緑美しいハイテク都市、ルワンダの首都キガリ

投稿日: カテゴリー: アフリカ経済・産業・社会事情

1994年の内戦収束後、2000年代以降に急速な発展を遂げたルワンダの首都キガリは、「アフリカのシンガポール」と呼ばれる清潔で活気に溢れたグリーン都市だ。持続可能な都市開発を推進しようとする当局だけでなく、自分たちの街を誇りに思う市民が一体となって街づくりを進めている。

ルワンダは東アフリカにある面積約2万6300平方キロメートル、人口1,263万人(2019年、世界銀行)の小さな国。コンゴ民主共和国、タンザニア、ウガンダ、ブルンジに囲まれた内陸国でもある。ルワンダは「千の丘の国」とも呼ばれ、いくつもの丘陵地帯にまたがって広がる首都のキガリは、緑に溢れ、高層ビルが立ち並ぶ、アフリカで最もエコロジカルといわれるハイテク都市だ。24時間営業のショッピングセンターがある市街地にはゴミ一つ落ちておらず、「アフリカのシンガポール」と呼ばれるのもうなずける。しかし、キガリが常にこのような先進的な都市だったわけではない。以前は居酒屋も21時には閉まる田舎町だったという。

人口の1割が命を落としたとされる1994年の内戦から約30年。2000年に就任したカガメ大統領の強力なリーダーシップの下で、ルワンダは21世紀に入って近代化を急速に進めた。2020年を展望に据えた国家開発プログラム「Vision 2020」が実施され、ルワンダを中所得国に成長させるだけでなく、アフリカで最も持続可能で、ハイテクで、ネットワークの整備された国にするための取り組みが大車輪で実行された。

こうして、田舎町だったキガリを近代的な都市へと変貌させる第一歩として、向こう50年間の都市基本計画が作られた。都市計画を専門とする米国OZ Architectureによって構想されたこの計画には、新たな国際空港のほかに、ショッピング街、オフィス街、テクノロジー企業や医療機器企業のための企業団地の建設が盛り込まれた。

開発が急ピッチで進むキガリで、アフリカのデジタル化を推進する「スマートアフリカ」が、第1回「トランスフォーム・アフリカ・サミット」を開催したのは2013年10月。情報通信技術(ICT)をアフリカの開発の要の一つとすることを謳った「スマートアフリカ」宣言を通じて、サミットに参加したアフリカ諸国は、(1)ICTを国の社会経済開発プログラムの中心に据える、(2)ICT、特にブロードバンド・サービスへのアクセスを改善する、(3)ICTを通じて予算・財政の効率および透明性を改善する、(4)民間セクターを優先する、(5)持続可能な開発を促進するためにICTを活用する、の5原則に賛同した。ルワンダ政府はこれを驚くべき忠実さで実行に移していく。

ルワンダ政府は同年、首都キガリを持続可能で環境に優しい都市にするため、自然資源の保護とスマートな管理を目的とする「スマート・キガリ・イニシアティブ」プログラムを開始した。折しも、米国ロックフェラー財団の支援でスタートした「100のレジリエント・シティ」プロジェクトに参加するアフリカ6都市の一つに選ばれた。

住民の公共サービスへのアクセスを容易にするために多大な努力がなされ、民間セクターの協力によって公共の場やレストラン、ホテルなどでWi-Fiを無料で利用できるようになった。唯一の公共交通機関であるバスの乗車券は、紙の切符からチャージ式のカードに取って代わり、車内ではWi-Fiを利用することができる。もちろん無料だ。

バス・サービスの充実に加えて、歩道や自転車道が整備され、市街地の渋滞を解消して市民の移動を円滑にする取り組みが推進された。月に数回の「Car Free Day」も導入され、2021年には自転車のシェアリングサービスが始まった。2022年からは市民の足として人気のタクシーバイクにも電気バイクが利用されるようになり、騒音もなく環境にも優しいと好評だ。企業活動も盛んで、エコロジーをはじめ、さまざまな分野でビジネス機会が創出されている。

ルワンダでは2008年以来、ポリ袋の生産・輸入・利用が禁止されており、もちろんキガリも例外ではない。紙袋やエコバッグを抱えて歩く市民の姿は日常の風景だ。プラスチック製の使い捨て製品も禁止になり、抜き打ち検査でこれらの製品が見つかった商店は、製品を没収された上で罰金を支払わなければならない。再犯の場合は、閉店を命じられることもあるという厳しさだ。街中でのゴミのポイ捨ても当然ながら禁止されており、これに違反すると10ユーロから100ユーロの罰金を科せられ、公益事業への従事を余儀なくされるため、ゴミを捨てる人はいないという。

また、全ての住民が参加する地域の奉仕活動の日「ウムガンダ」も忘れてはならない。毎月最終土曜日の午前中はウムガンダの時間とされ、地域住民が集って居住地域の清掃、草刈りや植林、道路や公共施設の修復、貧困層のための住宅建設といった作業に従事する。キガリ市民は自分たちの街に誇りを持ち、市民が一体になって清潔で緑に溢れた街を作り上げているのだ。

2017年5月に開催された第3回「トランスフォーム・アフリカ・サミット」のテーマは「スマートシティの開発」だったが、この分野に関して、ルワンダにはキガリの都市開発という経験とノウハウがあり、机上の空論に終わらない未来の都市像を描くことができた。そのルワンダで進行中のプロジェクトが、「グリーンシティ・キガリ」だ。これは、エコロジーとデジタルを駆使して、キガリ郊外の620ヘクタールの区域内に住宅、商業施設、オフィスを整備するプロジェクトで、ルワンダでは、映画『ブラックパンサー』の舞台となった最先端の技術と伝統が併存する架空の国「ワカンダ」の名前で呼ばれている。総額50億ドルの投資が見込まれる大規模プロジェクトであり、2022年にパイロット・フェーズがスタートした。

グリーンシティ・キガリは100%持続可能な都市であり、地元の持続可能な建材を用いて数万戸の住宅が建設され、電力は太陽光発電と廃棄物を燃料とするバイオガス発電によって賄われる。独自の排水・汚水処理システムを用いて処理された水は、産業用に再利用される。都市森林が広がり、住民は電気自動車で移動する。自転車道だけでなく電気バイク用の道路、そしてバス以外の公共交通機関としてロープウェイも整備される計画だ。より多くの人々が住宅にアクセスできるようにするため、低所得者層が手頃な価格の住宅を購入できるような新たな融資システム(購入オプション付きのリース契約)も導入され、最も貧困な人々には公営社会住宅が提供される。

このプロジェクトは、都市人口の増加に対応すると同時に、エネルギー生産、廃棄物処理、温室効果ガスの排出削減、気候変動による災害の増加などの課題に応えるべく、最新の技術とイノベーションを活用し、グリーンな都市化のモデルを提示することを目標としており、ドイツ復興金融公庫(KfW)と緑の気候基金(Green Climate Fund:GCF)の資金協力を受けている。

ルワンダはこのプロジェクトを通じて、持続可能な都市開発を一段と力強く推し進めていく。国内だけでなくそのほかのアフリカ諸国でも、グリーンシティ・キガリにならった持続可能な新都市が建設されることになるかもしれない。すでにアフリカで最もエコロジカルな都市とされるキガリが、10年、20年、30年後にどのような都市になっているのか、興味は尽きない。

(初出:MUFG BizBuddy 2023年3月)