アフリカの中間層の台頭、モバイルバンキングが興隆

投稿日: カテゴリー: アフリカ経済・産業・社会事情

アフリカでは、都市に居住して情報通信技術(ICT)を活用する中間層が増えている。中間層の増加が携帯電話の普及と同時進行したことで、モバイルバンキングが銀行サービスの普及に大きな役割を果たしつつあり、すでにさまざまなサービスが展開されている。また、将来に向けて多くの関連プロジェクトも進行中であり、今後の動向が注目される。

アフリカ諸国の実質国内総生産(GDP)は2008年現在で1兆6000万ドル。ブラジルまたはロシアのGDPに匹敵する。2000年代に入ってからのGDPの伸びはそれまでの20年間の2倍に加速しており、2020年には2兆6000万ドル、年間消費支出額も1兆4000万ドルに達すると予測されている。これは2011年6月のMcKinsey Global Instituteのレポートからの数字だ。

米国のカーソン・アフリカ担当国務次官補は今年6月に上院で、アフリカを「世界経済の次のフロンティア」と位置付け、開発途上地域の中で最も高い外国投資収益率を上げるアフリカへの投資強化を呼び掛けた。また英国の経済誌、エコノミストも昨年末、「深い変化が進み、今や太陽が輝いている」として「希望なき大陸」とアフリカを形容した2000年時点の認識を公に撤回した。

政情不安の再燃、治安問題、貧困、飢餓、貧富の格差、インフラ未整備など、アフリカは確かに30年前の問題を抱えたまま2012年を迎えている。しかしその一方で、過去のわれわれのアフリカに対する認識の中には存在したこともなかった「中間層」、すなわち耐久消費財に投資し、携帯電話とインターネットを使いこなし、子どもの数は少なく、国への要求度も高い新しい都市生活者層が急速に増えつつある。
かつては、ケニアのサファリ観光の来場者のほとんどは白人だったが、現在では国立公園入場者の3分の2がケニア人で、週末には家族連れや学校の遠足で訪れる人が数多く見られるという。われわれにもなじみ深い「中流の日常生活」がそこにはある。

アフリカ開発銀行は2011年4月11日、アフリカにおける中間層の台頭を扱ったレポートを発表した。アフリカには2010年現在、中間層と見なされる層が3億5000万人、すなわち人口の3人に1人の割合で存在し、人口規模ではインドや中国のそれに匹敵する。中間層の数は1980年には1億1000万人(人口の27%)だった。つまり、人口の増加率を上回るペースでこの層が拡大したことになる。

アフリカ開発銀行の言う中間層とは、1日当たりの支出(以下同)が2~20ドルの層を指し、これを下回る貧困層(サハラ砂漠以南では人口の半数)と、ごく少数の富裕層の間に位置する。このうち支出が2~4ドルの層(約2億人)の中には、インフォーマルセクターでの仕事を掛け持ちするなどしてようやく貧困から脱出したばかりで、環境の激変があればたちまち貧困に逆戻りしかねない脆弱(ぜいじゃく)な中間層も多数含まれてはいる。しかし、その数は過去30年間で4倍に増し、そのすぐ上の支出が9ドルまでの層(1億人弱)と合わせて、今後のアフリカにおける「大衆消費社会」到来の基盤を成す層になるとみられる。

アフリカの中間層も、世界の他の地域と同じく、その多くは給与所得者あるいは起業家で、都市部や海岸部に住んで近代的インフラを享受している。また教育水準が比較的高く、子どもの数は少ないが、教育費の支出は多い。冷蔵庫、テレビ、携帯電話、自動車の販売は過去数年来、全ての国で増加しており、民間企業にとっては重要な市場である。輸出に依存するアフリカ経済を今後、内需が支えられるようになるか否かも、中間層の発展に懸かっている。
また、中間層は貧困層よりも情報に通じ、人権意識が高く、質の高い公共サービスを要求し、公共財政会計の開示を求める非政府組織(NGO)を支持するなど、政治的な進歩に果たす役割も期待される。

