拡大生産者責任(EPR)-汚染者負担の理想と現実

投稿日: カテゴリー: フランス産業

廃棄物処理の「汚染者負担」は実現できるのか? 「拡大生産者責任(EPR)」を負うべき産業を規定して、自助努力を求めるフランスの実践例を紹介する。

家電製品や事務機器を買うと、請求書の内訳にEco-participation DEEE(電気・電子機器部門環境負担金)が載っている。この頃は、家具や玩具にもこの環境負担金が付されていることが増えた。「汚染者負担」の原則の下、「拡大生産者責任(EPR)」が設定された産業の製品を製造、販売、または輸入した業者は、その製品のライフサイクル全体を管理する責任を負い、消費者に環境負担金という形で費用の一部を転嫁する。

「汚染者負担」の原則-EPR
フランスの産業別EPRは、欧州連合(EU)の廃棄物枠組み指令が規定するEPR原則に基づいている。この原則では、製造者つまりEPR対象製品を上市した者が、その製品のライフサイクルから生じる廃棄物の予防・管理に金銭的・組織的責任を負う。EU指令は、廃棄物対策に優先順位をつけ、まずは予防(廃棄物を作らないこと)、次いでリユース、リサイクル。それが難しい場合は焼却(熱エネルギーを回収すること)で、廃棄(土壌と大気の汚染源になる)はなんとしても避けるよう努める。

EU規定で設けられた薬品、家庭用包装容器、電池・蓄電池、自動車、電気・電子機器といったEPRに加え、フランスでは独自に、タイヤ、家具、建築資材、日曜大工・ガーデニング用品、玩具、スポーツ・レジャー用品などもEPRの対象としている。

上市者(EPRを負う製造者・販売者・輸入者を、本稿では便宜的に「上市者」と呼ぶ)は、事業活動から発生した「ゴミ」の管理を単独で行うか、団体を組織するかを選択できる。大多数は後者を選択し、産業別EPRのEco-Organisme(エコ組織、非営利)に加盟して、Eco-contribution(環境貢献料)という名目の会費を納める。エコ組織は上市者から集金した環境貢献料を使って、加盟上市者のEPR(予防、リユース、収集、分別、リサイクル、ゴミ問題への注意喚起)を果たす。

2020年に公布された循環型経済に関する廃棄物対策法(AGEC法)を機に、2022年以降は通信販売業者やマーケットプレイス(電子取引市場)にもEPR義務が適用されることになった。出店者が出品商品についてEPR義務を果たさない場合、マーケットプレイスが代わってその義務を負う。

EPR対象品目の販売店には、消費者の使用済み製品を引き取る義務がある。製品の種類と店舗の面積に応じて、例えば家具、日曜大工・ガーデニング用品、玩具、スポーツ・レジャー用品を販売する面積200平方メートル以上の店舗では、商品1点の販売につき使用済み製品1点を引き取る義務が生じる。400平方メートル以上の電気・電子機器と玩具の販売店、および1,000平方メートル以上の家具店では、何も買わない来店者の使用済み製品であっても引き取らなくてはならない。

エコ組織の仕組み
各産業別EPRに、フランス環境エネルギー管理庁(ADEME)が認可した1つまたは複数のエコ組織があり、加盟上市者に代わってEPRを果たす。Eco-Conception(エコデザイン)を策定し、収集・リサイクル・修理・リユースなどの数値目標を定める。また、分別やリサイクルの容易さを考慮した設計を採用することに加盟上市者がメリットを見いだせるよう、エコデザインに応じた奨励的環境基準を用いて、環境貢献料に割増・割引調整を設定する。

エコ組織は加盟上市者から集金した環境貢献料を、a)自治体またはゴミの収集・分別業者に分配、およびb)ゴミの収集・処理業者と直接契約という方法で、廃棄予防・廃棄物管理を実施する。

また、環境貢献料の5%を、修理や再資源化活動を行うエマウス(Emmaüs、カトリック司祭のピエール神父によって設立された慈善団体)やルスルスリ(Ressourcerie、再資源化センター)といった社会的連帯経済(ESS)団体への支援に充てることになっている。

エコ組織の例1-エコメゾン(Ecomaison)
2011年に家具調度EPRのエコ組織として発足したエコモビリエ(Eco-mobilier)は、2022年に新たに設定された3部門(建築資材、日曜大工・ガーデニング用品、玩具)のエコ組織としても認可され、エコメゾンに改称した。2023年の活動報告書を見ると、加盟企業は1万2000社以上で、集金した環境貢献料は3億3240万ユーロ。160万トンの「使用済み製品」を収集し、その97%を有効利用した。全国に8,600カ所ある収集ネットワークのおかげで、全国民が自宅から15キロメートル以内にエコメゾンの収集場所を見つけられるという。97%という有効利用率の内訳は、46%が焼却熱エネルギー化、45%がリサイクル、5%がリユースだった。

