地球温暖化とフランスのスキー産業

投稿日: カテゴリー: フランス産業

フランスのスキー産業は、降雪の減少と、環境派による反対運動を前に、将来に対する危機感を強めている。特に、標高が比較的低いスキー場では近いうちにもスキーができなくなるのではないか、との恐れが高まっている。どのような形で多角化を図るべきか、ほかのアクティビティを通じてスキーと同レベルの収入を確保することは可能なのか、模索が続く。

フランスの一大産業であるスキー
スキーは、フランスにおける一大産業である。フランス会計検査院によると、フランスのスキー場を訪れる客は2021~2022年のシーズンに年間5,390万人に達したという。これは米国の6,100万人に続く、世界第2位である。フランスのスキー場は、アルプス山脈の大規模なものから、同山脈の周辺部、ピレネー山脈、中央山塊、ヴォージュ山脈、ジュラ山脈などの中・小規模のものまで約350カ所に及ぶ。さまざまなサイズがあるのが、ほかのスキー大国と比べて際立った特徴である。これらのスキー場の多くは、1960~1970年代にかけて建設されたものであり、スキー場の発展に伴い多くの宿泊施設も建設された。フランス国内で観光客が過ごす宿泊日数のうち、スキー場をはじめとする山の観光地が占める割合は22.4%である。スキー場の利用券に相当する、リフト乗車券がもたらす年商は、16億ユーロに達する。ただし、年商の90%は95カ所の大型スキー場によって稼ぎ出されたもので、集中化が進んでいることが分かる。2021年時点で、スキー産業の直接雇用は1万8000人、間接雇用は12万人である。

スキー客数は、2008~2009年シーズンの5,860万人をピークに緩やかに減少している。ただし、皆が外出制限に苦しんだコロナ禍を経て、スキー客数は増加に転じた。スキー場に関するデータを収集するObservatoire National des Stations de Montagneによると、フランス国内における2021~2022年シーズンのスキー客数は5,390万人となり、2020~2021年シーズンの4,490万人から大幅に増加。2019~2020年シーズンの5,340万人に比べても増加を記録した。

フランス政府はスキー場の発展に大きな役割を果たしてきた。1964~1977年にかけて、政府は「雪計画(Plans Neige)」と呼ばれるスキー場整備に向けた振興計画を進めた。時代は経済成長期。それまで富裕層のみが享受していたスキーという娯楽を、一般の人々も楽しめるようにするという目標が、計画の原動力となっていた。1968年にグルノーブルで冬季オリンピック・パラリンピックが開かれたのは、象徴的な出来事だった。その後1985年には「山岳の開発と保護に関する法(通称:山岳法)」が制定された。この中で、スキーリフトは「公共サービス」とされ、地元自治体が責任を持つこととなった。すなわち、自治体が直接的にリフトを運営する、もしくは民間業者にその運営を委託することとなった。スキーの将来が懸念される中、政府は2021年、スキー場のエコロジー移行、アルペンスキーへの依存の軽減、スキー以外のアクティビティの発展などに向けた「山岳地帯の未来プラン(Programme Avenir Montagnes)」を開始している。

降雪量の減少に苦しむスキー場
地球温暖化による雪不足はすでに現実となっている。フランスにおいても、標高が比較的低いスキー場、すなわち主に1960年代に建設された2,000メートル未満に位置するスキー場において雪不足は著しい。スキーシーズンがはじまる12月であるというのに営業できない、もしくはスキーシーズン中であるのに雪がないため営業の一時停止を余儀なくされた、というスキー場が出始めている。雪不足に加え、地盤が緩み、崩落などの問題に直面するスキー場もある。

グルノーブルにある雪に関する研究所の元所長であるサミュエル・モラン氏によると、雪不足の原因は、こうしたスキー場があるゾーンで、降雪の代わりに降雨が多くなったことに加え、雪が以前に比べてより早く解けるようになったことであるという。フランスでは、2,000メートル未満の場所において雪が地表を覆う期間が、2021年時点で1970年代と比較すると1カ月短くなった。この期間は、今後数十年の間にさらに数週間短くなるとみられている。

フランス会計検査院が2018年に発表した報告書によると、スキー場が採算性を確保するには、年間100日間以上の営業が条件とのこと。スキーシーズンは12月1日から翌年の4月15日までというのが通常で、この間に100日間営業できるスキー場は、標高の高いアルプス山脈北部のスキー場がほとんどである。ピレネー山脈のように標高が比較的低いスキー場は、地元の補助金のおかげで運営を続けているものがほとんどであるという。これらのスキー場に関しては、小さい施設が分散していることも問題として挙げられている。

前出のモラン氏によると、アルプス山脈北部にある標高の高い大型スキー場は、比較的温暖化の影響を受けないとみられ、今後その魅力が上昇すると予想される。すなわち将来的には、こうしたスキー場にスキー客が集中する可能性があり、それは「皆にスキーを」という1960~1970年代の政府のスローガンがまったく骨抜きになる恐れがある、ということだ。

