「持てる国」アルジェリアの憂鬱(ゆううつ)

投稿日: カテゴリー: アフリカ経済・産業・社会事情

アルジェリアは、資源が豊かな「持てる国」とされる。しかし、その豊かさの背後には、石油・ガスに極度に依存した不安定な経済構造がある。石油収入により潤ってはいても、失業率は高く、社会不安がないわけではない。炭化水素資源の枯渇もささやかれ始める中で、ここしばらくのアルジェリア最大の課題は国内産業の多様化となる。

「アルジェリアには『アラブの春』は起こらない」。一部のマグレブ諸国専門家はモロッコやチュニジアでの2010年から広がった民衆蜂起を前にしても、アルジェリアでの革命には否定的な見方を示した。アルジェリアは隣国のモロッコ、チュニジアと比較すると圧倒的に豊かで革命への機運が高まらない、というわけだ。確かにアルジェリアは、資源に恵まれた「持てる国」とされる。

アルジェリアの原油確認埋蔵量は2011年1月時点で120億バレル(Oil and Gas Journal誌の推計)に上り、世界全体の1%を占めた。また、天然ガスの確認埋蔵量は同じく2011年1月時点で4兆5000億立方メートルと見積もられた。これは世界の天然ガス埋蔵量の2.37%を占め、世界第10位。ロシアとノルウェーに次ぐ欧州へのガス輸出大国(液化天然ガス(LNG)、パイプラインとも)であり、欧州のガス供給の25~30%をアルジェリア産のガスが占めている。

欧州との間では、二つのパイプライン(アルジェリア・モロッコ・スペインとアルジェリア・チュニジア・イタリア)が利用され、三つ目のメドガス・パイプライン(アルジェリア・スペイン)も完成して創業を開始している。この他、アルジェリアとイタリアを結ぶ第4のパイプライン(ガルジ)建設計画も進められている。

新たな鉱床も発見されている。政府発表によると、2011年には20件の石油・ガス鉱床が発見され、それらの確認埋蔵量は1億5700万TOE(石油換算トン)に上った。また、2012年に発見された石油・ガス鉱床は31件に達した。さらに政府は2013年6月、事前調査によると国内のシェールガス可採埋蔵量は20兆立方メートルに達し、世界第3位となると発表した。この数字は、現在の従来型ガス埋蔵量の4倍に相当する。政府はこの機会に、開発のための投資を促進し、提携を拡大する目的で適切な法令の枠組みづくりを行うと表明した。

アルジェリアの外貨収入の97%は炭化水素に由来する。アルジェリアの2012年の貿易収支は271億8000万ドルの黒字となり、輸出額739億8000万ドルのうち炭化水素が717億9000万ドルを占めた。しかし、しばらく前から炭化水素依存型の経済構造に対する批判が高まっている。炭化水素は経済的な豊かさをもたらしても雇用を創出しない。従って、他の国内産業が発展しない限り、高い失業率への不安が残る。政府や国際機関の統計によると、アルジェリアの失業率は全国平均で10%程度だが、35歳以下の層に限ると20%以上に達する。また、南部地域は特に失業率が高い。

その上、資源には限りがある。ウーヤヒア首相(当時)は2009年の大統領選直前、アルジェリアでは2030年以降、資源枯渇が原因となり原油生産が大幅に低下するであろうとの見解を示した。それを受けて、大統領選挙に立候補した6人の候補者は、いずれも炭化水素に依存するアルジェリア経済の多様化の必要性を訴えた。この大統領選で90.23%の得票率で3選を果たしたブーテフリカ大統領も、アルジェリア経済の多様化と近代化、そのための国内産業の振興策を緊急課題とした。

ガスに関しても埋蔵量が減少する一方、国内消費は今後倍増する見込みで、現状では2019年にはガスの輸出が不可能になるという見通しもある。アルジェリアはシェールガス開発に期待をかけているが、その理由は、非従来型ガスの開発以外にはエネルギー安全保障の道がないためとみられる。また炭化水素に絡んでは汚職スキャンダルも多く、ビジネス環境の健全化のためにも炭化水素依存からの脱却は不可欠であろう。

国際機関からの警告も散見される。国際通貨基金(IMF)は2011年年初に発表した報告書の中で、アルジェリアは炭化水素への依存から脱却して、若者の雇用を増やすべきであると指摘。他の産油国に比べても、アルジェリア経済には多様性が欠けているとの懸念を示した。また、欧州委員会は2012年12月6日、経済の多様化を目的とするプロジェクトに1,500万ユーロを支援すると発表した。さらに2013年5月に首都アルジェを訪問した世界銀行のアンダーセン副総裁は、アルジェリアの成長と経済の多様化を目的として、アルジェリア政府による近代化と改革プログラムを支援する用意があると述べた。

アルジェリア政府も、炭化水素に大きく依存する状態から脱却するために国が投資とノウハウを必要としていることを自覚しており、15年以上前から住宅・国土整備やメトロ・トラム・道路などの交通インフラ整備などの公共投資を進め、炭化水素以外の分野での外国企業との提携を推進している。政府は5年ごとに公共投資計画を策定しているが、2005~2009年の5カ年公共投資計画では1,800億ドル(1,550億ドルとする報道もある)、2010~2014年には2,860億ドルを投資資金として充当し、海外からの投資の呼び水にしている。

国内産業の振興策としては、観光業、農業、医薬品製造、再生可能エネルギー部門などへの支援が目立つ。例えば、政府は2008年に観光業発展計画を始動しており、230軒のホテル、25軒の複合観光施設、14軒のレジデンスホテル、19軒のモーテル、10軒のスパ施設の建設を進めた。現在のところ、国内の宿泊施設の収容能力は9万5000人分に上っている。

