就活時のフランス人移民の苦悩

投稿日: カテゴリー: フランス社会事情

失業問題は現在のフランス社会が抱える最大の課題である。特に、将来を担う若年層の失業率が高いことは深刻である。若年層の中でもとりわけ有色人種系移民の失業率の高さが群を抜いている。その背景には、就職時に生粋のフランス人が経験するのとはまた性格の違う人種的な区別が存在する。今回は、雇用における移民とフランス社会の関連性について述べる。

ヨーロッパの失業問題が深刻化している。2013年7月1日に公表された欧州連合(EU)統計局による5月にユーロ圏の失業率は、12.1%(失業者数は約1,922万人)と統計開始以来過去最悪の水準を記録した。国別に見るとスペインの失業率が26.9%で最高で、次がギリシャの26.8%となっている。フランスの2013年第1四半期失業率は10.4%と加盟国(28カ国)中、第10位で、1997年に記録した過去最悪の水準(10.8%)にあと0.4ポイントまで迫った。2013~2014年にかけて18万5000人近くの雇用者数の純減が予想されているが、労働力人口は年間10万人のペースで増加を続けていることから、失業率が改善する見込みは少ないと推測されている。

こうした背景の下、オランド大統領は7月14日のパリ祭(フランス革命記念日)における恒例のテレビインタビューに応じ、失業問題をフランスが抱える最大の問題と捉え、政府が進めている「世代間雇用契約1」や「未来のための雇用2」など、各種の取り組みについて説明した。オランド大統領は、失業率の改善が遅れているのは導入した措置の効果がまだ表れていないためだと述べ、しばらくの時間が必要とした上で、年内には減少に転じさせるという目標の実現に全力で取り組む姿勢を新たに示した。しかし、本格的な状況の改善は経済が好転しなければ難しく、雇用情勢の先行きへの懸念は一段と強まっている。

フランスの失業率を押し上げている原因の一つに、若年層の深刻な失業問題がある。25歳以下の若者の60%近くが失業状態にあるか、不安定な雇用しか得ていない。特に、移民系の若者(第2世代/第3世代)の失業率が高く、そのうち、マグレブ・アフリカ系移民に限るとその数字はさらに上がる。そこからまた問題多発地区(quartier sensible)3に限定すると、その割合は50%に達する。

なお、移民系でもスペインやポルトガルなど、いわゆる白人系移民の若者の失業率は生粋のフランス人4とほぼ同率の7%であることから、マグレブ・アフリカ系移民の若者の就職難が特異な状況であることは一目瞭然である。実際に、フランス的ではない名前や肌の色などの身体的特徴を理由に門前払いされる、高等教育のディプロームを取得している若者でも面接にさえ呼んでもらえない、といったケースが多々報告されており、移民系の若者たちの厳しい就職状況がうかがえる。

ここで、フランスの移民の現状を簡単に紹介したい。まず、移民の定義であるが、国立統計経済研究所(INSEE)では移民を「外国で生まれ、出生時にフランス国籍を持たない人」とし、いったんフランスに入国し、フランス国籍を取得するとフランス人になるが、その場合は「フランス人移民」と考えられる。フランス国籍を取得しないと「外国人移民」とされるわけだが、どちらの場合も統計では「移民」としてカウントされる。ただし、出生地主義を採用するフランスは、フランスで外国籍の両親から生まれた子どもは、成年時(18歳)に条件を満たせばフランス国籍を取得できる。

なお、少々古い数字であるが、2008年のINSEEのデータでは、フランス本土には534万人の移民がおり、うち41%に当たる217万人がフランス国籍を取得している移民である。さらに外国人は372万人で、うちフランスで生まれた外国人で外国籍を保持している人は55万人である。また、534万人のうち半数は1987年以前に入国している移民、4分の1が2001年以降入国している移民であり、10人のうち4人がパリ首都圏(イル=ド=フランス地域圏)に居住している。

就職情報ウェブサイト「Qapa」が3月25日に発表した、同ウェブサイトに登録する失業者を対象にした調査によると、移民(主にマグレブ・アフリカ系)の失業者は、生粋のフランス人に比べ就職までに2倍以上の時間(平均で8カ月)を要し、必要となった履歴書の数は3倍以上(33通)に及んだ。

2008年には、独立行政機関の差別禁止平等推進高等機関(Haute Autorité de Lutte contre les Discrimination et pour l’Egalité:HALDE)5がフランスの大手企業20社(うち15社はパリ株式指数CAC40を構成する企業)を対象にした就職に関わる調査を実施した。具体的には、同一内容の履歴書を名前と年齢のみを変えて送付するという方式により、合計5,620人の履歴書を送り、面接の機会が与えられるかどうかを調べた。その結果、面接に呼ばれた候補者は「標準タイプ(白人、標準的とされる年齢)」と比べて、有色人種系の場合は22.8%、年齢が上がるとさらに42.2%少なくなるという結果となった。

