アフリカのプラスチック廃棄物対策はポリ袋の禁止から

投稿日: カテゴリー: アフリカ経済・産業・社会事情

アフリカでは環境汚染の元凶とされるプラスチック廃棄物を削減すべく、ルワンダやモロッコ、タンザニア、南アフリカなど、多くの国がポリ袋の生産や利用を禁止しており、その数は54カ国中34カ国に上る。一方で、プラスチック廃棄物のリサイクルも行われるようになり、再生プラスチックを原料としたさまざまな製品も開発されている。

プラスチック製品の増加とそれに伴う廃棄物の問題は、世界中のあらゆる地域で問題となっている。アフリカでは、新たな中流階級が台頭し、伝統的な商店・市場と手工業品が郊外の大型店と工業製品に取って代わられ、プラスチック製品の利用が大きく増加する一方で、廃棄物を処理するためのインフラはかなり不足している。一部のアフリカ諸国ではプラスチック廃棄物による環境汚染が深刻で、観光、保健、水質、土壌などに悪影響を与えている。

こうしたプラスチック廃棄物の問題に取り組むため、アフリカ諸国の多くはポリ袋の利用を規制している。最近では2019年6月1日に、ポリ袋の使用と生産を禁止する法律がタンザニアで発効された。タンザニア政府は環境汚染の元凶であるプラスチック廃棄物の削減に向けて、ポリ袋の輸入、生産、販売、利用の禁止を決めた。これに違反してポリ袋を生産あるいは輸入した者は10億タンザニア・シリング(40万ユーロ:執筆時点)の罰金と最大2年間の禁固刑を科せられ、ポリ袋を所持・利用した者には87ドル(約9,400円)の罰金と7日間の禁固刑が科せられる。

国連環境計画(UNEP)によると、世界127カ国がなんらかの形でポリ袋の利用を規制しており、うち91カ国、アフリカでは54カ国中34カ国がポリ袋の生産、輸入、販売を禁止あるいは制限している。これは世界中のどの大陸よりも高い比率だ。

これらの規制の効果は国によってさまざまで、10年以上前にポリ袋を禁止したルワンダはアフリカでポリ袋を追放することに成功した国のひとつとして名高い。ルワンダでは2004年にポリ袋を禁止する法律が制定され、2008年に発効となったが、国内ではポリ袋がほとんど生産されていなかったため、禁止令に大きく反発する業界や雇用維持の問題がなかったこともこの成功に起因した。他のアフリカ諸国で散見される、ポリ袋が枝に引っかかった木々やプラスチック廃棄物のあふれる河川敷といった風景はルワンダには無縁だ。人々は紙や布の買い物袋を利用し、キガリ空港に到着した観光客も免税店でもらったポリ袋を空港内のリサイクル用ゴミ箱に捨てるように求められる。

ルワンダでは何年も使えるような厚手のものを除いて、ポリエチレン製の袋の生産、輸入、利用が禁止されている。取り締まりも厳しく、税関ではコンゴ民主共和国からの密輸に目を光らせ、警察による商店内の立入検査で違反が見つかった場合、罰金にとどまらず、商店の閉鎖措置に至ることもある。ちなみに、違反の際の刑罰が厳しいのは、2017年8月にポリ袋の利用、生産、輸入を禁止したケニアで、ポリ袋の利用は最大で3万2000ユーロの罰金刑と4年間の禁固刑の対象となりうる。ただし、逮捕者は多数出ているものの、実際の量刑はずっと少ないという。

ルワンダがポリ袋の追放に成功し、首都キガリがアフリカでもっとも清潔な都市とされるに至ったのは、厳しい取り締まりのせいだけではない。プラスチック廃棄物削減のためのキャンペーンが学校や企業、メディアを通じて頻繁に行われており、地域の清掃活動も盛んで、自治体は廃棄物回収に関する住民の意識向上に取り組んでいるからである。

ポリ袋の生産・使用を禁止する「ゼロ・ミカ(ポリ袋)法」を2016年7月に発効したモロッコでは、レジ袋は全面的に禁止となり、その他農業用または工業用、保温用、冷凍保存用、ゴミ収集用などに用いられるポリ袋も本来の目的以外で利用することが禁止された。政府はこれに先立って円滑な移行のためのロードマップを発表し、ポリ袋ではなく紙袋やプラスチック容器、買い物袋、カートなどを利用するよう消費者に呼びかけた。

さらに、国はポリ袋メーカーによる事業転換をはじめ数々の支援措置を実施した。ちなみに、モロッコでは禁止令が発効されるまで年間260億枚のポリ袋が消費されていたという。これはフランス、ベルギー、カナダ・ケベック州の消費量を合わせたものよりも多く、モロッコは米国に次ぐ世界第2位のポリ袋消費国となっていたが、「ゼロ・ミカ法」の発効以来、特に大都市の店やスーパーからポリ袋が消え、消費者らは布製バッグを代わりに利用するようになった。

このように、プラスチック廃棄物を削減するためにアフリカ諸国の多くがポリ袋の生産や利用を禁止し、一定の成果を上げている。しかし、諸国間で法律のハーモナイズは進んでおらず、ポリ袋が禁止されていない周辺国からの流入を防ぐことができないために、国内の禁止令を徹底できずにいる国もある。

プラスチック廃棄物の削減に向けた取り組みとして、廃棄物のリサイクルの動きも始まっている。プラスチック廃棄物を投棄せずに再生することで、自然環境の汚染を防ぐことができるだけでなく、経済的な価値を見出すことができるとの意識の高まりも見られる。

