アフリカ開発にディアスポラが貢献

投稿日: カテゴリー: アフリカ経済・産業・社会事情

在外アフリカ出身者による出身国への送金額は政府開発援助(ODA)や外国直接投資(FDI)と並ぶ水準に達し、人々の生活を助けるだけでなく、消費を刺激して地元経済を活性化させる効果がある。近年では、在外アフリカ出身者による開発投資や頭脳帰還によるノウハウの移転といった、アフリカ開発への新たな貢献の在り方にも注目が集まっている。

アフリカ諸国のメディアには「ディアスポラ」という言葉が頻繁に登場する。元来は世界中に離散したユダヤ人を指す言葉だが、アフリカのコンテクストに置いた場合、かつての奴隷貿易で新大陸に連れて行かれた黒人たちの子孫から、最近になって欧米を中心とする先進国に渡った移民までを含む「在外アフリカ出身者」を意味する。これらのディアスポラは居住国の市民であると同時に、出身国とのつながりを多かれ少なかれ保っている。家族・親戚への送金が相当な額に上ることはよく知られており、アフリカの人々のディアスポラに対するまなざしには「出身国への貢献」への期待が込められる。例えば、父親がケニア出身のオバマ米大統領もディアスポラの一員というわけで、オバマ大統領が2009年に米国初の黒人大統領に就任したとき、アフリカの人々は「自分たちの一員」が米国の大統領に選ばれたことを歓喜し、親アフリカ的な政策が推進されることを当然のごとく期待した。

世界銀行がまとめた移民と送金に関するデータによると、世界の移民による出身国への送金額は、国際金融危機の最中の2009年、そして2015年に減少した以外は増加を続けている1。在外アフリカ出身者による出身国への送金も同じく年々増加しており、2015年にはサブサハラ・アフリカだけで348億ドルに上った。アフリカ諸国が2013年に受け取った政府開発援助(ODA)が467億7000万ドル、外国直接投資(FDI)が365億4000万ドルだったことを考慮すると、在外アフリカ出身者による送金の重要性が理解できる。これに北アフリカ4カ国(アルジェリア、エジプト、モロッコ、チュニジア)を加えると、送金額は659億ドルに達する。

サブサハラ・アフリカ諸国の送金受取額を国別に見ると、ナイジェリアが208億ドルと群を抜いて多く、これにガーナ(20億ドル)、セネガル(16億ドル)、ケニア(16億ドル)、南アフリカ共和国(10億ドル)、ウガンダ(9億ドル)、マリ(9億ドル)、エチオピア(6億ドル)、リベリア(5億ドル)、スーダン(5億ドル)が続く。リベリアとコモロ、ガンビアでは送金受取額の対国内総生産(GDP)比率が20%を超えており、国家経済における比重の大きさがうかがわれる。北アフリカではエジプト(204億ドル/6.8%)、モロッコ(67億ドル/6.4%)、チュニジア(23億ドル/4.8%)、アルジェリア(20億ドル/0.9%)の順に送金受取額が多く、対GDP比率も多額の石油・ガス収入があるアルジェリア以外は5~7%程度の水準に達している2

欧米を中心とする諸外国に住む家族・親戚からの送金はアフリカの貧困層にとって重要な収入源であり、多くの家庭が外国からの送金に頼っている。その一方で、競争が希薄なためにアフリカ向け送金は手数料が法外に高く、送金額が大きく目減りするという状況が批判されてきた。確かに、アフリカ向け送金手数料の平均は2015年6月時点で送金額の9.74%となっており、世界平均の7.68%を2ポイントも上回り、G20(主要20カ国・地域)が掲げる手数料削減目標(送金額の5%)の倍に近い。それでも、2008年の14%と比べると低下したことが分かる3

一方、銀行やウエスタンユニオンなどの国際送金大手による従来的な送金方法の他に、アフリカ向けの「モバイルマネー」を利用した送金サービスの急成長が注目される。アフリカでは銀行口座の保有率が低いため、急スピードで普及が進む携帯電話を利用した送金・決済サービス「モバイルマネー」が重要なツールとなりつつあり、モバイルマネーによる外国からの送金にもさまざまな形態がある。外国からアフリカ諸国の携帯電話の利用料金を直接チャージするサービスをはじめ、フランスの通信大手オレンジや、オンライン送金を手掛ける英国のワールドレミットは、モバイルマネー加入者に直接送金するサービスを提供している。送金された資金はモバイルマネーのアカウント上で送金・決済に利用できる他、現金で引き出すこともできる。