また、HALDEの2006年の年次報告によると、フランスに存在する不当な扱いとして最も多いのが人種的出身で35.04%、最も多く報告される領域は雇用で42.87%であった。

フランスで移民が増えたのは、第2次世界大戦後から1970年代前半の「栄光の30年(Les trente glorieuses)6」と呼ばれる経済成長期に、必要とされた労働力を外国(主にスペイン、ポルトガル、マグレブ)から大量に受け入れたという背景がある。彼らの多くは、工場や炭坑などでフランス人が好まない仕事をし、フランスの経済成長を支えた。

だが、1973年のオイルショックを機に経済が低迷し始めると、一転して外国人労働者を抑制する政策が取られるようになった。当時のジスカール・デスタン右派政権は、就労を目的とする新規の外国人労働者の受け入れを停止し、移民の帰国を奨励した。経済不況下で、移民は国が必要とする「労働力」から「招かざる客」へと変わった。しかし生活基盤をフランスに築いた彼らは、祖国にも戻れず行き場を失い、やがてはフランス社会から排除されるという結果になった。

移民に対する不当な扱いに関わる問題に、政府が全く目をつぶっているわけではない。1997年に誕生したジョスパン内閣では、1999年に人種に関わる不当な扱い(特に雇用に関して)の被害者などによるフリーダイヤル「114」を設置した。また、国籍取得申請手続きの簡素化や、不当な扱いを受けた人が法的手段を取りやすいように法律を一部改正するなど、積極的に行動した。さらに、2006年3月31日に可決された機会平等法によって、HALDEに違法行為の摘発および制裁権が与えられた。具体的には、違反行為を犯した法人に最大で1万5000ユーロ(自然人の場合は3,000ユーロ)の罰金、および被害者への損害賠償の支払いが科せられることになった。

労働環境下における政府の対策としては、履歴書の無記名制度7が記憶に新しい。機会平等法には従業員数51人以上の企業を対象に、これを義務化する旨の条項が盛り込まれた。ただし義務化の条件として、試験導入の成果を評価した上で、施行のための政令を策定することが必要とされた。

その後、政府機関である機会平等局による試験導入の評価報告書が2011年7月に提出された。これによると、無記名の履歴書は採用者と同じ性別の候補者が採用されやすい傾向を排除することに対してはある一定の効果があったが、一方で、人種については逆に無記名の履歴書の方が移民の候補者が面接の機会を得る可能性が低くなる8という結果となった。これは、無記名のため、専ら学歴のみが考慮され、かえって低学歴の候補者が振るい落とされる傾向が強まるためと考えられている。この結果を踏まえて、制度の導入義務化は見送られ、任意で導入するのが妥当であると結論付けられた。しかし、調査対象となった企業の選択基準や調査期間の短さなどを理由に、調査結果の正当性について多くの批判が寄せられた。

そもそもフランスは、人種などに関わる不当な取り扱いの禁止を国是としてきた国であり、国の基本原理として「出生、人種または宗教による区別なしに、全ての市民は法律の前に平等が約束される」とある。しかしながら、法規定などさまざまな領域での努力にもかかわらず、こうした問題はいまだに解消されないどころか、近年ではその傾向がより強くなってきているとさえ言われている。

フランス人は個人の自由や主張を重んじ、外国人にも寛大な姿勢を示している一方で、伝統的に保守的な部分もあるアンビバレントな国民であるとの見方もある。それも、多種多様な民族と文化が共存する移民大国であるからと説明することは簡単であるが、移民への不当な扱いに関する問題は、歴史的・政治的・経済的・社会的・文化的背景が複雑に絡み合っており、一筋縄で解決できるものではないことも明らかだ。

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1 シニアの雇用を維持しつつ若年者を採用する企業に優遇措置を適用するという政策で、2013年に8万件、向こう5年間で50万件を予定している。
2 若年者向けに政府が導入した公的援助が伴う新型雇用。
3 特にパリ近郊で移民が多く居住する地区を指す。例えば、クルヌーブ市(セーヌ=サン=ドニ県)などが挙げられる。
4 フランス語では「Français de souche」と表現され、日本語に直訳すると先祖から続くフランス人=白人となる。
5 人種などを理由とする就職時における不当な扱いなどの問題を担当する独立機関として、2005年に当時のシラク大統領の発案で発足された。
6 戦後のフランスにおける高度経済成長期の30年間を指す。
7 氏名、性別など戸籍に関する情報が採用者に伝わらないよう、該当欄を無記入にすることである。人種や性別の違いなどにより、候補者が履歴書の内容によって門前払いになるのを避けるための手段として導入された。
8 無記名の場合は22分の1、記名の場合は10分の1という結果である。

(初出:MUFG BizBuddy 2013年8月)