アフリカ諸国で脱ドル化の取り組み

投稿日: カテゴリー: アフリカ経済・産業・社会事情

歴史的に米国との関係が深く米ドルが経済に浸透していた南米諸国が「脱ドル化」政策を推進したが、豊富な資源を切り札に成長を遂げるアフリカにおいても同様に、コンゴ民主共和国やアンゴラ、ガーナ、モザンビーク、ザンビアといった国が自国通貨優先策を打ち出している。本稿ではコンゴ民主共和国とアンゴラの例を紹介する。

自国通貨が通貨としての機能を失い、外国との通商だけでなく国内の経済活動が米ドルなどの外貨によって支えられている開発途上国は世界中に数多くある。
アフリカでは、ジンバブエで長期にわたりインフレが進んだ末、インフレ率が2億3100万%を超えて2009年に自国通貨(ジンバブエ・ドル)の使用が停止され、それまで非公式に流通していた米ドル(以下「ドル」とする)など複数の他国通貨の使用が公式に認められたのが記憶に新しい。ジンバブエ経済は「ドル化」と、これとほぼ同時に実現した挙国一致の政府の発足を機に復興への道を歩み始め、過去10年間続いたリセッションにもようやく終止符を打ち、国内総生産(GDP)成長率は2009年に6%、2010年に9%、2011年に9.3%を記録した。

他方、近年の目覚ましい経済成長が世界の注目を集めるアフリカにふさわしく、順調な経済発展を後ろ盾に、国内経済における自国通貨使用を優先する「脱ドル化」に取り組んでいる国もある。本稿では、中部アフリカのコンゴ民主共和国とアンゴラの例を検証したい。
ちなみにジンバブエは当初、ジンバブエ・ドルの使用停止期間を1年間と定め、ジンバブエ中央銀行総裁もGDP成長率が7%に達した時点でジンバブエ・ドルを復活させることを提案していたが、これはまだ実現していない。

コンゴ民主共和国では、インフレ率が2,000%に達したモブツ独裁政権(1965-1997年)下の1980年代末からドルが流通し始めた。1997年にカビラ政権が成立し、国名がザイールから現在のコンゴ民主共和国に改められると同時に、それまでの通貨「ザイール」に代わって「コンゴ・フラン」(1コンゴ・フラン=10万ザイール)を導入するデノミネーションが実施された。しかし、その後のインフレ進行に伴い、コンゴ・フランは、導入当時には1コンゴ・フラン当たり0.72ドルの価値があったが値下がりが続き、現在は1ドル当たり約920コンゴ・フランで取引されている。インフレを背景に、小売りを除く取引の大部分がドルで行われるようになり、2012年末時点で預貯金の89%、融資の95.2%がドル建てとなっている。

しかし同国の経済は、豊富な鉱物資源の開発にけん引されて近年順調に発展し、GDP成長率は2012年に7.2%を実現、2013年には8.3%に上ると見込まれている。インフレ率も2.73%まで抑制され、2009年には輸入の2日分しかなかった外貨準備高も2カ月分にまで回復した。このようにマクロ経済指標全体が大きく改善したことを背景に、政府はコンゴ・フランの利用を後押しすべく、2012年7月以降、額面価格の大きい新紙幣(1,000、5,000、1万、2万コンゴ・フラン)を発行し、同年9月には中央銀行総裁が「脱ドル化プロセス」の開始を宣言した。

同総裁によると、当面はドルとコンゴ・フランによる2本立ての決済システムの構築を目指し、これが軌道に乗ったところでドル決済を禁止してコンゴ・フラン決済のみを認めるようにする計画である。そのため、商店での価格表示を両通貨で行うよう求め、実際にはドルで支払われるとはいえ、各種税金もコンゴ・フランで表示されることになった。国家公務員への給与の支払い、公共調達もコンゴ・フラン建てで行われる。

こうした政府の「脱ドル化」の取り組みに対しては、「コンゴ・フランの安定と通貨機能の回復を促すことになる」とする賛成派と、「銀行に預けたコンゴ・フランの価値が半年後に半減しないことを誰が保証できるのか?」「脱ドル化は時期尚早ではないか?」という懐疑派に分かれる。政府も、経済に浸透し価値も保証されているドルに代わって国民や企業がコンゴ・フランを優先的に使用するようになるには時間がかかるとみており、脱ドル化を緩やかに進める方針を明らかにしている。中央銀行総裁によると全ての取引がコンゴ・フランで行われるようになるまでには7年から10年、アフリカ銀行(BOA)関係者によれば取引の半分がコンゴ・フランで行われるようになるまでに8年から10年はかかるとの見通しだ。

同じく中部アフリカに位置するアンゴラは、30年にわたる内戦が2002年に停戦に合意された後、豊富な石油・鉱物資源を背景に急速な経済成長を遂げている。現地通貨のクワンザは比較的安定しており、公式には商取引はクワンザ建てで行われることになっているが、実際にはドルが広く普及している。しかし、経済のドル化が物価上昇に拍車を掛け、経済生産活動・国民購買力の水準とドル建ての市場価格の乖離(かいり)が加速した。アンゴラは貧困問題が依然深刻でありながら、首都ルアンダは現在、世界で最も物価の高い都市の一つである(米国マーサー「2012年世界生計費調査-都市ランキング」によると1位が東京、2位がルアンダ)。

アフリカでナイジェリアに次ぐ産油国であるアンゴラは、すでに数年前から脱ドル化政策を導入しており、その一環として、国内で事業を行う石油会社に対し、国内銀行を通じてクワンザ建てで支払うことを義務付ける新石油法(2011年11月制定)の段階的適用が進んでいる。同法により、国内で活動する石油会社と関連会社は2012年10月以降、営業費用の支払いをアンゴラ国内の銀行口座経由で行うことを義務付けられたが、2013年7月1日以降はさらにクワンザ建てで支払わなければならなくなる。石油部門は同国の収入の75%、GDPの45%を占める国内最大の業界であるだけに、多大な影響が予想される。

アンゴラ政府は、石油資金の流入により国内の銀行・金融部門が発展すると同時に、国内経済におけるドルの比重が下がり、石油依存型経済からの脱却が促進されることに期待している。その一方で、国際銀行がほとんど進出していない現状で、未熟な国内の銀行部門が年間100億ドルを超える資金の動きに対応できるのかという懸念もある。石油業界からは「外国企業に対する支払いが滞って生産停止に至ることがないよう、効率的な流動性管理が不可欠」「石油サービス会社が為替手数料を見込んで石油会社への請求金額を引き上げ、生産コスト上昇につながる恐れがある」といった指摘も出ている。

アンゴラの中央銀行は、クワンザと為替相場、流動性供給の安定を保証する必要性を強調し、関連会合や研修を数多く実施。銀行各行も石油部門を創設し、適切な金融・銀行商品の提供に向けて準備を進めている。石油会社(トタル、BP、シェブロン、エクソン、スタトイル、Eni)の側では、当初数カ月はドル建ての給与額をクワンザに換算して従業員の購買力を保証しつつ、新たな支払いシステムの構築に努めるなど、段階的な対応を進める方針だ。

こうした「脱ドル化」の取り組みは、アフリカ諸国が自らの発展を担うというオーナーシップの精神にも呼応している。モロッコのマラケシュで2013年5月27日から開催されたアフリカ開発銀行(AfDB)年次総会のテーマは「アフリカの構造変革」である。「アフリカといえば貧困」という多くの人が持っているイメージが、過去のものとなる日が来ることに期待したい。

(初出:MUFG BizBuddy 2013年6月)