アフリカによる古着の大量輸入、産業や環境への弊害も深刻化

投稿日: カテゴリー: アフリカ経済・産業・社会事情

アフリカには先進諸国から古着が大量に輸出されている。元来は慈善事業から始まった輸出だが、これがビジネス化した結果、アフリカは世界の古着のゴミ置き場となりつつある。現地の繊維産業は育つ余地を失い、放置された古着の山が環境にも大きな悪影響を及ぼしている。こうした中、古着の輸入制限やアップサイクリングなど新たな取り組みも出てきた。

2022年11月24日、フランスの首都パリの中心部シャトレ地区の繁華街にある広場で、1,000kgもの大量の古着が広場中にばらまかれるという示威行動が行われた。この日は、11月25日金曜日に始まる消費の祭典、アメリカ由来のビッグバーゲン「ブラック・フライデー」の前日であり、示威行動を組織したのは、アフリカへの古着の大量流入に警鐘を鳴らすためにフランスを訪問したガーナの代表団等だった。

大量消費の時代にあって、欧米を中心に回収される古着の多くがアフリカに大量流入していることは周知の事実だ。繊維部門のインテリジェンスツールTexProによる集計では、2021年にアフリカが輸入した古着は金額にして18億4000万米ドル(以下、「ドル」とする)に達し、前年比28.84%の急増を記録した。輸出国では中国(6億3400万ドル)が初めて欧州連合(EU)(5億7200万ドル)を抜いてトップとなり、米国(1億5800万ドル)、英国(6,600万ドル)がこれに続いた。2021年に最も多く古着を輸入したアフリカの国はケニア(2億4800万ドル)で、ガーナ(2億1100万ドル)が2位だった。

ガーナの首都アクラにあるカンタマント市場は世界でも有数の古着市場で、毎週1,500万点の古着が並び、3万人が就労している。

2022年11月にフランスを訪れたガーナの関係者によると、クレジットカードによる信用払いの普及やファストファッションの流行に伴い先進国で衣類の過剰消費が進んだ結果、アフリカへ輸出される古着の中には、再利用が不可能で廃棄するしかない低品質のものが急増しているという。アフリカへの古着の輸出は慈善活動に端を発しているが、これがビジネスとなり、さらに廉価品が増えたことで、古着の再利用という元来の存在意義が危うくなりつつある。その結果として現地では、古着取引で生計を立ててきた人々の生活が脅かされるだけでなく、廃棄処理されないまま放置された古着による巨大なゴミの山ができたり、海に流された古着が逆漂着して海岸を埋め尽くし、ウミガメが産卵しに来なくなったりと生態系破壊の問題も生じている。ガーナに輸入された古着のうち約40%が再利用には回らず、こうした運命をたどっているという。

従来、先進諸国からアフリカ諸国への古着の輸出に関しては、輸入国の繊維・衣料産業を崩壊させるという問題が指摘されてきた。この問題を白日のもとに晒し出したのが、ルワンダ政府が実施した、輸入古着(靴を含む)に対する関税の大幅引き上げだ。自国の繊維産業の育成を理由に古着の輸入を禁止する方針を決めたルワンダは、まず2016年に輸入古着にかかる関税を1kg当たり0.2ドルから2.5ドルへ引き上げ、2018年予算案ではさらに4ドルへと引き上げた。これに怒ったのが米国のリサイクル資材・繊維業界の団体で、米国政府に対してロビー活動を行い、これを受けた当時のトランプ政権は、ルワンダへのアフリカ成長機会法(AGOA)の適用を停止する措置を決めた。

米国が2000年に制定したAGOAは、政治・経済上の一定条件を下に適格国と認めたアフリカの国に対し、米国への輸出品免税枠を大幅に拡大するもので、AGOA導入後、アフリカ諸国から米国への衣料品の輸出が増加したのは事実である。しかしながら「衣料品を輸出しようにも、米国等からの古着の流入に押されて自国の衣料産業を育てようがない」というのがルワンダ側の論理だ。米国が報復措置として撤廃したのはルワンダからの「すべての衣料輸出品に対する免税措置」のみであり、これはルワンダから米国への輸出の3%(2017年の試算値で130万ユーロ)に過ぎない。そのためルワンダとしては、この免税措置がほごになっても大きな影響はないと判断したと見られる。なお、ルワンダと同様の強硬姿勢を見せていた隣国ウガンダとタンザニアは、米国の報復措置を恐れて古着の輸入禁止へ向けた措置は実行していない。