農業、医薬品製造部門については輸入が多いが、政府が自給率向上を図ろうとしているという事情もある。特に医薬品は国内需要の70%を輸入に頼っているが、政府は国内生産の奨励のために輸入禁止の医薬品リストを増やしている。2011年には、医薬品の国内生産を5年間で倍増させるため、国営製薬大手サイダルに170億アルジェリア・ディナールを投資した。

政府は2014年までに、医薬品需要の70%を国内生産で賄うことを目標に掲げ、外国企業の誘致にも積極的に取り組んでいる。フランスの製薬大手、サノフィなどはアルジェリアに進出して、地元企業との合弁会社を通じて国内生産増強に寄与している。米国の大手製薬企業も、アルジェリアを中東および北アフリカ市場への製品供給の足場とすることを考え、特にバイオ部門の進出に関心を寄せている。政府は、2020年までに世界第4位の規模を持つバイオテクノロジーの先端拠点を国内に整備するプロジェクトを進行中で、米国研究製薬工業協会(PhRMA)と交渉を続けている。英国のグラクソ・スミスクラインやアストラゼネカなども、アルジェリア市場の拡大に意欲を見せている。

穀物生産以外の農業部門では、近代農業のノウハウ移転への関心が高い。2013年5月にはオランダ政府との間で、ゲルマ県にパイロット酪農牧場を開くプロジェクトへの技術支援で合意が成立した。この提携は3年間をめどとして実施される。酪農は近年、発展への期待がかかる部門である。過去4年間で10万頭の未経産牛が輸入され、牛乳の生産量は、2009年の2億リットルから2012年には7億リットルに増加した。国営ホールディングカンパニーのSGP-Prodaも最近、16のパイロットファームへの投資に関して関心表明を募集すると発表した。穀物、青果、畜産が対象で、外国企業も応募できる。合弁企業を設立し、新設備の導入を通じて農業経営の近代化を目指すという。

この他、再生可能エネルギー部門に関して政府は、2030年までに再生可能エネルギー由来の電力生産能力を2万2000メガワット(MW)まで引き上げ、うち1万MWは輸出するという野心的な再生可能エネルギー開発・エネルギー効率プログラム(PENREE)を立てている。PENREEは国内発電の40%を再生可能エネルギーで賄うという目標も掲げており、その内訳は70%が集光型太陽熱発電で、残りの30%は風力、太陽光、地熱となる。さらに、再生可能エネルギー関連製品の国内調達率を80%に引き上げることを目指している。

こうした経済多様化に向けた取り組みの効果は、現時点では今一つの状態にある。国立情報処理・統計センター(CNIS)が2013年7月21日に発表した統計によると、アルジェリアの2013年上半期の輸出額は前年同期比5.24%減の359億ドルとなった。炭化水素の輸出額が7.05%減少する一方、炭化水素以外の輸出額は66%増加した。

炭化水素が全体に占める割合が96%へと微減し、輸出品目の多様化が進んだように見えなくもないが、実際はそうでもない。まず同期は原油価格が下落傾向にあり、1バレル100ドルを割ったために炭化水素の輸出額が減り、自動的にそれ以外の品目が増えたように見えてしまっている。その上「炭化水素以外の輸出品目」といってもそのほとんどを「炭化水素派生品」が占めている。加えて、もともと炭化水素以外の品目の輸出は微々たるものであるため、これが66%増加することに大きな意味はない。

アルジェリアはビジネス環境が悪いというイメージがあり、炭化水素部門や大規模な公共事業以外への融資がチュニジアやモロッコに比べるとそれほど盛んではなかったが、このような状況を改善するために外国企業の誘致に乗り出している。ただし、これもその努力が結実したとは言い難い。世界銀行の2012年ビジネス環境ランキング(Doing Business 2012)でアルジェリアは、183カ国中148位と前年のランキングから5位後退、46位のチュニジアに大きく水をあけられている。

また、観光業に注力しているものの、世界経済フォーラムが発表した2013年の旅行・観光競争力ランキングでは、アルジェリアは140カ国中132位。前回のランキングから7位上昇して71位になった隣国のモロッコとの差が目立った。世界経済フォーラムが2012年9月に発表した国際競争力ランキングでも、アルジェリアは144カ国中110位にとどまっている。特にイノベーション、制度、消費市場の効率性、金融市場の発展水準、労働市場の質といった基準で評価が低かった。政府機関の効率、融資へのアクセス、汚職、労働者の訓練水準、インフラなどでも評価が低かった。ここでもモロッコは70位とアルジェリアを上回った。

汚職やインフォーマル経済がアルジェリア経済をむしばんでいる、という状況を改善すべく政府が対策を取っているようにも見えるが、トランスペアレンシー・インターナショナルが7月9日に発表した2013年の腐敗認識指数では、対象となった107カ国中、アルジェリアは105位となり、この点でも大幅な改善の余地があるようだ。

また、2009年に導入された措置では、外国企業の過半数出資を禁止しており、アルジェリアに進出する外国企業は必然的に地元企業との合弁を強いられるが、政府は「外国企業は同措置を受け入れている」として、一部の国から批判の声もあるこの措置を撤廃する意向はない。

アルジェリアは、炭化水素の輸出による外貨収入に寄りかかることが可能であるだけに、思い切った改革を実施する必要性に迫られることがない。こうした事情が、失業者の増加や汚職、インフォーマル経済のまん延を招いた。資源の枯渇や高水準の失業率などを前に、国内の他の産業への投資の呼び込みやノウハウの移転促進は急務といえる。しかし、長年にわたって形成された体質から抜け出すのに苦労している現状がうかがえる。「持てる国」アルジェリアの経済多様化への道のりは長そうだ。

(初出:MUFG BizBuddy 2013年9月)