収集した160万トンのうち150万トンが家具調度で、活動の大部分を占める。家具調度の修理・リユース活動資金として、2024-2029年の6年間で1億4000万ユーロをESS団体に拠出すると決めた。

エコ組織の例2-エコシステム(Ecosystem)
エコシステムは、フランスに電気・電子機器EPRが設定された2005年に発足した。2023年の年次報告によると、加盟企業は6,112社、環境貢献料集金額は2億6338万ユーロ。活動実績は以下の通り。

◆個人から収集した電気・電子機器および電球64万6351トンのうち、2万6000トンをリユース、48万トンをリサイクルさせた。
◆リユースに回した電気・電子機器は1,127万台。また、機器を修理・調整して販売・譲渡する活動を行うESS団体に1,300万ユーロ以上を支援した。
◆修理ボーナス制度*を利用した12万4198件の修理に、エコシステムが294万2000ユーロの資金を出した(1件あたり平均24ユーロ)。QualiReparラベル認定を持つ修理業者812社、合計7,172人の技術者と提携して、5,055カ所で修理を受け付けた。修理実績が多い順に、携帯電話が36%、洗濯機が15%、食器洗い乾燥機(食洗機)が14%だった。
◆環境貢献料の2.47%(652万ユーロ)を研究・イノベーションに投資した。2023年に収集した電気・電子機器および電球から、危険物質・規制物質に分類された有害物質を6万2521トン抽出して、環境汚染ひいては健康被害防止に貢献した。
◆マーケットプレイス出店者へのEPR義務説明と勧誘により、800社余りがエコシステムに新規加盟した。
◆消費者向けの啓蒙活動の一環として、2020年以降、自転車レースのツール・ド・フランスに協賛し、携帯電話回収キャンペーンを実施している。これにより、2023年は3万台を収集した。
◆2023年6月にパリで、同年9月にニースとカンヌで、個人の自宅へ出向いて不要の機器を引き取るJedonnemonelectromenager.fr無料サービスを開始。2万4434件、3万4695台の機器を収集した。

パリ南郊の筆者の自宅がある地域にも、2024年から、数カ月おきに半日ほど、エコシステムの収集車がやってくるようになった。収集日の案内状に「大型家電はご自宅へ引き取りに伺います。Jedonnemonelectromenager.frへ連絡を」と書かれていた。

* 政府が2022年12月に導入した家電修理の奨励金制度。「QualiRepar」ラベル認定を得た修理業者に依頼すると、修理費からボーナス分を引いた金額が、消費者に請求される。ボーナス額は製品によって異なる。

活動報告を見る限り、産業別EPRのエコ組織は廃棄物問題に真剣に取り組み、効果的な不用品収集手段を考案し、リユース・リサイクル率を高める努力をしているようだ。しかし、消費者雑誌「クショワジール」(Que Choisir、「何を選ぶか」の意)が2024年の2月号でこの制度の問題点と限界を取り上げている。指摘された問題点をいくつか見てみよう。

エコ組織の課題
エコ組織が消費者から直接収集する量はわずかで、不用品の大部分は、自治体が収集・分別してエコ組織に引き渡している。自治体が収集するゴミが関係する産業別EPRは、2020年には5種だったが、2025年には13種になる。住民から収集するゴミを誰がどこで分別するかは大問題だ。

ゴミ処理場に集まったゴミをEPR別に分別し、エコ組織に引き渡すまで保存する仕組みと設備が必要になる。職員の教育研修、場合によっては増員が必要だろうが、この職種は有意義なのに賃金が安いため人気がない。エコメゾンのように複数のEPRを担当するエコ組織と提携すれば分別の負担が減りそうだが、エコメゾンは自治体に素材別の分別を行うよう要請している。不用品の種類(家具、玩具、大工道具など)にかかわらず、木材、プラスチック、家具の詰物・織物、金属、石膏に分けて引き渡してくれたら、効率よくリサイクルできる、という理由だ。しかし、玩具も家具も複数の素材の集合体であるものが多く、それを分解・分別してから当該エコ組織に引き渡すのは非現実的に思える。

住民が分別するとする。例えば、筆者の自宅があるパリ南郊の集合住宅のゴミ置き場は、ガラス用、包装・紙類(プラスチック容器、缶、アルミニウム、紙箱、段ボール、新聞雑誌など)用、その他(いわゆる「家庭ゴミ」)用のコンテナで既にほぼ満杯だ。それに、従来の「容器包装」EPRに加えて、2023年には「飲食業容器包装」EPRができ、2025年には「業務用容器包装」EPRが新設される。持ち帰りピザの箱やウーバーイーツの容器は、どのEPRの管轄になるのだろう?

