復帰支援、職業教育という社会的目的の下に復活し、2016年には新モデルMAZANA IIを発売した。

マダガスカルのMAZANA II は国内向けのあくまで素朴な車両だが、東アフリカ・ウガンダのキイラ・モーターズ(Kiira Motors)からは、スタイル的にも技術的にも先端を狙ったEV車「Kiira EV」とハイブリッド車「Kiira EV Smack」が発表された。地元大学の学生らが開発にあたったエコロジー車両で、2021年から年間5,000台生産が目標として掲げられている。2019年にはEVバス2台が首都カンパラで試験走行を始めた。キイラ・モーターズには国が96%、マケレレ大学が4%出資し、中国のChina Hi-Tech Group Corporation(CHTC)と提携する。

ケニアで製造されるMobius(モビウス) は、メイド・イン・アフリカ車の中でも最安の4,500ユーロを付けたオフロードSUVである。製造元のモビウス・モーターズは、定住先のケニアで悪路を走行できる堅牢な車の必要性を感じたという英国人エンジニアが2010年に創業した。Mobius Iの生産は50台で終わったが、第2バージョンのMobius IIについては、シャーシの堅牢性を高め、パワステ等の新機能も装備するとともに、資本調達を進めて年間数千台規模への増産を目指す。

ガーナのTurtle(タートル)は、100%回収部品からできたリサイクルカーで、2013年10月に発表された。環境問題の観点からアフリカへ持ち込まれる自動車廃棄物を追跡していたオランダ人2人(アーティストと社会学者)が、部品の再利用へ向け、手工業者らが参加する現地のパートナーSuame Magazine Industrial Development Organisation(SMIDO)と提携した。シンプル、頑丈が身上のピックアップ車だ。

ガーナにはもう一つ、ガーナ警察が2018年に4WDバージョンの購入を決めたというSUV車Kantankaがある。Kantankaを開発したのは、地元の牧師、発明家、起業家であるワドゥオ・サフォ・カンタンカ氏で、金時計で始動させる自動車、話すロボット、戦闘用ヘリコプターのプロトタイプといった発明実績の持ち主。実業家として資金調達の手腕もあり、250人が働く作業場で車を製造している。4WDの価格は16,500~32,000ユーロという。

ナイジェリアのイノソンは2007年創業。別称は「アフリカの道路の誇り」。部品の70%を現地製造している。5人乗りのFOXとUmu、ミニバスのUzoがある。すでに西アフリカの一部で流通しているが、2021年からの本格販売を目指す。

南アフリカでは、スポーツカー仕様のBaily Edwards Cars、Advanced Automotive Design、Perana Performance Group、ロードスターのBirkin Cars、EVのOptimal Energy Jouleなど、さすがに数社の名が挙がってくる。それでも、商業化が軌道に乗ったと言えるケースは今のところないようだ。

北アフリカでは、チュニジアのワリカー(Wallyscar)が小型SUV車「Iris」を製造する。2006年創業の同社はチュニジアの産業・経済組織の発展に貢献する意志を当初より表明し、エンジンはプジョーだが、部品の半分以上を国内で生産している。2008年にはパリのモーターショーにも出展した。年間1,000~2,000台の注文は来るが生産が追いつかず、新工場設置へ向け、2019年にEkuity Capitalから1,000万ディナールを調達した。

アフリカ生まれのラグジュアリー車といえば、モロッコ・ララキ(Laraki)のFulgura(フルグーラ)がある。中東の富豪向けヨットをデザインしていたアブデスラム・ララキ氏が1999年に創業した同社では2002年、フェラーリ等の高級車にも比肩するFulguraをジュネーヴ・モーターショーで発表、99台を4年間で販売した。価格は30万~45万ユーロ。その後も、さらにその上を行くスーパーカーEpitomeの限定製造に乗り出しているが、こちらはなんとコンセプトカーとして発表された時点の価格が200万ユーロという。

※本記事は、特定の国民性や文化などをステレオタイプに当てはめることを意図したものではありません。

(初出:MUFG BizBuddy 2021年12月)