再生可能エネルギーEVでアフリカ縦断

投稿日: カテゴリー: アフリカ経済・産業・社会事情

2024年10月28日。再生可能エネルギー由来の電力を用いた4台の小型電気自動車(EV)で、アフリカ大陸を縦断する「La Croisière Verte(緑の大陸周遊の旅)」が、パリ・ダカール・ラリー常連のエリック・ヴィグルー氏の主導でスタートした。再生可能エネルギー発電所や車載のソーラーパネルで充電しながら、1万7000kmを走破した。

20世紀初頭、フランスの自動車メーカー「シトロエン」の創業者アンドレ・シトロエン氏は、自動車による初のアフリカ大陸横断という途方もない冒険を計画した。1919年に創業したばかりのシトロエン車のプロモーションであると同時に、第1次世界大戦終了から数年後という文脈において、自動車による連絡路を開いて経済発展を促し、アフリカ諸国間の結びつきを強めるという壮大な計画だ。地理や民族学の学術調査の意味もあった。

フランス・パリを出発した8台のハーフトラックは、1924年10月28日、アルジェリアから冒険をスタートさせた。そこから、当時フランス領であったマリ、ニジェール、チャド、ウバンギ・シャリ(現在の中央アフリカ)を進み、ベルギー領コンゴ(現在のコンゴ民主共和国)を通過。当時、英国の植民地であったウガンダで3つのグループに分かれた後、マダガスカルで合流した。8カ月かけて2万キロメートル(km)を走破したこの旅の映像記録は映画にまとめられ、1926年に『La Croisière Noire(暗黒大陸周遊の旅)』として発表された(https://www.youtube.com/watch?v=1GcIs0rn_NI でダイジェスト版が視聴可能)。

アンドレ・シトロエン氏の自動車隊がアルジェリアを出発してからちょうど100年後の2024年10月28日。再生可能エネルギー由来の電力を用いた電気自動車(EV)でアフリカ大陸を縦断するという新たな冒険「La Croisière Verte(緑の大陸周遊の旅)」がスタートした。パリ・ダカール・ラリーの常連だったエリック・ヴィグルー氏によるイニシアチブで、厳しい自然環境の走行に適したオフロード型四輪駆動車などではなく、軽量の小型EV4台に乗って、モロッコから南アフリカ共和国まで、現地の再生可能エネルギー発電施設で充電しながらアフリカ大陸を縦断するというプロジェクトだ。アンドレ・シトロエン氏の時代には自動車でアフリカ大陸を走行すること自体が野心的だったが、自動車が当たり前になった現在、アフリカが持つ再生可能エネルギーの可能性を追求するためにEVで1万4000kmを走破するのだという。

しかも、白羽の矢が立ったのは、なんとシトロエンの小型EV「アミ」だ。これは自転車と自動車の中間に位置付けられる小型EVで、フランスなど一部の欧州諸国では14歳以上であれば運転免許証がなくても運転できる。最高時速45km、航続距離は70km程度で、主に街中での移動に用いられ、パリの富裕層の子どもが通うリセの駐車場でよく目にする。ちょこんとした外見は可愛らしく、とてもサバイバルレースに向いているようには見えないが、実は、車体の作りが簡単で重量数百キログラム(kg)と軽量のため、改造して電力消費の少ない小型バギーに変身させられるのだという。今回は車体を強化してタイヤを大型タイヤに交換し、航続距離を伸ばすために大型のバッテリーを積んだ。平均時速45kmで1日200km程度を走るのが目標だ。

こうして、エリック・ヴィグルー氏のチームは、パリモーターショー2024の開催に合わせて2024年10月16日にパリを出発し、アミの製造工場のあるモロッコのケニトラを訪れた後、10月28日に同国南部の砂漠地帯にあるワルザザートからアフリカ大陸縦断の旅に出発した。ワルザザートには、再生可能エネルギー振興に国を挙げて取り組むモロッコが、2016年に第1発電所を開所したヌール太陽光発電複合施設があり、今回の旅の出発地にピッタリであった。

大西洋沿いに西アフリカ諸国と中部アフリカ諸国を通って南アフリカ共和国を目指すルートは、再生可能エネルギー発電所の場所を確認し、情勢を考慮した上で選定された。モロッコ、モーリタニア、セネガル、ギニア、コートジボワール、ガーナ、トーゴ、ベナン、ナイジェリア、カメルーン、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、アンゴラ、ナミビア、南アフリカ共和国を訪れ、行く先々で太陽光発電所や水力発電所、風力発電所などの再生可能エネルギー発電所に立ち寄って充電させてもらう。コートジボワールのコスー水力発電所では、その日の朝に連絡して午後に充電させてもらうことができたという。

