分別意識が低い、フランスでのプラスチック容器包装削減対策

投稿日: カテゴリー: フランス社会事情

日本とフランスでちょっと意識が違いそうな「プラスチック製品・容器包装問題」。回収を最適化してリサイクルやリユースを進める、プラスチック容器包装の絶対量を減らす、プラスチックを他の材料で代替するなど、フランスの政府/行政、社会、企業の課題と取り組みを紹介したい。

環境問題が世界的な課題となって久しいが、その中でも、温暖化と並びよく耳にする問題が廃棄物ではないだろうか。廃棄物といってもいろいろあるが、最も身近で厄介、かつ日本とフランスでちょっと意識が違いそうなゴミ問題といえば、日々家庭から排出されるプラスチック製品・容器包装である気がする。本稿では、現状の検証がてらにフランスのプラスチック製品・容器包装問題を雑観してみたい。

たまに日本に帰国すると、廃棄物の分類の細かさにびっくりさせられる。また、日本人の真面目な分別ぶりにも感心する。フランスでも、家庭では「燃えるゴミ」「リサイクルできるゴミ(紙類、プラスチック)」「ガラス瓶類」程度の分別はするが、フランス人のラテン気質を考えると、日本人ほど厳密に分別しているとは思えない。まして日本のように、牛乳パックは洗って乾かし、さらに開いて平面にして、PETボトルも洗ってラベルをとって、これらをまとめて保管し、指定日に回収してもらう、あるいはスーパーなどの回収場所に持っていく、などという作業は、どう考えても平均的なフランス人には望めないように思える。その上フランスでは、町の中に据え付けてある公共のゴミ箱には、燃えるゴミとプラスチック類の分別がない。分別回収に意識が高く、街中にも分別用の複数のゴミ箱を設置する自治体がないわけではないが、パリなどはまだ、瓶も含めたあらゆる廃棄物に同じゴミ箱を利用している。

個々人が分別していないということは、プラスチックのリサイクル率も低いのではないか。これを示す数字として、欧州のプラスチックメーカー業界団体PlasticsEuropeが2018年1月11日に発表した報告書を紹介したい¹。

この報告書は2年ごとに発表されるもので、最新版も2016年のデータを対象としており若干古いが、フランスではここ数年で分別が徹底化されているようには見えないので、今も状況は大きく変わらないだろう。最新の報告書によると、フランスにおけるプラスチックのリサイクルは、ほかの欧州連合(EU)加盟国に比べてやはり遅れている。EU平均での2016年のプラスチックリサイクル率は31.1%、サーマルリサイクルが41.6%、埋め立てが27.3%だったのに対し、フランスではこの割合がそれぞれ22.8%、44.2%、32.5%となった。フランスは、プラスチックリサイクル率(22.8%)ではほぼ最下位に近く、サーマルリサイクルを含めた割合(67%)の順位では全体の中程度に留まった。特にプラスチック全体の約65%を占めるプラスチック包装容器のリサイクル率が26.2%と、EU平均(40.8%)に比べて顕著に低い。

仏CITEO(プラスチックのリサイクル組織)の最近の報告を見ても、2018年のフランスでのプラスチック容器包装のリサイクル率は26.5%に留まる²。仏政府は2025年までにプラスチックを100%リサイクルするとの目標を掲げているが、目標は非現実的だとの指摘が多い。

プラスチックのリサイクル/リユース率を高めるため、仏政府はいくつかの施策を検討している。仏国会は現在、「循環経済法案」の審議を進めているが、この中でもプラスチック容器包装対策がいくつか提案された。検討案件の中で最も話題になったのは、プラスチックの容器デポジット制の導入である。デポジット制度は、小売価格に容器代(デポジット)を上乗せしておいて、容器回収時にこれを払い戻す形で回収を図る制度で、フランスでもかつてはガラス瓶において適用されていたが、ペットボトルの普及を経て、アルザスなど一部地域を除いては姿を消していた。

ペットボトルのリサイクルを目的とするデポジット制は、隣国ドイツなど一部の欧州諸国では早くも普及している。フランス政府も、近隣諸国の例に倣ってデポジット制度を再導入することを考えたわけだが、実はこの案は、最近の上院審議で廃案となってしまった。

もう一つ、プラスチック容器包装について話題となっている対策は、製造者が廃棄物処理の責任を負うという原則であり、拡大製造物責任(REP)の拠出金の増額・減額制度である。1993年以来、プラスチック容器包装もREPの対象となっており、製造者、販売者および輸入者が直接に、または、管理事業に当たる認可団体(エコ・オルガニズムと呼ばれる)への資金拠出により、廃棄物の管理の責任を果たすことになっている。政府は上に紹介した「循環経済法案」の中で、この拠出金について、リサイクル材料を使用するなど環境配慮と循環経済推進に協力する取り組みをしている事業者には減額し、逆の場合には増額するという形のボーナス/罰金の導入を提案している。

これらは政府主導の措置だが、メーカーや小売業者の任意の取り組みもある。仏食品小売の大手ルクレールは、オクシタニー地域圏とパリ首都圏(イル・ド・フランス地域圏)の37店舗で、ペットボトルのデポジット制度を試験的に導入した。ペットボトル自動回収機をスーパーの店内に設置して、ユーザーはルクレールのポイントカードを利用して、ボトルの大きさに合わせて1ボトルあたり1~2ユーロセントの払い戻しを受けることができる。ユーザーは、戻ってきた1~2ユーロセントを貯めておくか、ガンや認知症の支援を行うNGO団体に寄付をするかを選択することもできる。