また、アフリカに住む家族による食料品や医薬品などの日用品の購入費用を、在外アフリカ出身者が直接決済することができる「アフリマーケット」というサービスもある。これは携帯電話を利用した商品券のようなもので、送金側がカタログで店舗と商品を指定し、アフリカの受取人は決済完了時にショートメッセージサービス(SMS)で入金通知を受けて商品を入手するという仕組みになっている。ちなみに、ワールドレミットはソマリランド出身の起業家、イスマイル・アハメド氏が2010年に立ち上げたスタートアップで、月間取引件数40万件のうち4分の1がモバイルマネーへの送金だが、アフリカ向け送金ではモバイルマネーへの送金が50%に達している4。モバイルマネーは送金手続きが簡単で手数料が安価であることが売りとなっており、今後利用が大きく拡大することが予想される。

ディアスポラによる仕送りは出身国にいる家族の生活条件を直接改善することに貢献するだけでなく、消費とそれに伴う生産活動を通じて地元の経済を活性化させる効果がある。住宅建設を援助するための仕送りなどはその良い例だ。

ディアスポラと出身国の経済的な関係は仕送りだけにとどまらない。例えば、送金額がGDPの6.4%に上るモロッコでは、在外モロッコ人の資金力に注目して不動産業者や金融機関が投資誘致のプロモーションを重ねている。かつては老後に備えてモロッコで住宅やカフェを購入する在外モロッコ人が多かったが、現在では生産的な投資を選択する人も増えている。政府はこうした層を取り込むために、国際金融危機の影響で外国からの投資が減速した2009年に、在外モロッコ人によるモロッコ向け投資を支援する基金「MDM Invest」を設置した。工業、ホテル、教育、医療などの戦略分野での投資額100万モロッコ・ディルハム(約10万ドル)以上のプロジェクトを対象に、500万ディルハムを上限として、在外モロッコ人による投資額の10%に相当する補助金を給付する5

2013年5月29日にモロッコのマラケシュで開催されたアフリカ開発銀行(AfDB)年次総会でのフォーラムのテーマは「アフリカ構造変革のためのファイナンス:インフラ債とディアスポラ債」だった6。また、ガーナ政府は2008年に内外ガーナ人向けに総額5,000万ドルの国債を発行し、インフラ開発資金を調達した。アフリカ諸国による在外居住者向けの国債は、広報が不十分な上、リスク感が大きいため、期待されたほどの成功を収めていないとされている7。このため、ディアスポラの投資熱を有効活用するためにも、各国政府が投資環境の改善に取り組む必要性が指摘されている。

アフリカ諸国の主要ドナーである欧州連合(EU)も、在外アフリカ出身者による開発投資に注目している。欧州委員会は2016年4月にマリのケース地方での開発プロジェクトに600万ユーロを供与したが、これは、欧州への移民が多いケース地方を対象に在外マリ人による生産部門への投資を支援し、雇用創出を後押しして不法移民を減らすことを目指している。EUはアフリカからの不法移民対策として、移民出身国の開発促進を目的とする総額600億ユーロ超の投資プランを予告しており、ディアスポラへの働き掛けも増えることが予想される。

一方、国際通貨基金(IMF)によると、サブサハラ・アフリカを離れる有資格者も急増している。2013年には700万人のアフリカ諸国出身者が先進国に移住したが、人口増加を背景に移住者は2050年には3,400万人に達する見通しで、この中には多くの有資格者が含まれることが予想される。ただでさえ有資格者が少ないサブサハラ・アフリカで、こうした「頭脳の流出」の影響は大きい。しかし、一度国を離れたこれらの有資格者が外国で経験を積んだ後に出身国に戻るケースも増えており、新たなノウハウと経験がもたらされている。

欧米には、出身国の将来にいかに関わっていくかについて積極的な取り組みを続けるディアスポラのグループが数多くある。2015年6月から約1年間ベナンの首相を務めたリオネル・ジンスー氏は、2013年12月に設立された「フランス・アフリカ財団」の会長で、ベナン系のディアスポラの1人である。

今後の発展が期待される希望の地「アフリカ」とディアスポラが共に進んでいく様子を見守っていきたい。

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1 http://www.worldbank.org/en/topic/migrationremittancesdiasporaissues/brief/migration-remittances-data
2 World Bank Group “Migration and Remittances Factbook 2016”, http://documents.worldbank.org/curated/en/992661467995663842/pdf/105203-PUB-Box394885B-PUBLIC-PUBDATE-4-8-16.pdf
3 http://www.banquemondiale.org/fr/topic/paymentsystemsremittances/publication/cost-sending-remittances-june-2015-data
4 Jeune Afrique, 2 juin 2016 “Transfert de fonds:WorldRemit s’allie à MTN en Côte d’Ivoire”
5 http://www.ccg.ma/fr/index.php?option=com_content&view=article&id=76&catid=4&Itemid=4
6 http://www.afdb.org/fr/news-and-events/article/the-diaspora-prepared-to-invest-in-africa-11881/
7 http://www.un.org/africarenewal/fr/dernière-heure/les-transferts-dargent-de-la-diaspora-une-source-de-développement

(初出:MUFG BizBuddy 2016年10月)