こうした政府レベルでの対決姿勢とは別に、個人レベルでの活動をベースに何とか流れを変えていこうとする動きも見られ始めた。
ウガンダのデザイナー、ボビー・コラド氏は、2022年春に自身のブランドBUZIGAHILLをスタートさせたのに合わせて「Return to sender」というコレクションの展開を始めた。コラド氏は、ヨーロッパのメゾン・マルジェラやバレンシアガといった高級ブランドで経験を積んだ後、2018年に祖国ウガンダに戻った。しかし、繊維工場が2つしかなく、市民のための衣料を製造しようにも素材が入手できないという自国繊維産業の惨憺たる状況を目の当たりにしたことで、古着問題への取り組みを始めた。「Return to sender」コレクションは、国外から大量にもたらされる古着を素材としつつ、シャープで現代的な服をデザインして製造し、主に欧米への逆輸出を狙う、まさに「古着の差出人への返送」であり、リサイクルから新たな価値を創出しようというアップサイクリングの手法としても位置付けられる。

製品はすべて一点物。値段はTシャツが200ユーロ、ジーンズが375ユーロ、フード付きトレーナーが400ユーロとウガンダの一般市民には手が出ない高額商品で、ターゲットは主に先進国の顧客層だ。ただし、コラド氏はその先に「Return to sender」コレクションで確保した売り上げを地元のクリエイターの育成に振り向けていく活動を構想している。自身が率いるNPOを通じて、国内のクリエイターたちが国際市場に販路を広げていくための支援活動を行うと同時に、今後5年間で1,000人の雇用創出を伴う新たなバリューチェーンを構築しようという意欲的な構想だ。さらに、コラド氏は次のコレクションとして、ウガンダの一般市民も購入できるような価格帯の製品も準備中だという。

ところで、上述のフランス、パリでの古着放出の示威行動にも参加したNPO「The Or Foundation」は2022年6月、中国資本のオンラインショッピング・プラットフォームであるSHEIN(シーイン)との間で、衣料分野での拡大生産者責任に関する複数年合意を成立させた*。こうした合意が成立したのは初めてである。The Or Foundationはガーナと米国に拠点をおくNPOで、衣料廃棄問題の分野で積極的な活動を行っている。今回の合意によれば、シーインは今後5年間にわたり衣料廃棄物管理の改善に5,000万ドルを投入することになる。

2022年11月にフランスを訪れたガーナの関係者は、慈善活動の一環で古着の回収を行っているEmmaus(エマウス)やOxfam(オックスファム)等のNPOの代表と会合したほか、フランス政府の代表としてエコロジー移行省の循環経済・廃棄物担当顧問とも会合した。フランスでは、衣料品の拡大生産者責任に係る税はRefashion(リファッション)という組織で管理されており、ガーナ側は、古着が輸出されてその最終処理を外国で行わなければならない以上、古着の輸出に付随させる形でリファッションが管理する資金を国外に振り向ける仕組みを導入してほしいとフランス政府に望んだが、これは受け入れられなかった。

国際貿易センターの統計によると、フランスからは年間17万1000トンの古着がアフリカを中心とする諸外国に輸出されている。輸入国の1つであるセネガルの受け入れシステムを見ると、セネガルの卸売業者は、古着を回収するNPO等から古着を仕入れ、ジーンズの45kgの包みなら76~106ユーロ/包、アフリカの若者に人気のサッカーのユニホームの包みであればその倍の値段を払う。Tシャツであれば卸業者が払う仕入れ値は1枚あたり0.45ユーロで、市場での小売値はその倍以上になるという。

ところで、欧米では若者を中心とする市民の衣料消費の傾向に変化が見られ始めているのも事実だ。Observatoire Natixis Paymentsの調査結果によると、フランスでは2021年に国内の古着消費が2019年比で140%以上の増加を記録し、2028年には古着購入がファストファッションの購入を上回るだろうとの予測も出ている。古着を購入するフランス人は2018年には全体の16%止まりだったが、2021年には39%まで増加した。古着購入者の48.8%は、環境への悪影響を軽減することが理由とも説明している。

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* https://www.prnewswire.com/news-releases/the-or-foundation-et-shein-jettent-les-bases-d-un-changement-global-avec-un-fonds-pluriannuel-de-responsabilite-elargie-des-producteurs-883341576.html

(初出:MUFG BizBuddy 2022年12月)