欧州中銀(ECB)のドラギ前総裁は9月9日、欧州連合(EU)の競争力に関する報告書を提出した。EUの国際競争力が低下している現状を問題視し、踏み込んだ改革を提言した。
欧州委員会は昨年秋に、ドラギ前総裁に報告書の作成を依頼していた。欧州委のフォンデアライエン委員長はドラギ前総裁と共に報告書の公表に立ち会った。報告書は400ページに及び、全部で170項目の提言を盛り込んでいる。報告書はまず、経済成長率の格差の拡大、世界貿易における地位の低下、不十分な投資の水準、労働力の不足など、欧州経済が抱える問題点を指摘。報告書は特に、米中との技術開発における競争を勝ち抜くために、EUにおけるイノベーションを刺激し、また様々な部門における大手企業の発足を可能にする必要があると強調している。そのために、競争法規とその適用のあり方を見直すことを提案した。具体的には、買収案件の影響を評価するに当たっては、加盟国ごとではなく、欧州全体の市場を考慮することを提案。さらに、条件付きで買収を許可しておいて、後に影響を評価し、必要なら是正を命令するという形にすることも提案した。このほか、新技術について、AI(人工知能)などを念頭に、規制が厳しすぎて、ベンチャー企業の将来的な成長の芽を摘む恐れがあると指摘し、見直しを勧告した。
報告書は、欧州経済が世界における競争力の回復を図る上で、年間に7500億-8000億ユーロ以上の追加投資を実現することが必要になるとの試算も示した。これは、EUのGDPの5%程度に相当し、過去50年余りでこれだけの規模の投資が実現した例はかつてない。報告書は、デジタル移行やグリーン移行の実現をにらんで、欧州エネルギー市場の統合に向けた取り組みなどを提言。また、ファイナンスに絡んで、資本市場の統合強化にも触れ、ドラギ前総裁は特に、EUによる共同起債による資金の確保に賛意を表明した。欧州域内の防衛産業部門の振興も重要課題として挙げ、共同調達の推進や、欧州企業優先を可能にする規則の制定などを勧告した。