もっとも、アフリカで再生可能エネルギー発電所が増えているとはいえ、それだけでは足りない。いつでも自分たちだけで充電できるように、コンポジット素材でできた折りたたみ可能なソーラーパネル40枚からなる太陽光発電設備を車に積み込んだ。この自家発電設備について、エリック・ヴィグルー氏は、「これは素晴らしい経験で、もうこれなしにはすごせない気がする。砂漠の真ん中、何もないところで止まっても、バッテリーを探す必要もなければ、ガソリンポンプを探す必要もない。自分たちの太陽光発電セットを取り出し、45分で設営完了。6時間後にはフル充電でき、これによって500~600kmも走れる。1回の充電で走った距離の最長記録は、モーリタニアで達成した572km。この時は1時間ずっとハンドルを切らないこともあった。平均的な走行距離は400~500kmだろうか。普通のEVだったら充電にもっと時間がかかり、走行時間も短くなったと思うが、車体が軽かったおかげで、短い充電時間で長い走行時間を実現することができた」と称賛を惜しまない。

アフリカ大陸の可能性を追求し、再生可能エネルギーや未来のモビリティ、イノベーションの分野での若者の意欲と取り組みを応援するという目的の下、エリック・ヴィグルー氏らは、コートジボワールで建設中のバイオマス発電所などの再生可能エネルギー関連施設、自家発電設備の整った持続可能な開発とクオリティを両立させたガーナの住宅地「エコ・ロッジ」、同じくガーナで電動モビリティの普及に向けて電動自転車・EVのレンタル事業を行うソーラー・タクシーや青少年団体「グリーン・アフリカ・ユース」が推進する廃棄物リサイクルプロジェクトなどを訪問した。コートジボワールではアビジャン技術高校、ベナンの中心都市コトヌーではクアボ・ガレージを訪問し、技術・機械科の学生たちと交流した。アンゴラの首都ルアンダでは、リセ・フランセの生徒たちにソーラーパネルを披露した。

旅先で地元の人々と交流するのも、時速45kmで進むスローな旅の大きな楽しみの1つだ。エリック・ヴィグルー氏は、「セネガルのある村では、夕方に到着し、使われていないサッカー場があったのでソーラーパネルを設営していたら、村人がどんどんやってきておしゃべりを始めた。その後、村人に誘われて一緒に食料の買い出しに出かけ、食事を振る舞われた。彼らは食器をリズミカルにたたき始め、みんなで踊った。夢見ていたことが現実になった。まさかこんな形で叶うとは思っていなかった」と感動を滲ませる。

コンゴ共和国の首都ブラザビルでは、空き缶やプラスチック、ビンのふたなどのリサイクル材料で作られた、象や木の形をしたカラフルな巨大オブジェを見つけた。女性互助会のイニシアチブなのだという。当初は予定されていなかったガボンで立ち寄ったオゴウェ川沿いのヌジョレでは、金の採取を生業とするジャイール氏に出会い、キャッサバやプランテンを使った伝統的な家庭料理をご馳走になった。

当初は2025年1月半ばに最終目的地のケープタウンに到着する予定だったが、最終的に上記15カ国にガボンを加えた16カ国を訪れ、2月28日にケープタウンに到着した。4カ月間で、当初予定の1万4000kmを大きく上回る1万7000kmを走破したことになる。もちろん、全てが順風満帆というわけではなかった。ラリーにありがちな車両の不調や故障もあったし、注文してあった交換部品が到着せずに何日も待たされたこともある。どうしても迂回できない道路が川に横切られて浸水していたために、車をトラックで運んでもらったこともある。紛争が繰り広げられているナイジェリアとカメルーンの国境地帯を通過する際には、カメルーン当局による護衛がついた。マラリアに感染して40度の高熱にうなされる経験もした。しかし、困難に遭遇するたびにスタッフが力を合わせ、地元の人々の助けを借りて乗り越えることができたという。

エリック・ヴィグルー氏はケープタウン到着後のインタビューで、「アフリカは素晴らしい可能性に満ちている。情熱と意欲に満ちた多くの若者に出会った。学生、生徒、持続可能なモビリティとそれを取り巻くアクターなど、数々の出会いがあった。環境保護などのさまざまなイニシアチブがあり、素晴らしい人々がいる。アフリカ、ヨーロッパにかかわらず、若者たちが冒険に乗り出せるよう、技術の限界を超えられるよう、応援したい」と語った。

余談だが、読者の皆さんは「リヤカーマン」の愛称で知られる日本人冒険家の永瀬忠志氏をご存じだろうか。1989年から1990年に徒歩でアフリカ大陸横断・サハラ砂漠縦断を達成した冒険家である。東アフリカ・ケニアのモンバサを出発点に、西へ西へと歩いてカメルーンのドゥアラまで行き、そこから北上してニジェールとアルジェリアの砂漠地帯を抜け、アルジェからフェリーでフランス・マルセイユに渡った。マルセイユからフランスを北上し、モンバサを出発してから376日目にパリへ到着した。1万1000kmを歩き切ってアフリカ大陸を横断しただけでもすごいが、永瀬氏の驚異的なところは、必要物資を全てリヤカーに乗せ、自分でこれを引きながら歩いたことだ。道が浸水して川のようになってしまったところも水に浸かりながらリヤカーを引き、リヤカーのタイヤが砂に埋まってしまう砂漠もタイヤの下に板を敷いて乗り切ったという。

再生可能エネルギー由来の電力を使って時速45kmのスローなアフリカ縦断の旅を実現したエリック・ヴィグルー氏も、これには驚くに違いない。

(初出:MUFG BizBuddy 2025年3月)