毎年、標高1,600メートルほどのスキー場において家族でスキーを楽しむ私の同僚は、以下のような経験談を語ってくれた。
「最高点の標高が3,450メートルに達し、雪がいつでもあるアルプス山脈北部のティーニュのようなスキー場は、宿泊施設を含め価格が高く、なかなか手が出ない。仕方がないので、もう少し標高の低いスキー場に行くことになるが、宿泊施設や子供のためのスキー学校は、人気があるためかなり前からの予約が必要となる。いつも民泊で一軒家を借りて2、3家族でシェアするのだが、できるだけ直前までキャンセルが可能なところを探して、最後まで積雪量はチェックするようにしている」

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2019年にまとめた世界のスキー場に関する報告書によると、いかなる排出量予測においても、標高の低い場所における積雪の平均的な厚みは、2031~2050年にかけて、1986~2005年の時期と比較して10~40%薄くなる。2081~2100年にかけて、この減少幅は50~90%に達するという。

地球温暖化を前にしたスキー場の状況に懸念が高まる中、フランス会計検査院は2024年2月、「地球温暖化に直面するフランス山岳地帯の観光地」と題された報告書を発表した。その内容は以下のようなものである。
・降雪量の不足、スキー客数の全体的な減少に伴い、より多くのスキー場が赤字に陥っている。
・2050年には、ほぼすべてのスキー場に悪影響が出るとみられる。
・スキー場は未来に対する予測が甘く、地球温暖化を考慮した投資計画がみられない。

その上で報告書は、以下のような勧告をしている。
・現状は小さなスキー場が分散して存在しているため、これらをまとめるような新たなガバナンスを設置するべきである。
・エネルギー使用量の削減や、不要なリフトの解体など、自然を重視した政策を進めるべきである。
・スキー場の収入の一部を、スキー場のエコロジー移行に活用するべきである。

標高が比較的低いスキー場には「スキーからの脱却」という問題が、標高が比較的高いスキー場には「今後も、スキーを主要なアクティビティとして維持し続けるのか」という問題が立ちはだかる。

山の産業の多角化
スキー場も手をこまねいているわけではなく、多角化を進めつつある。ジュラ山脈にあるメタビエは、スキーからの事業転換を積極的に進めている先駆的な場所である。そのスキー場の標高は900~1,400メートルで、2030年代半ばにはスキーができなくなることを想定している。2022年には、季節に関係なく利用できるリュージュ場をオープンした。その他、トレイル、スノーシューでのハイキング、マウンテンバイク、ノルディックウォーキングといったアクティビティができるような整備を進めている。

こうした取り組みは、そのほかの標高の低いスキー場も着手し始めており、「季節に関係なく」できるアクティビティの推進がこうしたスキー場のスローガンだ。スポーツだけでなく、科学的な展示、スパ、星の観測などを通じて観光客誘致を進めるスキー場もある。2020年には、フランスのスキー場のうち238カ所が、2037年にカーボンニュートラルを達成するという目標を掲げた。利用されないリフトは解体し、放棄されたスキー場は原状回復する予定である。

しかし、状況は厳しい。フランスとイタリアの国境にまたがるモンブラン周辺のスキー場を運営するCompagnie du Mont Blancでは、売上高の45%を夏に稼ぎ出すに至ったそうだが、これはもっぱらモンブランの魅力に負うところが大きい。ほかのスキー場においては、夏季営業が年商に占める割合はわずか3~4%にすぎないという。夏の観光では、どうしてもスキーほどの売上を生み出さないのだ。フランス会計検査院は、スキー場による多角化が、「スキー場モデル」を再現しがちであると指摘している。すなわち、スキー場と同様に多額の初期投資を行い、多くの客を見込んだ夏のアクティビティを提案しがちであり、それでは成功は見込めない、ということだ。

「スキーにはもう行かない」
さて、筆者は2023年の秋、あるゲームの合宿に講師役として招かれた。場所は、フランス東部、アルザス地方とロレーヌ地方にまたがるヴォージュ山脈の南部である。招いてくれたのは、ドイツとの国境近くにある、私が10年ほど前に住んでいた都市ストラスブールのクラブだ。

ストラスブールは、2020年に環境派政党ヨーロッパエコロジー・緑の党(EELV)所属のジャンヌ・バルセギアン市長が就任して以来、町中から車をできるだけ排除するとともに自転車道を大幅に整備するなど、環境重視の政策が進められてきた。これについては反対派も少なくなく、次回の選挙で環境派政党が市政を維持できるかどうかはあやしい、との噂もある。しかし、私を招いてくれたクラブの人からは、環境意識の高まりを感じさせる発言が多く聞かれた。具体的には「もう飛行機には乗るのはやめにした。いまだに世界中を旅しているベビーブーム世代の両親とは時々喧嘩になる」といった発言で、10年前には聞いた記憶がないものだ。環境派政党が市政を握るに至ったのは、「フライデーズ・フォー・フューチャー」のような運動に端を発するのであろう、こうした意識の転換が根付き始めるきっかけになったのだな、と思わせた。