回収機を設置するのは、パリのスタートアップCycleenで、ルクレール以外でもカルフールやオーシャンなどの競合への納入で実績があり、ノルウェーのTomra製の回収機合計60機をフランス国内で設置した。1店舗につき1日ボトル2,500本、月に2~4トンを回収するという。

一方フランスでは、これまでのところリサイクルで遅れを取っている分、プラスチック容器包装自体を減らす対策には割と熱心かもしれない。日本を訪れるフランス人は一様に、日本の過剰包装に驚く。確かにスーパーやコンビニなどを眺めると、フランスに比べて食品の個別包装が多く、ビニール袋を多用する傾向にあるように思う。

日本では2020年7月からレジ袋が本格的に有料化されるようだが、フランスではすでに数年前から小売におけるレジ袋とポリ袋は全面的に禁止されている。レジ袋に関しては2016年7月1日から、生物分解性のものも含めて禁止になった。ただし50ミクロン以上の厚みがあるものは許可される。これは、「厚手のプラスチックバッグは再利用が可能である」からだ。許可されるレジ袋には、「再利用が可能」という文言を記載することが義務づけられている。

また、2017年1月1日からは青果の量り売りなどに利用されるビニール袋も禁止された。こちらに関しては、生物分解性で、家庭でのコンポストが可能な袋はまだ利用できるが、バイオ由来の素材の混合率が、段階的に2017年に30%、2018年に40%、2020年に50%、2025年に60%以上でなければならないという条件が課される。ちなみに生物分解性のプラスチック袋に関して、最近、英国で「土壌や海洋に放置の“生物分解性プラスチック”が3年経っても変化なし」という調査結果が発表され³、その有効性に疑問が浮上している。

フランスの小売では量り売りの製品(青果、穀類、豆類などの乾物から化粧品や洗剤のリフィルまで)を購入する際に、容器を持参する人も増えている。スーパー側でもシングルユースのプラスチックを減らすために、量り売り促進の取り組みを行っており、飲料やヨーグルトにも量り売りを導入するチェーンもある。

最近では、リサイクルのTerraCycleとカルフールなどの小売および食品加工大手25社が提携し、注文の宅配と容器回収を行う「LOOP」という量り売りECの試みがパリでテスト中である4。消費者はネットで注文したものを再利用可能な容器にて自宅で受け取り、容器はLOOPが訪問により回収、洗浄後に再び利用する。量り売りに関しては、量り売り専門の小売チェーン「Day by Day」も店舗数を増やしている。同チェーンでは、青果は取り扱っていないが、オイル、香辛料、ペットフードも量り売りで購入可能。

また、食品小売大手の多くは、PBブランドにおいて使い捨ての容器包装を今後数年で全廃することを目標に掲げている。食品以外のメーカーでは化粧品や日用品メーカーが新素材の容器の採用を進めている。仏化粧品のロクシタンは2019年に入って、再生ペットボトルの導入を段階的に開始した。2025年には全てのプラスチック容器を再生材料使用に切り替える計画で、再生原料100%のPETボトル製造の技術を持つカナダのループ・インダストリーズと契約、ループは自社の欧州工場から、ロクシタンの製品容器を製造する仏2社に再生材料を供給する。ちなみにループは、食品・飲料メーカー(ペプシコ、ダノンおよびエビアンなど)とも契約を結んでいる。ロクシタンはシャンプーなどの詰め替え販売など、10年前から環境問題への取り組みを行っており、フランス、オーストラリア、日本、英国などでは店頭で容器回収も行っている。

同じく仏化粧品大手のロレアルも最近、クリーム類の容器の一部に厚紙を材料とするチューブを採用すると発表した。容器・包装のアルベアと提携して、プラスチック製容器の代わりに、生分解性がある厚紙を材料とする製品の開発に取り組んでいる。2020年から厚紙を使ったチューブを傘下のラロッシュポゼのクリームに採用し試験を行い、結果が良好ならば新チューブを他のブランドでも採用するという。
2025年までに、ロレアルの全製品の容器について、再充填可能かつリサイクル可能、あるいはコンポストとして利用可能とするという野心的な目標を掲げている。

プラスチック製品・容器包装問題については、回収を最適化してリサイクルやリユースを進める、プラスチック容器包装の絶対量を減らす、プラスチックを他の材料で代替するなど、日本でもフランスでも方策はいろいろである。個別の取り組みもさまざまな形があると思うが、これからの地球や子供たちのためにも、できるだけのことはしたいものである。

最後に、容器包装からは少し外れるが、ユニークなパリのスタートアップ企業Kooveeを紹介したい。欧州連合(EU)では、プラスチック製の綿棒、食器(コップや皿、ナイフやフォークなど)、マドラー、ストローなどを禁止し、持続可能な素材の製品で代替することを決めたが、この施行に先駆けてKooveeは「食べられる食器」を開発している。これまでにスプーンとフォークが開発済みで、65度のスープに6分間漬け込んでもくずれない耐性を実現、食事が終わった後、これらのスプーンとフォークはポリポリおいしく食べられる。ナイフの開発も進めているようだが、そこまでしなくても、普通のステンレスのスプーンを使っては? と思うのは筆者だけか。

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1 https://www.plasticseurope.org/application/files/6315/4510/9658/Plastics_the_facts_2018_AF_web.pdf
2 https://bo.citeo.com/sites/default/files/2019-07/20190612-FicheA5_Chiffres_cles_2018_2_validee.pdf
3 https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.est.8b06984
4 https://maboutiqueloop.fr/

(初出:MUFG BizBuddy 2019年11月)