携帯の次はドローン? アフリカの新しい切り札

投稿日: カテゴリー: アフリカ経済・産業・社会事情

固定電話網のインフラ整備が遅れていたアフリカで、携帯電話がたちまちのうちに電話網を広げ、モバイルバンキングシステムの恩恵を受けているのは周知の通りである。さらにここ数年来、すぐには整備の見通しのつかないインフラの不足を補う軽量の連絡・輸送手段として「ドローン」を使った各種のサービス開発が加速している。

固定電話網のインフラ整備が遅れていたアフリカで、携帯電話がたちまちのうちに電話網を広げ、モバイルバンキングシステムの恩恵を受けているのは周知の通りである。さらにここ数年来、鉄道や道路などすぐには整備の見通しのつかないインフラの不足を補う軽量の連絡・輸送手段として「ドローン」を使った各種のサービス開発が加速している。

ルワンダで2016年10月、無人航空機ドローンを使った医療物資の輸送サービスがスタートした。首都キガリの西50キロメートルに位置するムハンガに設置されたドローンポート、すなわちドローン発着基地から半径150キロメートル以内の21の病院へ向け、輸血用血液など病院が必要とする物資を注文に応じて緊急配送する。ルワンダは近年、高い経済成長率を達成したとはいえ、国内の医療ネットワークの整備はまだまだで、救急患者に必要な輸血用血液の確保にしても、道路を使えば治療に間に合う時間には到底送り届けられないのが実情だ。

これに対し、今回のドローン「Zip」を使ったプロジェクトでは、患者1人を救うのに十分な量の血液1.5キログラムを30分以内に届けることが可能になる。ムハンガのドローンポートの保有機数は15機。強風や雨天といった悪天候時も航行でき、150フライト/日まで稼働できる。ルワンダでは全国を同じようなドローン輸送網でカバーする方針で、2020年までにさらに2カ所のドローンポート設置を予定している。

アフリカでは、経済・社会の開発を後押しするインフラの不足と整備加速の必要性が指摘されて久しい。しかし、多額の投資と長い期間が必要なインフラ整備の進捗(しんちょく)状況はいまひとつであるのに対して(インフラ整備の公的投資の不足額は年間500億ドルと試算され、年々拡大している)、これを追い越す形で、はるかに軽量で安価な連絡・輸送網確保の試みが盛んになってきている。その典型的な例が携帯電話で、あっという間にアフリカ諸国に普及。これに付随して、今度は銀行の支店網不足や銀行口座保有率の低さを補うように、携帯電話や端末を利用するモバイルバンキングが急速に発達、欧米の通信キャリアや大手金融機関らも次々に参入し始めた。そうしたタイプの先端的な軽量ネットワーク構築技術の一つがドローンといえよう。

ルワンダでのドローン輸送プロジェクトを発案したのは、スイス連邦工科大学ローザンヌ校にベースを置くアフロテックだ。アフロテックはGAVI(ワクチンと予防接種のための世界同盟)や米国の国際物流企業UPSらも参加するレッドラインを結成してプロジェクトを推進した。輸送に使われる低コストのドローンを製造するのは、米国・カリフォルニアのロボット企業Ziplineである。「Zip」が発着するドローンポートの方は、焼きを入れない土瓦、すなわち、どこでも入手できる原料で焼成によるCO2の発生しない建設資材(ラファージュ・ホルシムが開発)を使い、4柱式のドーム構造という簡易な構造を採用している。設計を手掛けたのは北京首都国際空港の設計で有名な建築家ノーマン・フォスター氏だ。

アフリカにおけるドローンの利用で、医療分野と並んで大きな期待が掛かる分野が農業だ。人口増加が著しく食料危機に見舞われることも多いアフリカでは、災害や害虫に対する農産物の保護や生産性の向上に、ドローンによる広域での画像撮影とそのデータ解析が大いに貢献するとみられている。

欧州委員会が支援する開発援助機関CTA(ACP-EU農業・農村協力技術センター)では現在、アフリカ5カ国(ウガンダ、タンザニア、ベナン、ガーナ、コンゴ)から7人の農業関係者を研修生として選定し、フランスのスタートアップ企業、エリノーヴ(Airinov)へ派遣している。エリノーヴのドローンは極めて精度の高いセンサーを搭載しており、これによって土壌の状態や害虫・病気の発生状況、農作物の状態についての精密な画像が撮影され、害虫対策や肥料散布に関する農家にとって有益な情報が遠隔で迅速に入手できるようになる。エリノーヴのドローンは1機5,000ユーロ。アフリカの農家にとってはまだまだ高過ぎる価格だが、今回の研修ではCTAがその6割を負担し、エリノーヴは1年間にわたって100枚/日の画像分析を無償で行うことを約束している。

アフリカでのドローンの将来性に目をつけたという点で最近注目を集めているのが、カメルーンの弱冠23歳の起業家ウィリアム・イーロング氏だ。15歳で大学入学資格を取得し、パリで経済分野のインテリジェンス活動を専門とする課程を修了したこの青年は、タレス、オラクルといった先端企業を経て、ウィル&ブラザーズ(Will & Brothers)というドローン・サービスではカメルーン初のスタートアップを起業した。2017年に入ってからは、さらにドローン製造事業に乗り出すための20万ドル(約1億5000万CFAフラン)の資金調達にも成功した。

経済インテリジェンス活動を専攻したイーロング氏によれば、ドローンが撮影する画像は経済活動のあらゆる分野で活用できる可能性がある。そして2億5000万ドルに達する民間ドローン市場規模から見て、機体を自社製造することは経済的にも極めて合理的な選択だという。イーロング氏が自社製造を目指すドローンは、搭載するソフトウエアはもちろん、部品もその多くをローカルで調達する。
ちなみに米国のフォーブス誌は2016年、アフリカで最も有望な30歳未満の若手起業家30人の7位にイーロング氏をランクした。

また欧州のドローン・サービス企業が、今後の市場拡大を見越してアフリカのローカルのドローン・サービス企業を買収する例もある。フランスのローヌ県に所在するデルタドローンは、米国にも子会社を展開する企業向けドローン・サービス企業だが、同社は2016年6月、アングロ・アメリカン、サウス32、BHPビリトンなどの鉱業大手を顧客とする南アフリカ共和国のドローン・サービス企業ロケットマインを買収した。デルタドローンは、アフリカ・インド洋地域への今後の展開を狙ってロケットマインを買収したのだが、同時に、メキシコ、米国、カナダなどでの鉱業部門向けサービス販売に当たっては、南アフリカ共和国発の「ロケットマイン」ブランドで事業を展開する方針だ。

米国のコンサルタント企業、グランド・ビュー・リサーチによると、ドローンを使用するビジネスソリューション市場の規模は、2025年には843億ドルに達することが予想される。市場の伸びが著しいのは、アフリカを含めた世界各国政府がドローン投資に前向きな方向での規制整備を進めているのが一因だ。アフリカでは南アフリカ共和国がいち早く商業用ドローン利用へ向けた法整備を行ったが、東アフリカでも、ルワンダに次いでケニアが2017年2月に関連法案を採択した。ケニアでは、法整備を見越して多数の企業がドローンの購入に走った。そのうちアストラル・アビエーションはドローンによる石油探査サービスを予定しており、2018年早々にも北西部ロキチャルにドローン用滑走路が設置される見通しだ。

(初出:MUFG BizBuddy 2017年8月)