そんな中、初めて聞いたのが「もうスキーには行かない。スキー場に行くため、スキー客向けの物資を輸送するために必要な交通手段、人工造雪機などスキー場全体を動かすために必要なエネルギー、そしてそれが引き起こす排出量を考えてみろよ」という合宿のメインオーガナイザーの言葉だった。実際、環境派政党は現在、スキー産業のモデルに対する批判を強めており、そのせいで、スキー場を巡る国土計画の実施が撤回される、といったケースが出始めている。

最後に、もう一つ余談をさせていただく。先日、フランス人の友人と地中海に浮かぶコルシカ島に行った。私にとってはじめてのコルシカ島で、歴史に詳しい友人に色々と説明してもらった。コルシカ島は山がちで、平野は東岸に集中しているが狭い。地中海にありながら、現地の人々は貿易のために海へ出ていく習慣はなく、海賊の襲撃を恐れて山に住み、ヤギや牛を育てたり、栗を栽培するのが主であったという。歴史的に見てもほとんど産業はなく、銀を産出した隣のサルデーニャ島に比べて貧しい土地だったそうだ。男女共に相続する権利があったが、男は少ないながらもお金を生み出す山側の土地を相続し、女は価値の低い海側の土地を受け継いだのだという。ところが、観光業が生まれると、その価値は逆転。海側が圧倒的に豊かになり、山側が貧しくなった。山から産業を生み出す難しさを感じさせる話だった。

なお、コルシカ島にも3カ所のスキー場がある。多くの降雪に恵まれた2022~2023年と異なり、2023~2024年にかけての冬季には雪が不足し、いずれも営業されなかったという。これらのスキー場も、今後の身の振り方に頭を悩ませている。

さて、私が講師役を務めたゲームの合宿は、ヴォージュ山脈南部のスキー場ジェラールメールのすぐそばにある一軒家を借りて行われた。ヴォージュ山脈のスキー場の最高点は1,350メートルだそうで、こちらも降雪量が減りつつある地域である。参加人数は私を含めて総勢15人ほど。皆でガソリンもしくはディーゼル車を借りて現地に向かい、寒い季節になってきたということで、夜はチーズフォンデュを分かち合い、あまりに買いすぎて食べ残しも少なくなかったが、皆、満足して散会したのだった。結局、移動をはじめとしてそれなりに二酸化炭素を排出し、チーズ生産にあたって牛が排出したメタンガス、食品廃棄物も考慮すると、それなりに地球を汚した週末となってしまったかもしれない。

出典
フランス会計検査院の報告書:
https://ccomptes.fr/sites/default/files/2024-02/20240206-Stations-de-montagne-face-aux-changements-climatiques.pdf
その他の参考資料:
https://www.geo.fr/environnement/changement-climatique-un-avenir-sans-neige-pour-les-pistes-de-ski-206556
https://bigmedia.bpifrance.fr/decryptages/lavenir-des-stations-de-ski-face-au-dereglement-climatique
https://www.huffingtonpost.fr/environnement/video/les-stations-de-ski-vont-elles-disparaitre-avec-le-rechauffement-climatique-clx2_222370.html
https://www.montagnes-magazine.com/actus-alpes-sud-avenir-ski
https://www.nationalgeographic.fr/environnement/quel-avenir-pour-les-stations-de-ski-dans-un-monde-en-rechauffement-changement-climatique
https://actu.fr/occitanie/bagneres-de-luchon_31042/pyrenees-l-avenir-s-obscurcit-pour-des-stations-de-ski-ils-appellent-a-un-grand-coup-de-balai_60813787.html
https://www.lefigaro.fr/conjoncture/les-positions-se-durcissent-a-la-montagne-domaines-et-associations-ecologistes-s-affrontent-sur-l-avenir-du-ski-20240414
https://www.geo.fr/voyage/climat-lavenir-fragile-du-ski-en-france-dapres-la-cour-des-comptes-218690
https://www.lavenir.net/actu/monde/2023/11/22/dans-les-vosges-les-stations-de-ski-doivent-sadapter-les-mauvaises-saisons-cest-presque-tous-les-ans-TNHU3TGKWZADXGVT6EWEU34Z3A/
https://www.montagnes-du-jura.fr/decouvrir/en-ete/metabief-en-ete/
https://www.corsematin.com/article/environnement/50214475363634/en-corse-sans-leur-or-blanc-les-stations-de-ski-pesent-sur-les-finances-publiques-des-petites-communes
https://www.corsenetinfos.corsica/Quel-avenir-pour-les-stations-de-ski-en-Corse_a75791.html
https://www.univ-grenoble-alpes.fr/actualites/the-conversation/environnement/the-conversation-dans-les-hautes-alpes-les-stations-de-ski-a-l-epreuve-du-changement-climatique–1211316.kjsp

(初出:MUFG BizBuddy 2024年5月)