カンヌ国際映画祭:パルムドール受賞の仏トリエ監督、政府批判を展開

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カンヌ国際映画祭が27日に閉幕した。最高賞のパルムドールは、フランスの女流監督ジュスティーヌ・トリエの「Anatomie d’une chute(ある転落の解剖学)」に授与された。盲目の少年の父親の転落死の真相をミステリー仕立てで探る作品で、最近では、2年前にもフランスの女流監督が受賞した(ジュリア・デュクルノーの「チタン」)ばかりだった。日本勢では、ヴェンダース監督の「PERFECT DAYS」に主演の役所広司が男優賞を、また、是枝裕和監督の「モンスター」が脚本賞(坂元裕二)を受賞した。
授賞式の際に、トリエ監督は受賞の挨拶で仏マクロン政権を批判し、物議を醸した。監督は、「ネオリベラルの政府が擁護する文化の商品化がフランスの『文化を例外』とする制度を破壊しようとしている」とし、この制度がなかったら自分はここに立っていることができなかっただろう、と言明。さらに、年金改革への正当な抗議行動に対する政府の対応を嘆かわしいとも批判した。
「文化を例外」とする制度とは、芸術的営為を自由貿易の規則の対象から除外する原則を指し、フランスではその枠内で、映画制作に手厚い公的援助を付与し、また、テレビ局などに映画・コンテンツ制作投資を義務づけるなどして、映画制作のファイナンスを支援している。監督の発言について、アブドゥルマラク文化相は、マクロン政権が歴代政権以上に制作投資への支援に力を入れているとして、完全に不当な批判だと反論するコメントを発表した。フランスでは映画人や文化人がこうした機会に一席ぶつのは毎度のことで、今回の発言には特に、左翼政党LFI(不服従のフランス)などが歓迎の念を表明している。この発言については、「フランスには他国がうらやむファイナンスの制度があるのは事実だが、それは常に勝ち取らないと失われてしまう」(映画プロデューサーのフロランス・ガストー氏)として、監督の発言を擁護する声がある一方で、「政府が援助において利潤を優先しているという批判があるが、利潤の追求は制作会社の方が甚だしい。それなのに、こうした機会に映画人は国の批判はするけれど、制作会社に噛みついたりはしない」(映画・テレビ業界で活躍したアラン・ルディベルデ氏)と批判的な見方もある。