フランス観光業界、中国企業との提携加速

投稿日: カテゴリー: フランス産業

フランス観光各社は、欧州を旅行する中国人観光客の獲得と巨大な中国観光市場への参入を目指し、中国企業との提携、経営統合を進めている。これは中国企業にとって、欧州における事業展開の足場を確保でき、事業ノウハウを取得できるという利点がある。

中国人の観光熱が高まっている。国連世界観光機関(UNWTO)の統計によると、中国人海外旅行者の国外での消費額は2012年に1,020億ドルに達し、世界最大となった。また中国の観光当局の集計によると、中国人の海外旅行者は2013年に9,700万人に上り、2014年には1億人を突破することが確実視される。フランスを訪れた中国人旅行者は2013年に170万人と前年比23%増え、2009年比では倍増した。海外旅行と同時に国内旅行も急成長し、オックスフォード・エコノミクスが航空券予約大手アマデウスの依頼で実施した調査によると、中国は2017年に国内旅行でも世界最大の規模に躍進することが予想されるという。

フランス観光各社は、中国人旅行者の誘致と中国国内の巨大観光市場への参入を狙って、中国企業との提携を進めている。一方、中国企業にとっては、フランス企業の買収・提携で欧州における事業展開の足場を確保でき、事業ノウハウを取得できるという利点がある。

ホテル運営のパリイン・グループは2014年10月20日、中国のPlateno Hotels Groupと合弁を設立し、高級ブティックホテル(デザインホテル)の国際チェーン「Albar Hotel Collection」を展開すると発表した。合弁には、Plateno Hotels Groupが70%、パリイン・グループが30%出資する。2020年には「Albar Hotel Collection」70軒(うち中国で50軒)、いずれは200軒を開く計画。凱旋(がいせん)門近くの五つ星ホテル「シャンゼリゼ・マクマオン」がAlbar Hotel Collectionの第1号店となる見込み。フランス以外ではイタリアやスペイン、英国ロンドン、米国ニューヨークなどでの展開を目指す。

パリイン・グループはパリの四つ星ホテルを中心に31ホテルを運営している他、ホテル不動産も手掛けている。Plateno Hotels Groupは、五つのブランドの下、中国300都市に2,700軒のホテルを運営する。2014年の売上高は推定16億ドル。

2014年11月11日には、中国のジンジャン(綿江)ホテル・グループがフランスのルーブル・ホテルズ・グループを買収することで合意が成立したと発表した。ルーブル・ホテルズ・グループは「カンパニル」「プルミエールクラス」「キリヤード」「ゴールデンチューリップ」などエコノミークラスのホテル1,100軒を世界40カ国・地域以上で展開する欧州有数のホテルグループ。買収額は公表されていないが、12億~15億ユーロと見込まれる。ルーブル・ホテルズ・グループの買収には、同業のフランスのアコーも名乗りを挙げていた。買収は2015年第1四半期に完了することが見込まれる。ホテル業界の専門家は、ジンジャンホテル・グループは買収により、事業発展に必要な期間を短縮でき、アフリカおよび中東でのビジネスチャンス、フランチャイズに関するノウハウを獲得するとの見方を示している。

中国のコングロマリット復星グループが2010年に出資を開始したフランスのリゾート施設運営クラブメッドをめぐり、イタリア人実業家との買収競争が激しくなっていた。復星グループは2012年にクラブメッドへの出資率を10.2%へ引き上げて筆頭株主となり、2013年夏に、クラブメッドの経営陣の支持を受けて株式公開買い付け(TOB)を開始した。ところが2014年7月に、クラブメッド株式を買い集めていたイタリア人実業家のアンドレア・ボノミ氏が対抗TOBを開始。復星グループは買収価格を1株17.5、22、23.5、24.6ユーロへ引き上げ、激しい買収合戦が展開された。

結局2015年1月2日、ボノミ氏が率いるコンソーシアムが買収提案を取り下げ、復星グループによる買収の実現が濃厚となった。買収を争ったボノミ氏は、クラブメッドの株式を18.9%まで買い進めており、買収には失敗したものの価格がつり上がったことにより多額の譲渡益を手にできることとなった。逆に、2014年も1,200万ユーロの最終損を記録したクラブメッドを高値で買収した復星グループは、経営建て直しに待ったなしの対応を迫られることになる。クラブメッド側は復星グループとの提携により、中国で高級リゾート施設を展開して、中国をフランスに次ぐ第2の市場にすることを狙っている。2014年6月には中国で3番目のリゾート施設を開設した。

