変貌を遂げるアフリカの都市開発

投稿日: カテゴリー: アフリカ経済・産業・社会事情

アフリカでは人口増加を背景に急速な都市化が進み、交通渋滞や環境悪化、貧困といった弊害が問題視されているが、10年ほど前から、こうした問題への対処を含めて、現在と未来の都市の在り方を見据えた戦略的な都市開発が実行に移されるようになってきた。スマートシティーや持続可能な都市など、都市を通じて社会と経済の成長を実現することを目指す。

ナイロビ国立公園のサバンナにキリンが佇み、シマウマが行き来する写真を見たことがある人は、その背景に高層ビルが立ち並んでいるのに驚いたことだろう。アフリカは世界で最も都市化が遅れている地域であるとはいえ、現在13億人といわれる人口の約50%は都市部に居住しており、すでに50以上の都市が人口100万人を超えるに至っている。2050年には20億人の人口の70%が都市居住者となる見通しだ。

アフリカの都市は、農村部からの人口流入を受けて急速に膨張している。例えば、ナイジェリアの首都ラゴスやコンゴの首都キンシャサは毎日新たに1,000人以上もの人々を受け入れているという。急激で無秩序な都市化の進行は、交通渋滞、スラム街などの劣悪な住宅環境と貧困、基本的なサービスの欠如、闇経済の発達、環境の悪化といった問題を伴うが、これはアフリカの多くの都市が1970年代に策定された都市計画に基づいて開発され、その後、全体的な視野から新たに再開発計画を立てることなく数十年にわたって小手先の調整が加えられてきた結果でもある。その間、アフリカの人口は急激に増加し、農村部から都市部への人口流入が加速して、国や自治体は、都市に必要な機能が整備されていない周辺部に貧民街が立ち並ぶという抑制の効かない都市化の問題に直面した。

しかし10年ほど前から、こうした問題への対処を含めて、現在と未来の都市の在り方を見据えた戦略的な都市計画が作られ、実行に移されるようになってきた。都市の成長と将来の住民のニーズを見極め、それに適応し得る「スマートシティー」を造っていくための枠組みを整えるイニシアチブが活性化。「適切な都市計画に基づいてきちんと管理運営すれば、都市は社会・経済の包摂的な発展と繁栄の源泉となり得る。投資、優れた人材、商業、イノベーションを引き付けるという意味において、大都市は国と地域に成長をもたらす最初の入り口でもある」と語るのは「アフリカの奇跡」と呼ばれる経済成長を実現したルワンダの首都キガリの元市長で、現在は国連人間居住計画(ハビタット)の事務局長を務めるアイサ・キラボ・カチラ氏だ。現在も年間4%のペースで都市化(都市の人口増加)が進行するアフリカの都市開発は、人口増加への対応にとどまることなく、社会と経済の成長を実現するための環境を整えるという積極的な意味合いを持ち始めたといえる。

ハビタットは2018年7月に、この10年間で4本目となるアフリカの都市に関する報告書『アフリカ都市の現状2018』を発表した。同報告書は「アフリカにおける投資の地理学」を副題とし、主要都市の変遷、特に主として外国直接投資(FDI)の誘致を巡る競争力の比較を通じて、国家が開発戦略の資金を調達する最も効果的な方法として都市への投資誘致を提言する内容となっている。同報告書によると、アフリカの都市におけるFDI受け入れランキング(2003~2016年)では、カイロ(エジプト)、ヨハネスブルク(南アフリカ共和国、以下、南ア)、タンジェ(モロッコ)、ラゴス(ナイジェリア)、カサブランカ(モロッコ)、アルジェ(アルジェリア)、ケープタウン(南ア)、ナイロビ(ケニア)、アビジャン(コートジボワール)、ダカール(セネガル)、ラバト(モロッコ)、マラケシュ(モロッコ)、アクラ(ガーナ)、ダルエスサラーム(タンザニア)、チュニス(チュニジア)が上位15位に入った。カイロを筆頭に、欧州や中東に近く経済的にも進んだ北アフリカの諸都市が約半数を占めるのは驚くに値しない。

