ドイツ連邦議会は5月6日、キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)のフリードリヒ・メルツ氏(69)を首相に選出した。中道右派のCDU/CSUは2月の総選挙で勝利し、ショルツ前政権の主軸だった中道左派の社会民主党(SPD)との連立で合意。メルツ氏の首相就任への道筋ができていたが、6日午前の連邦議会による第1回投票では賛成票が310にとどまり、過半数(定数630のうちの316票)を得られないという番狂わせがあった。同日に行われた第2回投票では325票の賛成を得て選出されたものの、首相候補者が第1回投票で選出されないという屈辱的な事態は大戦後のドイツにおいて初めてで、厳しい船出となった。新政権の安定性が早くも懸念されている。
そもそも総選挙では極右政党AfDが第2党に躍進し、CDU/CSUは勝利したとはいえ期待外れな得票にとどまった。SPDは歴史的大敗を喫しており、両党の連立には過去の大連立のような安定感はない。それに加えて、1月にCDU が連邦議会で移民制限法案を採択させるため、はじめてAfDと協力するというタブー破りをおかしたことや、メルツ氏が選挙公約に反して、(新議会招集前の)3月中に、SPDや緑の党と組んで、国防費の増額を財政規律(赤字国債の発行を対GDP比で0.35%に制限)の適用対象外とするために基本法改正案を連邦議会で採択させて、CDU/CSU内からも反発をかったことなどが、一部議員の造反による番狂わせにつながったと推定されている。デアシュピーゲル誌は、メルツ氏が安定的な基盤を欠き、弱体化した首相とみなされており、すでに支持率も良くないなどと報じた。
国内での評価は芳しくないものの、メルツ新内閣の発足に、欧州諸国は強い期待感を寄せている。欧州の安全保障に対する米国の関与が不確実性を強めている中で、メルツ首相は、欧州の利益擁護に向けてドイツが強いリーダーシップを発揮することを約束し、ウクライナへの弛まぬ支援も優先課題に掲げている。
メルツ首相は就任後の最初の公式訪問先としてフランスを選択、7日にはパリを訪問してマクロン大統領と会談する。マクロン大統領はショルツ前首相とは折り合いが悪く、ウクライナ情勢を背景とするドイツの政治・経済的困難も手伝って、独仏が欧州を主導する体制は円滑に機能していなかった。それだけに、政治的立ち位置がより近いメルツ首相の登場をフランス側は歓迎、対独関係の改善を期待している。ただし、一連の問題に関して、両国間には政権交代だけでは解消できない根本的な立場の違いがあることも指摘されている。また、マクロン大統領の任期は2年を残すのみで、2027年に選出される次期大統領がどのような対独政策をとるかは未知数。