国内生産振興と「メイド イン フランス」の現状

投稿日: カテゴリー: フランス産業

2021年11月11日から14日まで開催された国産製品の見本市、MIF(Made in France)エクスポは、国産品に関する国民の関心の高まりをうかがわせる機会となった。政治家も国内生産の振興を重要な政策課題として掲げている。フランス企業の国内生産に向けた取り組みをいくつか紹介する。

パリ市内のポルト・ド・ヴェルサイユ見本市会場で、「メイド イン フランス」製品の見本市、「MIF(Made in France)エクスポ」が2021年11月11日から14日まで開催された。開催は今回が9回目で、前年の2020年は新型コロナウイルス危機のためバーチャル開催となったが、今回は通常開催が復活した。出展者数は、2019年の570に対して、2021年は830と大きく増えている。2019年の入場者数は8万人強、2021年は10万人だった。

「メイド イン フランス」は、しばらく前より政治議論における主要なテーマの一つに浮上している。フランス全土でグローバル化への批判の声が高まり、さまざまな切り口から主権擁護の主張が声高に展開される中で、国内生産の保護が国の主権と独立性の維持と絡めて語られる機会が増えている。雇用の維持と創出という従来の論点に加えて、外国製品の生産と輸送に係る環境負荷の軽減という観点からも、国内生産の還流と振興を求める声は高い。政府も、新型コロナウイルス危機を通じて明らかになった対外依存の緩和を目的に、復興プランなどの枠内で国内生産の振興を図っている。医薬品に始まり、足元では不足が目立つ半導体など、取り組むべき課題は多い。MIFエクスポは消費財を主体とする見本市であり、踏み込んだ政策議論をするには不向きな機会だが、ちょうど大統領選挙を5カ月後(2022年4月)に控えて、大統領選挙への出馬に意欲を見せる候補者らはそれぞれ会場に姿を見せ、「メイド イン フランス」を後押しする姿勢をアピールした。

今回の見本市の機会には、国産製品が取得できるラベル制度「メイド イン フランス(ファブリケ・アン・フランス)」の新たなロゴが公表された。このラベルは、工業部門の経営者団体フランス・アンデュストリが運営するもので、実質的な最終加工地が国内であることを要件とする。これ以外にも、より基準の厳しいラベルがあり、例えば、「オリジーヌ・フランス・ギャランティ」の場合は、製造原価の50%相当がフランス国内で発生していることが条件となる。繊維製品を対象にした「フランス・テール・テクスティル」の場合は、製造工程の75%以上がフランス国内に位置することを求めている。

具体的な国内生産のプロジェクトも盛んに報じられるようになった。医薬品の有効成分を製造するセカンス(Seqens)社の場合は、アセトアミノフェン(パラセタモール)の国内生産再開に向けて、ルシヨン市(イゼール県)に新拠点を整備した。2021年9月に、カステックス首相の列席を得て、拠点の開所式が行われた。政府は、新型コロナウイルス危機の教訓を踏まえて、対外依存を解消する目的でこの投資計画を後押しした。

アセトアミノフェンは解熱鎮痛剤として、市販の感冒薬などに広く調合されている。必須医薬品の一つではあるが、フランスの国内生産は2008年に終了し、アジアからの輸入に依存していた。セカンス社も、中国の2工場でアセトアミノフェンを製造してフランスに輸入し、国内で感冒薬を製造する企業に供給していた。ちなみに、フランス国内では、大手サノフィが「ドリプラーヌ(Doliprane)」の商品名で、またUPSA(大正製薬傘下)が「エフェラルガン(Efferalgan)」の商品名で、それぞれアセトアミノフェンを主成分とする市販薬を製造しており、いずれもセカンス社から原料を調達している。

新拠点の建設は2022年初頭に開始される。既存の製造拠点に併設する形で整備され、投資額は1億ユーロに上る。社内で開発した新たな合成技術を導入した新拠点となり、エネルギー消費を削減し、従来の施設と比べて環境負荷を最大で20%減らすことができる。年間生産量は2023年より1万トンとなる予定で、これは欧州の需要の3分の1に相当する。上記の国内2社にまず供給されるが、両社は長期契約を結ぶことにより、国内生産を支援した。

小型食洗器を国内製造するダーン・テックの場合
「メイド イン フランス」見本市で注目を集めた製品の一つが、小型の食洗器「ボブ(Bob)」だった。これは、バンデ県のベンチャー企業ダーン・テック(Daan Tech)の製品で、食洗器を製造しているのはフランス国内では同社のみとなっている。

同社は2016年に、ダミアン・ピー氏とアントワーヌ・フィシェ氏が設立した。社名は両氏のファーストネームの最初の2文字からとられている。同社は小型食洗器を開発し、当初はバンデ県内の家電工場S20アンデュストリ社に企画を持ち込んだが、2019年にプロジェクトの凍結が決まったことから、自前の工場(3,000平方メートル)を同じバンデ県内に確保し、自ら製造に乗り出すことを決めた。2021年中には3万5000台を販売する計画で、1,000万ユーロ程度の売上高達成を目指している。

「ボブ」は、食洗器本体の上部より水を入れ、流し台に排水することができる。工事不要で柔軟に設置できる点を売り物としている。性能面では高級品に劣らないのもセールスポイントで、インターネット販売のほかに、量販店(ブーランジェ、ダルティなど)でも取扱商品となった。一人暮らしや子供のいない家庭など、備え付けの大型食洗器を稼働させる必要のない場合に手軽に使えるサブ機としての需要を発掘。購入者の3分の1は高齢者が占めるという。価格は250-450ユーロ。国内向け販売に加えて、ベルギー、ドイツ、スペイン、台湾、香港に輸出実績があり、近く日韓市場でも販売を開始する。アジア市場では、フランス製という特徴がアピールポイントになると期待している。北米市場でも2022年に発売を予定する。エスプレッソマシンに着想を得た洗剤カセットの販売も開始した。

眼鏡販売のクリスは国内生産を拡大
眼鏡販売大手のクリス(Krys)では、2023年からレンズの国内生産を30%増やす方針で、そのための投資計画を発表した。パリ首都圏のバザンビル市(イブリーヌ県)にある工場に1,600万ユーロを投資する。クリスはこのプロジェクトに、国内生産の振興を目的とした政府の支援制度「テリトワールダンデュストリ」から80万ユーロの補助金を得た。これは、国内雇用の創出(現在の同工場の従業員数150人に加えて50人を採用)と連動する補助金となっている。

同工場は現在、年間120万枚のレンズを製造している。これは、クリスの国内販売の20%に相当する。クリスはこのほか、仏大手エシロールを含む各社からの随時調達により20%を賄っている。残りの60%が、HOYAからの提携合意の枠内での供給となっている。バザンビル工場での生産量は年間40万枚分が追加されるが、HOYAからの供給分の一部を国内生産に切り替える。

国内生産は10-15%割高となるが、クリスでは、顧客の反応は良好であるという。遠近両用レンズなど高付加価値の製品を、割高のフランス製製品を売り込む切り口にする構え。

(初出:MUFG BizBuddy 2021年11月)