当然ながら、中間層の成長は企業のマーケティングにも大きな影響を与える。ケニア野生生物公社(KWS:KENYA WILDLIFE SERVICE)はケニア人向けに大人1.50ドル、子ども0.75ドルと、外国人観光客向け料金に比べて格段に安い料金を設定して国内客の誘致を図っている。
また、生活簡便化のためのサービスの需要の高まりを受け、ネスカフェが2年前から買ってすぐに食べられる出来合いの食品をガソリンスタンドで販売し始めたという事例もある。この他、アフリカ市場の将来性に目を付けた家電メーカーは、停電に強いテレビや空調、太陽エネルギー利用の照明など、地元の事情に合わせた商品の開発・投入を進めており「”Built for Africa” Products」をスタートさせたサムスンの場合、過去2年間で売り上げが倍増した。

中間層向け新サービス展開のツールとして、特に注目されているのが携帯電話だろう。アフリカの携帯電話人口は、2011年末現在で6億6100万人。普及率がまだまだ低い国も多いが、ナイジェリアの成人の携帯電話普及率は71%、ボツワナが62%、ケニア、ガーナでも50%を超えた。
そして、携帯電話の活用が特に目立つのが銀行サービスだ。銀行口座保有率が極めて低いアフリカにおいて、携帯電話を使ったモバイルバンキングサービスを売り込む。携帯端末による送金や支払いのサービスにアクセスできるようになった消費者は、その他の金融サービス、消費財や住宅購入のためのローンの活用にも積極的になっていくはずである。

アフリカで最初のモバイルバンキングサービスは、2007年にケニアでサファリコムが開始した「エムペサ」。フランスの通信事業者オレンジもBNPパリバ銀行と提携して、2008年からコートジボワールを皮切りに、セネガル、マリ、マダガスカルなどで「オレンジマネー」サービスを展開している。利用者は300万人に増え、米ウエスタンユニオンとも提携を結んだ。フランスのソシエテ ジェネラル銀行も、セネガルで2010年から、カメルーンでは今年3月から同様のサービスを始めている。
2011年6月には、アフリカのエコバンク銀行とインドの通信事業者、バルティ・エアテルが、ガーナ、ナイジェリア、ブルキナファソ、コンゴ、ガボン、ニジェール、チャドなど計14カ国でサービスを展開する合意を結んだ。GSM協会によると、2011年6月現在、世界のモバイル取引の80%は東アフリカが発信地となっている。

ブルンジのように、携帯電話保有率や銀行口座保有率がまだまだ低い国でも、モビキャッシュが地元の銀行・通信事業者と提携したサービス開始を決めたところだ。ブルンジは中間層の比率が5.3%と全アフリカ諸国の最後尾に位置する国の一つだが、モビキャッシュでは、携帯電話を持たない層に向けて指紋認証を利用した送金サービスの開始も計画しており、こうしたアプローチを通じて銀行サービスが急速に普及すると予想している。
ベナンでも、携帯電話に頼らない銀行サービス普及の試みとして、商店、薬局、ガソリンスタンドなどに生体認証技術を利用した決済端末を設置し、住民が銀行サービスを利用できるようにするプロジェクトが進行中だ。アフリカ開発銀行や米国国際開発庁(USAID)などがプロジェクトを支援する。

一国の開発度と銀行サービスの普及度には相関関係がある。BNPパリバ銀行、ソシエテ ジェネラル銀行などは、一次産品取引のファイナンスという伝統的業務を縮小して、現地の新しい中間層をターゲットとしたリテール業務の強化に軸足を移しつつある。ナイジェリア中央銀行は、現在53.7%の銀行口座普及率を2020年までに80%に引き上げる目標を、西アフリカ経済通貨同盟8カ国の中央銀行の役割を果たしている西アフリカ諸国中央銀行(BCEAO)も同率を現在の5%前後から向こう5年間で20%まで引き上げる目標を掲げている。

(初出:MUFG BizBuddy 2012年9月)