アフリカでギャンブル産業が成長

投稿日: カテゴリー: アフリカ経済・産業・社会事情

近年の経済成長を背景に中流階級が興隆するアフリカで、ギャンブル産業が成長している。カジノを含む統合型リゾートが各地に建設され、観光促進を通じた経済成長への貢献が期待される。本稿では、南アフリカ共和国などアフリカにおけるギャンブル先進国をはじめ、街のギャンブルスポットが人気のフランス語圏諸国にも注目して、アフリカのギャンブル事情を概観する。

アフリカ初のギャンブル見本市「ICEアフリカ 2018」が南アフリカ共和国(以下、南アフリカ)のヨハネスブルクで2018年10月に開催される。世界中から業界関係者らが参加するこの見本市にはアフリカ21カ国から代表が参加し、アフリカで成長しつつあるギャンブル産業を巡り、その狙いと機会、課題などについて検討する機会となる。業界関係者にとっては特に、ギャンブル産業がいかに地域経済に貢献するかを示す機会となる。

プライスウォーターハウスクーパース(PwC)が最近発表したアフリカのギャンブル産業に関する調査によると、ギャンブル産業は雇用創出を通じてアフリカの経済発展に貢献しており、向こう数年間で大きく成長することが予想される。その筆頭は、現在国内に40のカジノと約3万8000台のスロットマシンのある南アフリカだ。同国では、カジノ、スロットマシン、宝くじなどを合わせた業界全体の売上高が2016年に270億ランド(18億ドル)に達し、前年比で3.9%増加した。そして、2017年には不況の影響で成長は減速したものの、2021年には350億ランド(25億ドル)規模に達すると予想される。

現在、世界中の多くの国でカジノは観光産業の重要な担い手として認知され、カジノを含む統合型リゾートの建設が進められている。カジノといえばラスベガスやマカオが思い浮かぶが、南アフリカのサンシティに1979年に建設された「サンシティ・リゾート」は、カジノを含む統合型リゾートの先駆的なプロジェクトとして名高く、現在でも数多くの観光客を引き付けている。

南アフリカでは1965年に成立した賭博関連法(Gambling Act)によって、賭け事ではなくスポーツと見なされた競馬以外の賭博は禁止されていた。だが、当時この地域は黒人居住区域の一つとして「独立」していたため、南アフリカ国内で禁止されていた賭博やトップレスといった娯楽が認められ、ホテル王のソル・カーズナーによるカジノ設置が可能になったという経緯がある。その後、1994年のアパルトヘイト廃止後に全国でカジノが合法化され、1996年の国家賭博法(National Gambling Act)で認可制が導入された。カジノ設置を通じて観光部門を促進する政策が推進され、地元住民の雇用を促進し、インフラ投資や都市開発を可能にするための収入源として利用された。

上述したように、現在、南アフリカには40のカジノがあり、カジノ合法化は大きな成功を収めたことになる。素晴らしい自然環境に恵まれたサンシティ・リゾートはルステンブルクに近く、ヨハネスブルクから車で2時間という立地もあり、国内だけでなく外国からも多くの観光客が訪れるが、リゾート全体の売上高の多くをカジノが占めているという。

アフリカで最も人気のある観光国の一つであるモーリシャスも、カジノを観光業界に組み込むことでその発展を後押ししてきた。国内に幾つかあるカジノの中でも、国内最大のリゾート地であるグランベのティーベガス・カジノは人気が高く、欧州をはじめ世界各地から観光客が訪れる。

同じく観光開発に力を入れるモロッコのマザガン・ビーチ&ゴルフリゾートは、国内随一の経済都市カサブランカから84キロメートル、大西洋岸のエルジャディダに位置する統合型リゾートだ。カジノにはスロットマシン400台とゲーミングテーブル60台が備えられ、最近、北アフリカで最も美しいカジノに選ばれた。マザガン・ビーチ&ゴルフリゾートは、モロッコ政府が国内に6カ所のビーチリゾートを整備することを盛り込んだ「アジュール・プラン」の一環として、サンシティ・リゾートを運営するヘルツナー・グループとアラブ首長国連邦(UAE)企業の合弁で開所した。カジノとゴルフ場を併設し、当初は外国人アーティストを招いての大規模イベントを実施するなど、外国人観光客をターゲットにしたデラックス路線が採用されたが、客足が伸びず、数年前に国内ファミリー客向けに方向転換した。以来、着実に業績を伸ばしている。

ところで、アフリカと一口に言っても54もの主権国家があり、政治・経済の在り方も文化もそれぞれ大きく違うことは周知の通りである。ギャンブルに関しては、一般的に英語圏諸国の方が法整備が進んでおり、カジノをはじめ競馬や宝くじなどの合法的なギャンブルが普及している。ナイジェリアではクイックロット(Quicklotte)と呼ばれるオンライン宝くじが導入される予定で、ギャンブル部門の市場規模は2021年までに16%の成長が期待できるという。ちなみに、クイックロットは官民連携プロジェクトとして民間の「フォーチュンゲーム」が運営し、収益の20%が連邦政府に振り向けられることになっている。

また、この数年間でカジノの数が4カ所から20カ所へと大きく増えたボツワナをはじめ、ジンバブエやナミビア、ケニア、ウガンダでも多額の投資が行われており、ギャンブル部門は今後、大きく成長すると見られている。

他方、伝統的にインフォーマルな賭博場が多く見られる西部・中部アフリカのフランス語圏諸国では、小規模なギャンブルスポットの人気が高い。フランス人実業家フランシス・ペレーズ氏とオリビエ・コロ氏が1995年に設立したグループペファコのアフリカにおけるギャンブル・レジャー子会社、ペファコインターナショナルは9カ国(トーゴ、ベナン、ブルキナ、コートジボワール、ブルンジ、ニジェール、コンゴ、ルワンダ、ナイジェリア)100都市で、900以上のスポットを展開している。リディア・リュディック・ブランドで展開されるこれらのスポットの半数以上はスロットマシンのあるバーで、大型のカジノとは趣旨も客層も異なる。ペファコインターナショナルはコートジボワールの宝くじも期間10年間の契約で運営しており、最終的に成立はしなかったものの、一時はセネガルのカジノ買収も取り沙汰されていた。

英語圏に比べると発展途上段階にあるとはいえ、フランス語圏でもカジノは観光客誘致の手段として注目を集めている。フランスのカジノ・ホテル運営大手、グループバリエールは2017年5月に、コートジボワールのアビジャンに同社にとってサブサハラ・アフリカで最初のカジノ「エレファン・ドール(黄金の象)」を開設した。2008年以来閉鎖されていたカジノの運営を所有者である国営SDPCIから委託され、27億5000万CFAフラン(約400万ユーロ)を投じてリニューアルオープンした。最新型のスロットマシン84台が導入されている。なお、コートジボワールでは21歳以上の成人は本人証明書を提示した上でカジノへの入場を認められるが、コートジボワール人はテーブルゲームに興じることはできない。

このように観光振興を通じた経済効果がうたわれるアフリカのギャンブル産業だが、依存症や住民・社会への悪影響を懸念する声が上がっているのは確かで、住民を保護するための法整備も進みつつある。ガンビアのように、若者の依存症防止を理由にカジノや宝くじ、スポーツくじを禁止した国もある。しかし、禁止令が出された2015年から2年後には解禁となり、収益の10%が国に納められることで決着した。近年の目覚ましい経済成長を背景に幅の広い中流階級が興隆し、今後も成長が見込まれるアフリカのギャンブル産業の未来は明るい。

(初出:MUFG BizBuddy 2018年10月)