ただし、国が主導して積極的な投資誘致を展開したタンジェとカサブランカを除くと「アラブの春」の影響下で北アフリカ都市の投資受け入れはこの期間に減退した。その一方で、アビジャンやアクラ、キガリ(ルワンダ:27位)などのサブサハラ・アフリカの新興都市で投資受け入れが大きく伸びたのが注目される。いずれにしても、これらの都市が交通やネット環境、市場などの改善に取り組んだことが投資誘致に奏功したのは間違いない。

アフリカでは、農村部から都市部への人口の流入によって都市部の貧困層が増加し、都市の一部がスラム化するなどといった従来の問題も残るが、それと同時に、都市が経済的に成長すれば、多くの人々が貧困から脱却するという図式も成立する。アフリカの都市は経済成長とより良い社会の実現を加速する生産性の拠点になり得るとの見地から、ハビタットはアフリカ諸国の政府に向けて、優れた財政・法制度を基盤に、長期的な計画に基づいた都市政策を推進するよう提言している。

こうした流れの中、フランスの経営者団体、フランス企業運動(MEDEF)は2018年9月にパリで「アフリカの都市」に関する会議を開催した。フランス外務省のアフリカ・インド洋担当責任者レミ・マレショー氏は開会式の席上で「アフリカの大都市は、アフリカを苦しめる諸悪の集大成であるとともに、新たな機会に満ちた世界でもある」と述べ、計画から廃棄物処理に至る、都市開発のあらゆる側面に通じたフランス企業にとって、大きな投資機会となり得る点を強調した。同氏によると、フランス開発庁(AFD)は2014年から2016年の期間中にアフリカの都市部門に20億ユーロを投じたが、国際機関の試算によるとアフリカの都市開発には年間400億ユーロが必要であるという。マクロン・フランス大統領が2020年に開催予定のアフリカ・フランス首脳会議の主要テーマに選んだのは「持続可能な都市」であり、政府レベルの関心も高い。フランス外務省は「アフリカにおける持続可能な都市」をテーマとする自治体間協力のプロジェクト入札を実施している。

交通、住宅、電力供給、ビジネス環境、コネクティビティー、環境対策など、アフリカの都市の抱える課題は多い。アビジャンのように、この数年間でラグーンに何本も橋を架け、既存の都市環境の改善に取り組む都市もあれば、人口2,000万人を抱えて飽和状態にある首都カイロを移転するために、新都市の建設を決めたエジプトのような国もある。エジプトではこの他に12の新都市が建設される予定だ。また、セネガルは首都ダカールから30キロメートル(km)ほどの地点に新都市「Diamniadio」を建設し、高速道路と鉄道路線で結ぶ超大型プロジェクトを進めている。モロッコでも九つの持続可能な新都市が姿を現わしつつある。

ケニアの首都ナイロビのキリマニは新たなビルが林立し、国内だけでなく世界各地からデジタル部門の起業家が集まる人気の新開発地区だ。欧米並みのネット環境を提供するコワーキングスペースや外国人ビジネスマン好みのマンションもある。国内最大のインキュベーターに引かれてやってきたインド人のエンジニア、ケニア市場に進出したばかりのモロッコのメーカーの幹部、民泊するオランダ人観光客など、実に多様な人々が行き交い、活気に溢れている。そのケニアでも、ナイロビの南方60kmほどの地点で新都市の開発が進められている。これは、官庁だけでなくオフィス、研究所、住宅、大学、病院などを備えたスマートシティー「コンザ・テクノ・シティー」を建設する計画で、情報通信技術(ICT)産業と医療・ライフサイエンス産業の一大拠点として、2030年には20万人の雇用が創出される見通しだという。再生可能エネルギーの利用、節水システム、自動車の乗り入れ制限などを採用する持続可能な都市でもあり、若く活力に満ちたアフリカの未来の都市像を体現している。

(初出:MUFG BizBuddy 2019年4月)