1人暮らし世帯や1人親世帯が増えたフランス

投稿日: カテゴリー: フランス社会事情

フランスの世帯の構成について国立統計経済研究所(INSEE)が実施した最新の調査で、1人暮らし世帯(単身世帯)と1人親世帯(単親世帯)の増加が近年顕著であることが確認された。特に高齢化の進行と離婚の増加を反映し、高齢者の1人暮らしと未成年の子どもがいる1人親家庭が増えている。1人親家庭では母子家庭が圧倒的に多いが、父子家庭の割合も拡大している。

フランスで単身世帯(1人暮らし世帯)や単親世帯(1人親世帯)が増えている。その結果、世帯総数は増加したが、世帯の規模は縮小している。国立統計経済研究所(INSEE)が2017年8月に最新の調査結果を発表した(https://www.insee.fr/fr/statistiques/3047266)。

日本でも同様の現象が進行しており、世帯総数が増加し続ける一方で、世帯の小規模化も加速しているため驚きは感じないが、少子化と人口の減少が顕著な日本と異なり、フランスは2016年の合計特殊出生率*が1.93と日本の1.44を大きく上回っており、移民の流入数もはるかに多く人口は全体として増加しているので、事情は多少異なる。世帯総数の増加と小規模化という結果は同じでも、そこに至る原因は必ずしも同じとは限らない。

例えば、離婚の増加が単身世帯や単親世帯の増加につながっているという状況は日本、フランスに共通の要素のように思われるが、日本では3組に1組しか離婚していないのに対して、フランスでは2組に1組に近い比率(45%)で離婚しているそうだ。しかも、日本では協議離婚が認められており、その場合には離婚手続きがあっけないほど簡単であるのに対し、フランスではごく最近まで協議離婚の制度がなく、夫婦の双方が離婚について合意している場合でも裁判所での手続きが不可避だったことを考えると、離婚に関する両国の違いはいっそう鮮明になる。

加えて、フランスでは正式な結婚をせずとも夫婦と同等の権利を享受できる民事連帯契約(PACS)という制度があるので、一種の事実婚という形で家庭を持ち、子どもをつくるカップルも多い(オランド前大統領などもそうだ)。一昔前と比べて結婚するカップル自体が減っているのに、そのうちの半数弱が離婚するのだから、安定的な夫婦というものがいかに希少になっているかが分かる。

なお、本稿では以下、便宜的に「結婚」「離婚」「夫婦」「配偶者」という言葉を用いるが、これには実際にはPACS利用のような関係も含まれていると考えていただきたい。

さて、INSEEによると、フランスの総人口は2013年に約6,410万人、世帯総数は2,850万世帯となり、世帯当たりの平均人数は2.2人だった。2,850万×2.2=6,270万なので、計算が合わないように見えるが、これは残りの140万人超が「世帯」以外で生活していたためだ。

ここで「世帯」という言葉の定義を確認しておく必要がある。フランス語で「世帯」を指す言葉は「MÉNAGE(メナージュ)」という。INSEEは「世帯」を「一つの住居を共有する居住者全員で構成される単位」と定義し、近親関係の有無には左右されないとしている。この場合の住居は「本宅」を指し、例えば就学や職業上の理由で他の住居でより長い時間を過ごす場合でも、自分の(家族の)本宅の居住者と見なされる。これに対して、ホームレス、若年労働者や高齢者などのための施設、トレーラーハウスなどで暮らす人々は「世帯」に所属するとは見なされない。上記の140万人はこうした人々である。

この定義による「世帯」は「家族」とは重なり合わない。フランス語の「MÉNAGE」には「夫婦」という意味もあるので混乱が生じそうだが、INSEEが統計で用いている「MÉNAGE」という言葉はそれとは関係がない。住居に1人だけで暮らしていてももちろん「世帯」だし、兄弟姉妹だけで暮らしている場合や、婚姻関係や血縁関係なしに単に同じ住居を共有している場合でも「世帯」と見なされる。

ちなみに、INSEEは「家族」(フランス語では「FAMILLE(ファミーユ)」)については「一つの世帯内で、夫婦関係または親子関係がある場合」を指すとしている。だから例えば、上記のように兄弟姉妹で構成される「世帯」でも「家族」とは見なされず、1人暮らし世帯などと同じく「家族のない世帯」に分類されることになる。なお、後述の「1人親家族」の場合は、フランス語では実はこの「FAMILLE」という言葉が用いられている。日本語では「1人親家庭」「母子家庭」「父子家庭」などの方が一般的な用語かもしれないが、混乱を避けるために「家族」で統一した。

さて、上記のように総数が2,850万の世帯の人員別の分布を見ると、1人世帯が35%、2人世帯が33%、3人以上の世帯が32%で、ついに1人暮らし世帯が最も大きな割合を占める結果となった。

