クリュニー美術館、一般公開が再開に

投稿日: カテゴリー: 日刊メディアダイジェスト欧州レポート

手元に1枚の絵葉書がある。パリのクリュニー美術館所蔵の板絵で、キリスト降誕(誕生)の場面が描かれている。14世紀前半にイングランドで制作された「聖母マリアの生涯」の祭壇画の一部である(www.musee-moyenage.fr/collection/oeuvre/devant-autel-vie-vierge.html)。キリスト降誕の場面の図像的表現はいつでもおおむね一定であり、聖母マリアと幼子イエス、父親のヨセフ、そしてロバと牛が描かれている。この絵画で特筆すべきは、ヨセフが被り物をして杖をついていることで、ここではヨセフは肩肘をついて、疲れて眠っている老人として描かれている。三角形をした被り物は、実はユダヤ人の帽子であって、この時代の西欧の絵画によく現れるモチーフである。ここでは控え目な形をしているが、罰ゲームのような奇態な形をしているものもあり、今日の魔法使いの帽子の祖先となったものである。ところで、この家族は訳ありであって、父と子と精霊が同一という三位一体の教義からして、キリストの本当の父は自分自身であってヨセフではない。それと絡んで、この作品が突出しているもう一つの点は、幼子に乳を与えているマリアが左手に鳥を持っていることであろう。鳩は精霊の具象化であり、キリスト降誕の場面に鳩が描かれているものはほかにもあるが、聖母が自ら手にしている例は多くない。この構図には、本当の家族と、家族外のユダヤ人の老人という対比を鮮明にする効果がある。
クリュニー美術館は長らく改修工事のため閉館しており、この作品も実物を見る機会が失われていたが、12日に7年ぶりに一般公開が再開されることになった。改修工事には2300万ユーロ弱が投資され、バリアフリー化を実現するとともに、展示の方法も全面的に見直された。以前は、絵画や工芸品などジャンルごとの展示だったが、リニューアルを経て、時代順の展示に改められた。美術館の建物は、15世紀にできたクリュニー修道院のものだが、古代ローマ時代の浴場跡も含まれており、新たな見学コースは、古代ローマから始まり、中世の各時代へとつながるように配置されている。もちろん、有名な一角獣のタピスリーや、ハリー・ポッター関係で有名になったニコラ・フラメルの墓標も、見学のハイライトとして訪問客を待っている。