例えば、環境サービス大手のヴェオリアは地元の企業・団体と協力してペットボトルをリサイクルするプロジェクト「AfricWaste」を実施している。これはプラスチック廃棄物の組織的な回収・処理業界を構築することが目標だ。2017年10月から2018年3月までコートジボワールのアビジャンで第1期を実施。アクエド処分場にペットボトルの回収箱を設置して、インフォーマルな廃品回収業者が個人や商店から回収したペットボトルを処理した。成果は上々で、続く2018年3月から2018年9月までアビジャン南部のトレッシュビルでプロジェクトの第2期が実施された。ここでは、ペットボトルの回収希望者に回収業者を仲介するアプリケーションが導入され、ペットボトルの回収を希望する人が場所と量を入力すると、近くの業者が回収に訪れる仕組みができた。業者への報酬の支払いはモバイル決済によって行われる。最終的には、プロジェクトが終了する2021年までにペットボトルの回収・分別プラットフォームの運営を地元企業に任せ、ヴェオリアが処理とリサイクルを担当する態勢を作り上げることを目標とする。

廃棄物一般の処理を専門とするヴェオリアが、アフリカでプラスチック廃棄物のリサイクルに取り組むのは当然の流れと言える。他方、2015年にモロッコのタンジェにペットボトルのリサイクル工場を建設したスミロン・エコ・ペットは、インドのフィルム大手スミロン・インダストリーの子会社だ。スミロンのリサイクル工場では、全国の回収業者から回収したプラスチック廃棄物を原料にペットボトルを生産し、欧州と米国を中心に外国に輸出する。ペットボトルはプリフォームの形で生産・輸出され、現地でボトルに成形される。モロッコではリサイクル可能なペットボトルが年間約4万トン廃棄されているという。

同じくモロッコでは、プラスチック廃棄物を原料に舗装材を生産するスタートアップが注目を集めている。その一つである「ゼリジ・インベント(Zelij Invent)」のサイフ・エディーヌ・ラーレジュ社長は、タンジール国立ビジネススクールの学生だった。2016年にモロッコでポリ袋禁止キャンペーン「ゼロ・ミカ法」がスタートした際のテレビ放送で、「プラスチックが建材として利用されないのは残念。軽量で細工が容易、気密性・耐久性があり、絶縁体でもあるプラスチックは、建材に必要な性質を全て備えている」と話している人を見て、プラスチック廃棄物を原料に舗装材を作ることを思いついた。そして、自宅のガレージで実験を重ね、プラスチックにセメントと砂を混ぜて舗装材の規格に準じたプロトタイプを作ることに成功。学生の起業と持続可能な開発を支援するNGO「エナクタス(Enactus)」の支援を得て改良を重ね、商品化に向けて2017年7月に「ゼリジ・インベント」を設立した。

舗装材「Paveco」は経済的かつエコロジカルな建材で、見た目は「ゼリージュ」と呼ばれるモロッコの伝統的なモザイク建築の材料に似ている。建築業界と廃棄物処理業界の両方から注目されており、セメント大手のラファージュホルシムは「ゼリジ・インベント」を研究開発面で支援し、モロッコの建設会社は大型プロジェクト用に発注を約束している。カタール企業からも引き合いが来ているという。

プラスチック廃棄物を原料に舗装材が作られているのはモロッコだけではない。ガーナが2017年にポリ袋を禁止したとき、エンジニアのネルソン・ボアテング氏は、単に規制するだけでなく、環境にとっての脅威であるプラスチック廃棄物を社会にとってのビジネスチャンスにできないかと考えた。そして、プラスチック(60%)と砂(40%)を使って舗装材を作る機械を自作し、出身地のアシマン州で回収したプラスチック廃棄物を原料に、セメントよりもずっと耐久性のある舗装材を作ることに成功した。

ネルソン氏が立ち上げた「Nelplast」は公益事業として認められて政府の支援を獲得し、現在、直接・間接的に230人以上を雇用するまでに成長した。ガーナでは年間2万2000トンのプラスチック廃棄物が発生し、うち98%は自然の中に投棄されているだけに、廃棄物を削減しつつ国の経済発展に貢献する「Nelplast」の取り組みは高く評価されている。

また、ケニアの「EcoPost」はプラスチック廃棄物のリサイクルを通じて、若者の慢性的失業や森林破壊、気候変動と闘うという目標を掲げる社会派の企業だ。同社がプラスチック廃棄物を原料に生産する木材・プラスチック再生複合材(WPRC)の棒やプレートは、フェンスや道路標識、ガーデン用品など多様な用途に用いられる。地元の労働力と資源を活用してイノベーティブな製品を生産することによって、急速に進む都市化を背景に増加する一方の廃棄物を管理し、若者に持続的な雇用を提供。さらに、持続可能な開発目標に沿って森林を保護することを目指す。

他のアフリカ諸国に先駆けて、エリトリアと並んで2002年に厚さ0.08ミリメートル以下のポリ袋の生産・販売を禁止した南アフリカでは、プラスチック廃棄物対策における新たなアプローチとして、プラスチック廃棄物とその処理に替わる方法に関する新たな研究プログラムの実施が計画されている。国連工業開発機関(UNIDO)と南アフリカ科学産業研究評議会の合同プロジェクトで、日本が180万ドルを提供して実施される。

アフリカではプラスチック廃棄物削減の取り組みは2000年代初頭に始まった。その多くはプラスチック包装の利用を禁止・制限する公共政策を通じて行われている。南アフリカの研究プログラムは、プラスチックの利用を上から規制するのではなく、従来のプラスチックへの代替案を提案するという新たなアプローチでもある。先端技術を利用した生分解可能なプラスチックの生産や、プラスチック廃棄物のリサイクル能力の強化、そして、沿岸部のプラスチック汚染に対する解決策の探究などに取り組むという。アフリカのプラスチック廃棄物削減の取り組みが新たなステージを迎えることに期待したい。

(初出:MUFG BizBuddy 2020年3月)