ジブチ、基地依存経済から近代的地域ハブへ 。最大パートナーは中国

投稿日: カテゴリー: アフリカ経済・産業・社会事情

「アフリカの角」と呼ばれる地域の一角にある小国ジブチは、地政学上の戦略的重要性を背景に、各国の軍事基地受け入れにより経済的基盤を確保してきた。だが、近年は基地依存型経済からの脱却を目指し、特に中国の協力を得た大規模なインフラ整備を急ピッチで進めている。一方、アフリカ初の100%グリーンエネルギー国となる目標も設定し、このプロジェクトには日本企業の名前も登場する。

「アフリカの角」と呼ばれるアフリカ北東地域の一画をなすジブチは、アラビア半島南端の対岸に位置し、面積は四国よりやや大きい2万3000平方キロメートル、人口は90万人に満たない小国である。国土の大半は砂漠地帯で、気候は厳しく、農業の開発も畜産以外は極めて難しい。この不毛の地が現在に至るまで世界の関心を失うことがなかったのは、その地理的位置に由来する地政学上の戦略的重要性のためである。

紅海とアデン湾をつなぐバブ・エル・マンデブ海峡に面するジブチは、古くからアラブ・アフリカ交易の中継地であった。バブ・エル・マンデブ海峡はスエズ運河を経て欧州とアジアを結ぶ世界海運の要でもあり、この海峡を通過する貨物輸送量は世界最大規模である。
さらに近年、アラビア半島を含む中東情勢がとみに不安定化し、対岸にあるイエメンは無政府状態に限りなく近づき「アフリカの角」側でもソマリアの無政府状態が長期化する中、国民のほとんどがイスラム教徒でありながら大統領をいただく共和政の世俗国家を独立後40年間にわたって維持するジブチは、安全保障戦略上の拠点として、欧米諸国、中国や日本などアジア諸国、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)など穏健アラブ諸国の全てにとって、その重要性がますます増している。ジブチはアラブ連盟のメンバーである。なお、周辺国の混乱とは対照的に、ジブチではテロといえば、2014年にソマリアのイスラム過激派組織アル・シャバーブによるテロが一度発生したのみである。

1977年にフランスから独立したジブチは、初代グーレド大統領の下、国内の民族紛争を抱えながらも複数政党制を導入するなどして民主制度を維持した。後任として1999年に選出されたゲレ大統領は、野党弾圧や強権姿勢を批判されつつ、2016年4月の大統領選挙では90%近い得票率を確保して4選された。ゲレ大統領下での憲法改正により大統領の再選回数制限は撤廃されたが、75歳定年制が導入されている。

ジブチは「港湾と倉庫」の国と形容されることもあるように、歴史的には貿易の中継を経済の基盤としてきた。
さらに、比較的最近になってからのジブチのもう一つの経済基盤は各国の軍事基地に由来する収入である。旧宗主国であるフランスが、縮小されたとはいえ現在でも1,500人前後と国外最大規模の兵力を維持しているのに加えて、2000年代に入ると、対イスラム過激派作戦の必要から米国が、続いてソマリア沖海賊対策で日本を含む諸国がジブチに基地を置き始めた。米国の4,000人を筆頭に、現在、各国合わせて計1万人の兵員が駐屯している。ジブチ政府は自国の安全保障をこれら各国の兵力に負っていると同時に、各国を競わせる形で基地使用料収入の引き上げを勝ち取ってもきた。

そこへ最近になって登場してきた新勢力が中国である。米国は中国軍の進出を望まず、ジブチ政府にこれを思いとどまらせるべく米軍基地使用料の倍増も受け入れたが失敗。中国は自国船舶防衛のための兵たん拠点という名目の下、近海以外で初めての遠隔基地の建設を始めた。なお、サウジアラビアも軍事基地の設置計画を進めている。

一方、ジブチ政府は近年、こうした軍事基地依存経済から近代的な地域のハブへの脱却を目指して、大規模なインフラ整備を急ピッチで進めている。そして、これを可能にしたのが「誰も関心を示さない中で唯一関心を示した」という中国とのパートナーシップである。