本来、担当EPRの使用済み製品の収集・分別はエコ組織の責任なので、エコ組織は実質的にそれを代行している自治体へ、加盟上市者から集めた環境貢献料を分配することになっている。廃棄物の重量に応じて分配金を支払うのだが、リサイクルゴミの料金設定は焼却ゴミより高い。焼却する方が安上がりであれば、労力と費用をかけてリサイクル・リユースする意欲を損なうだろう。しかも、エコ組織から自治体に支払われる分配金は、結局、自治体が支出している実費の半分にしかならず、残りは自治体の持ち出し、つまり住民が納める税金で賄われているのが現実だ。自治体の負担額が多過ぎるとADEMEが認定した場合、エコ組織は自治体への分配金を増やすために環境貢献料を引き上げ、加盟上市者はそれを環境負担金に転嫁するだろう。結局は、消費者が、環境負担金の増額か増税か、どちらかを耐え忍ぶことになる。

また、ゴミ焼却活動に課される汚染活動に対する一般税(TGAP)も自治体の不満の種だ。自治体はリサイクル・リユースに回せない製品を仕方なく焼却するのだから、TGAPは焼却せざるを得ない製品の上市者が負担するのが筋、という主張だ。しかし、エコ組織にTGAPを課税すれば、それが企業の環境貢献料増額につながり、製品価格に含まれる環境負担金に転嫁されて、結局は消費者の負担が増す結果になるのではないか……。

リサイクルの可能性を念頭においた製品設計がなされている例はまだまだ少数派で、現在、不用品として収集されるゴミはひと世代前の製品だ。複雑な組成のプラスチックや合成繊維といった新素材は、環境への影響が判定できるまでに時間がかかる。また、物理的制約もあって、例えばエコメゾンは、木材のリサイクル施設がない地域では焼却する。焼却処分の方が、500キロメートル離れたリサイクル施設までトラック輸送するよりも環境負荷が少ないと判断しているからだ。リサイクル品の売却先の確保も問題で、例えば、再生プラスチックより新品の樹脂の方が相場が安い時に、企業が経済的理由で新品の方を買うのは妨げられない。環境連帯移行省(MTES)によると、フランスは、処理設備の不備とリサイクル品の国内需要不足で、ガラスと骨材以外は、分別された廃棄物の15-50%を輸出しているという。

さらに、産業別EPRごとのエコ組織という仕組みそのものへの疑問も提起された。廃棄物を作らないようにする予防もリユース・リサイクルも、製造・販売が商売である企業の経済活動と相反する。そもそも、商品を製造・販売する上市者が支払う環境貢献料で活動するエコ組織に、上市者に対して廃棄物削減を促す有効な働きかけを期待できるのだろうか? 公共事業として行うべき活動なのではないか? このように、「クショワジール」は手厳しく疑問を投げかけている。各産業別EPRには、収集・リサイクル・リユースの数値目標が定められている。未達の罰則も設けられているが、これまでのところ適用された例はほとんどないという。

産業別EPRのもう1つの課題
以上は、自治体やエコ組織を通して、いわば正規のルートに乗った廃棄物の話だが、不法投棄の問題もある。自治体にとっても自分の土地をゴミ捨て場にされた所有者にとっても頭の痛い話だ。不法投棄で多いのは、建築現場から出る廃材、古タイヤ、家庭から出る粗大ゴミだが、実は、不法投棄されたゴミの処理と投棄場所の清掃も産業別EPRの義務なのだ。これについてはまた別の機会に譲りたい。

参考資料
Fin de vie des objets, pp. 14-21
Que Choisir n°632 – Février 2024Décharges sauvages, pp. 10-15
Que Choisir n°638 – Septembre 2024
Les filières à Responsabilité Élargie du Producteur(https://filieres-rep.ademe.fr/)
2024年7月23日付プレスリリース, Ecomaison(https://ecomaison.com/wp-content/uploads/2024/09/20240723_resultats-Annuel-2023-Ecomaison-1.pdf)
Rapport Annuel 2023, Ecosystem(https://pro.ecosystem.eco/page/rapport-annuel-2023)

(初出:MUFG BizBuddy 2024年11月)