ちなみにINSEEの調査は国勢調査の結果をまとめたもので、2013年の調査結果とそれ以前の調査結果の比較により、時代を追った変化を分析している。

1999年のフランスの総人口は5,884万人で、2013年までの14年間で8.9%増加した。この間に世帯数は2,433万世帯から約2,850万世帯へと17.2%も増加している。つまり、世帯当たりの成員数が縮小したわけで、1999年には世帯の平均人数は2.4人だった。

世帯の平均人数は1851年には4.0人だったのが、その後減少し続けてきたわけだが、そのリズムは一定ではなく、1950年から1960年にかけてのベビーブーム時代には3.1人で一定していた。

1980年代以後の世帯総数の増加はほぼ1人世帯と2人世帯の増加によるものである。1999年から2013年にかけて、単身世帯は240万増、2人世帯は180万増を記録した。対照的に人員が3人以上の世帯数は1982年以後減少の一途をたどっている。5人以上の世帯は1960年代には全体の20%程度を占めていたが、1990年には10%、2013年には6%程度にまで減少した。1960年代には5人以上の世帯と1人世帯の割合がほぼ同じだったことを思うと、その後の世帯構成の変化の大きさがよく分かる。

こうした傾向は、人口の高齢化のせいもあるが(高齢化は1999年から2013年にかけての1人世帯の増加の半分に関係しているという)、それ以外に、生活様式の変化にも由来している。子だくさんの家族が減り、結婚年齢が上昇したのと同時に、離婚も増えて単身世帯が増加した。また、異なる世代が同じ住居で暮らすケースも減少した。

特に高齢者の1人暮らしが増えていることは最近の顕著な傾向の一つだ。2013年75歳以上では38%(男性の21%、女性の48%)が1人暮らしだといい、特に女性の半数近くが1人暮らしであることが注目される。これは、大半のカップルで妻が夫よりも若い上に、女性の方が平均寿命が長いために、夫に先立たれて寡婦になる女性が多いためだ。それに加えて離婚した場合でも、女性の方が男性より再婚率が低いことも一因だという。

離婚の増加が及ぼす影響も大きく、1999年から2013年にかけて、女性では66歳未満、男性では73歳未満の全ての年齢層において配偶者と一緒に暮らす者が減り、1人暮らしが増加した。

他方で、高齢化は、より高い年齢層では部分的にむしろ逆の現象を招いているのも興味深い。85歳以上の女性、93歳以上の男性では、1999年から2013年にかけて1人暮らしも増えたが、配偶者と一緒に暮らす者も増えたという。その背景には、寿命が長くなったために高齢まで死別しないケースが増えたことがある。また、高齢になっても老人ホームなどの施設に入居せず、自宅で暮らすケースが増えているが、その場合、子どもなど配偶者以外の家族と同居するケースは減っているという事情がある。

上記のように、1人暮らしの世帯は全世帯の3分の1以上を占めるに至ったわけだが、単純に計算して分かるように人数でいえば1,000万人弱であり、総人口に占める割合は15%となる。1990年にはこの割合は10%、1999年には12%だった。

1人暮らしの男女比は、1990年には女性が男性の1.68倍に達していたが、1999年には1.48倍、2013年には1.35倍となり、女性の方が多いことに変わりはないが、差は縮まっている。女性の場合、40歳前後で1人暮らしの比率が最も低くなって8%にすぎず、72%が配偶者と共に暮らし、16%は1人親家庭の親という内訳になっている(残りは配偶者や子ども以外の人と同居)。男性では、40歳前後では16%が1人暮らしで、配偶者と共に暮らしているのは同じく72%、1人親家庭の親は3%にすぎない。

2人世帯の構成に目を転じると、こちらは子どものいない夫婦が78%を占め、16%が1人親世帯、残りの6%は婚姻関係も親子関係もない2人の世帯となっている。内訳は1999年以来ほとんど変化がないという。しかし、上記で見たように2人世帯の総数自体は増えているので、子どものいない夫婦も、親子1人ずつの1人親世帯も増えていることになる。

フランスの世帯事情を知る上で、高齢者の1人暮らしと並んで特に気になるのが、未成年(18歳未満)の子どもがいる1人親家族だ。その数は1990年には95万だったが、1999年には129万、2008年には162万、2013年には178万とみるみるうちに増加した。未成年の子どもがいる1人親家族が成立する契機としては、やはり離婚が圧倒的に多く、配偶者との死別や、婚外子出産のケースはまれだという。

なお、1990年から2013年にかけて未成年者の人口はほぼ1,400万人前後で安定しており、未成年の子どもがいる家族の総数は1990年の765万から2013年の802万へと緩やかに増加した。こうした状況で、1人親家族だけが急増したわけで、未成年者のいる家族全体に占める1人親家族の割合は1990年の12.5%が1999年に16.9%、2008年に20.6%、2013年には22.2%へと拡大し続けている。その一方で、1人親家庭のうち親が女性(母子家族)の割合は1990年に88.5%だったのが、その後少し低下し、2013年に84.3%となった。父親が1人で子どもを育てるケースが増えたわけで、これも現代フランス社会の特徴といえよう。

* 15~49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの

(初出:MUFG BizBuddy 2017年9月)