独自の産業を持たないジブチの交易活動は、そのほとんどがエチオピア産およびエチオピア向け物資の中継となっている。エチオピアはナイジェリアに次いでアフリカで2番目に多い人口を擁し(約9,900万人)、やはり中国の協力を得て積極的な産業化政策を推進している。アフリカにおける「世界の工場」となるのがその目標だ。ただし、海への出口を持たないエチオピアにとって輸出入の窓口はジブチであり、エチオピアとジブチを結ぶ複数のインフラ・プロジェクトが中国のファイナンスと中国企業の参加で始動している。そのうち、4年にわたって工事が行われてきたアジスアベバとジブチ間の750キロメートルを10時間で結ぶ新鉄道は2016年末に開通。さらに、ジブチの港湾からエチオピアまで石油精製品を輸送するパイプライン(50キロメートル)の建設、道路建設、エチオピアの地下水を20年間にわたって飲料水としてジブチに無償で提供するプロジェクトなどが進行中だ。

中国はさらに、飽和状態に達しているジブチの港湾の再整備、これに付属するフリーゾーンや商業地区の開発、空港の建設にも名を連ねている。ジブチで現在進行中の14件(総額144億ドル)の大型インフラ・プロジェクトのほとんどが中国によるものである。

ジブチの港湾は近年目覚ましい成長を遂げ、貨物取扱量は2006年からの10年間で10倍に増えた。2009年のコンテナ・ターミナルの建設をきっかけに、2004年に16万個だったコンテナ取扱数は2015年には90万個に増加した。アフリカでこれほどの成長を記録した港湾は他にはモロッコのタンジェ地中海港だけである。


港湾関連のプロジェクトを見ると、まず、ジブチ市の入り口に19世紀末に作られた旧港の再開発がある。2030年までに新マリーナとクルーズ・ターミナル、ショッピングセンター、住宅地を整備するプロジェクトで、投資額は35億ドル。次にやや離れて、コンテナ・ターミナルと石油ターミナルのあるドラレのコンテナ・ターミナルを増設する計画がある。既存施設はUAEのDPワールドが運営しているが、UAEとジブチの関係が悪化した結果、第2ターミナルの運営には中国企業が参加する。投資額は6億4000万ドル、2020年に稼働の予定だ。

同じくドラレ港では多機能ターミナルが2017年3月にもエチオピア向けの貨物取り扱いを開始する予定で、投資額5億8000万ドルのうち85%が中国輸出入銀行の融資により賄われた。さらに、これらターミナルから数百メートルのところに4,800ヘクタールの新フリーゾーンが設置される。最初の244ヘクタールが2016年内に完成し、2017年7月には最初の企業が入居する予定である。投資額は1億5600万ドル。中国の組み立て工場や軽工業の工場が建設され、最終的に25万口の雇用創出が期待できる。

他方、ソマリア国境近くに建設されたダメルジョグ港は湾岸諸国への家畜輸出港として近く稼働し、隣接する石油・ガスターミナルも2019年に完成する。さらに、地方の港湾としてこれも中国の資金と企業によって建設されたタジュラ港とグベ港が2017年内に全面稼働する予定となっている。



以上のように、中国の存在感が圧倒的に強まっているとはいえ、中国以外をパートナーとするプロジェクトも幾つか同時進行している。
エチオピア産天然ガスをジブチ経由で輸出するためのガス・パイプラインとガス液化工場の建設プロジェクトは、米国のブラックストーン・グループ傘下のブラック・リノグループと南アフリカ共和国のMOGSオイル&ガス・サービスが担当。資金はブラックストーン・グループが拠出し、15億5000万ドルを投じて全長550キロメートルのパイプラインを整備する。

ジブチはまた、厳しい気候条件を活用して、2020年をめどにアフリカでは初めて再生可能エネルギーで国内のエネルギー需要の100%を賄う目標を設定した。エネルギー面での独立性を確保し、割高な電力料金の引き下げを図るのが狙いである。このため2015年には発電部門の自由化を決定し、民間企業による独立系発電事業者(IPP)プロジェクトへの道が開けた。2011年の送電網の相互接続以降、ジブチの電力需要の65%(150メガワット(MW))はエチオピアの水力発電由来の電力でカバーされているが、残りは現在のところ火力である。

再生可能エネルギーのうちの最もポテンシャルが大きいとされる地熱発電の開発は、比較的遅れている。ただし2014年には国際協力機構(JICA)の支援で13のプロジェクトサイト(1,000MW)が特定され、2016年には東芝との間で計50MW分の開発支援合意が締結された。
太陽光発電では、カナダのスカイパワーによる合計出力200MWのプロジェクト、ドイツのグリーン・エネシスによる同300MWのプロジェクトが決定している。風力発電に関しては北部に国内初の風力発電ファーム(出力60MW)が建設される予定で、これは送電線の敷設も含めて中国の上海電気集団が受注している。
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の2015年の報告によると、2020年にグリーンエネルギー100%というジブチの目標は達成可能である。

(初出:MUFG BizBuddy 2017年1月)