同じくレジャー施設を運営するフランスのピエール&バカンスも最近、中国不動産のBeijing Capital Landと長期提携の確立に関する基本合意に調印した。フランスおよび中国でセンターパーク(自然の中のレジャー宿泊施設)のコンセプトにインスピレーションを得た施設を展開することを目指す。

欧州ホテル大手のアコーは2014年12月14日、中国同業のHuazhu Hotels Group(華住酒店集団)と資本提携を結んだと発表した。アコーは投下資本を節約しつつ、中国市場の展開を強化できる。アコーは現在、八つのブランドの下、中国にホテル144軒を展開している。今回の提携によりHuazhu Hotels Groupは、イビス、イビススタイルズ、ノボテル、メルキュール(上級ブランドのグランドメルキュールとも)のエコノミークラスおよび中級クラスのブランドについて、アコーの中国における独占フランチャイジーとなる。豪華ホテル(ソフィテル、プルマン、Mギャラリー、シーベル)の運営はアコーが維持する。アコーはHuazhu Hotels Groupの10%株式を取得し、取締役1人を任命。逆にHuazhu Hotels Groupは、アコーの中国における豪華ホテル部門に10%の出資を行う。

Huazhu Hotels Groupは向こう5年間で、中国国内に350-400軒のアコー・ブランドのホテルを開く計画。Huazhu Hotels Groupは世界に5,600軒のホテルを展開するが、中国の顧客向けに、アコーとポイントカードを共同化する。これにより、アコーは外国旅行の中国人観光客の需要を取り込むことも狙う。アコーのバザン最高経営責任者(CEO)は、エコノミークラスのホテル業界では、中国企業が支配的なポジションを形成しつつあり、生き残りが難しくなってきているとして、中国企業との提携に至った理由を説明している。

フランスの観光業界が中国企業とのつながりを強めるにつれて、中国企業に対する懸念も広がっている。フランス政府は、トゥールーズ・ブラニャック空港の保有する株式49.99%を中国・カナダ企業のコンソーシアムに売却することを決定したが、これが波紋を呼んだ。少数株主(トゥールーズ商工会議所、トゥールーズ都市圏、ミディピレネー地域圏、オートガロンヌ県)は、中国企業に主導権を奪われることを警戒している。

このコンソーシアムには、中国企業2社(深セン空港、済南空港を運営する山東高速集団と香港の投資会社Friedmann Pacific Investment Holdings)とカナダのエンジニアリング企業SNCラバリンが参加。買収額は3億800万ユーロで、中国2社が買収金の全額を負担する。SNCラバリンはフランス地方空港の運営実績があり、資金を拠出せずに技術面で協力する。同空港の入札に関しては、フランス建設大手のバンシ、パリの主要空港を管理するAéroports de Paris(ADP)が率いるコンソーシアムも参加していたが、提案額はそれぞれ2億5000万ユーロにとどまり、中国・カナダのコンソーシアムに及ばなかった。中国企業による買収への懸念を反映し、クラウドファンディングサイトWiSEEDのイニシアチブで、8,000に及ぶ個人および企業から1,800万ユーロが集められ、象徴的な買収提案が行われた。

フランスのマクロン経済大臣は、カナダ・中国のコンソーシアムを選択した理由として、野心的な空港発展プロジェクトを掲げていることを挙げた。同コンソーシアムは空港の利用客を2013年の750万人から2030年に1,800万人に増やすことを計画している。

なお、エアバス本社があるトゥールーズには航空関連企業が集中しており、これもあってトゥールーズ・ビジネス・スクール(TBS)は、エアチャイナ(中国国際航空)傘下エアチャイナ・テクニクスからの契約獲得に成功。エアチャイナ・テクニクスの管理職50人がTBSの航空経営学課程を受講する。

(初出:MUFG BizBuddy 2015年1月)