世界で最も若いとされる大陸で、活力に満ちているアフリカ。そのアフリカの若者は、何を思い、何を求めているのか。南アフリカ共和国のイチコウィッツファミリー財団が隔年で実施している2024年若者意識調査の概要を紹介する。
日本を先駆けに、世界中の先進国で出生率の低下と人口の高齢化が問題になりつつある中、アフリカは世界で最も若い大陸として、活力をみなぎらせているようにみえる。アフリカにおける出生率は今でも高水準にとどまり、サブサハラアフリカ(アフリカ大陸とその周辺島嶼のうち北アフリカを除く範囲、サハラ以南のアフリカ)の住民の70%が30歳未満という若さだ。向こう25年間でアフリカの人口は現在のほぼ2倍の25億人に達し、世界の若者の3人に1人はアフリカ人になるという。
南アフリカ共和国を拠点とするイチコウィッツファミリー財団(Ichikowitz Family Foundation)は、こうした若者のパワーをアフリカの現在と未来の発展に生かすためには、若者世代が責任を持って自分たちのポテンシャルを最大限に引き出さなければならないとの考えから、アフリカ諸国の若者を対象とする意識調査を2020年に開始した。若者自身の意識向上を図るとともに、政治リーダーやメディア、その時々の議論に関わる専門家らに、信頼性のあるデータを提供するのが目的だ。
調査は隔年で実施され、3度目となった2024年調査では、アフリカ16カ国(ボツワナ、カメルーン、チャド、コンゴ共和国、コートジボワール、エチオピア、ガボン、ガーナ、ケニア、マラウイ、ナミビア、ナイジェリア、ルワンダ、南アフリカ共和国、タンザニア、ザンビア)の18歳から24歳の若者5,604人が、対面形式でのインタビューにローカル言語で答える形で調査に参加した。南アフリカ共和国の回答者が約1,000人、その他の国の回答者はそれぞれ約300人で、男女比は半々だ。アフリカの若者を対象にした、これだけの規模の調査は他にはなく、貴重なデータを提供してくれる。
生活水準や民主主義、腐敗、外国の影響や国際社会との関わり、移民、テクノロジー、環境、情報・メディアなど多岐にわたる分野の設問に対する回答からは、アフリカの若者が何を思い、何を求めているのか、何を問題視しているのかが伝わってくる。アフリカと一口に言っても、国によって若者の状況認識や考え方には違いがあり、若者の意識にその国の置かれた状況が反映されているのも興味深い。厳しい視線で現状を批判すると同時に、未来への希望を滲ませるアフリカの若者のあり方の一端を覗いてみよう。
アフロ・オプティミズム
アフリカの現状と未来をポジティブに捉える若者の割合は、新型コロナ危機を背景に落ち込んでいたが、2024年になって再び盛り返しつつある。アフリカ大陸は「良い方向に向かっている」と答えた若者は2022年の31%から2024年の37%に増え、新型コロナ危機前の2020年の40%に近い水準にまで回復した。自分の国が「良い方向に向かっている」、自国経済が「良い方向に向かっている」と答えた若者はそれぞれ32%と28%で、いずれも2022年より多い。一方、アフリカ大陸、自国、自国経済が「悪い方向に向かっている」と答えた若者はそれぞれ55%、66%、69%に上る。とはいえ、将来に対して悲観的(9%)というよりも、懸念がある(34%)との回答が多いことからは、アフリカの若者が自らの運命に甘んじることなく、状況は変わりうると考えているのが伝わってくる。これらの設問で、アフリカや自分の国が「良い方向に向かっている」と答えた若者が特に多かったのはルワンダ、コートジボワール、タンザニアの3カ国で、ルワンダに至っては90%以上の若者がアフリカと自国の将来を楽観視している。80%以上が「悪い方向に向かっている」と答えたナイジェリアやカメルーンの若者とは対照的だ。
過去5年間で最も影響を受けた出来事は「感染症による近親者の死」が39%とダントツに多く(2022年は45%)、これに「政情不安」(14%)、「技術・デジタル革命」(11%)、「基本的サービスと資源へのアクセス」(11%)、「環境問題」(9%)が続いた。アフリカが進歩するために今後の5年間で最も重要と思われるのは、「腐敗削減」(23%)、「雇用創出」(20%)、「基本的需要とサービスへのアクセス」(17%)、「教育システムの近代化」(15%)、「アフリカの平和と安定」(15%)で、「起業促進」(14%)と「イノベーションと起業家精神の文化の構築」(12%)を重視する若者も多い。
外国の影響力
2020年の81%、2022年の74%と比べて低下したとはいえ、アフリカの若者の72%、実に10人に7人以上が、諸外国と国際機関のアフリカへの影響力に懸念を抱いている。アフリカへの影響力が最も強いと考えられているのは中国(76%)で、これに米国(70%)、アフリカ連合(AU、64%)、世界貿易機関(WTO、61%)、欧州連合(EU、59%)と続く。
諸外国の影響力は、アフリカ諸国が国際社会で自らの利益を擁護したり、世界の金融システムにおけるより公正なインクルージョンを求めたりするのを阻害する手段として、否定的に捉えられる場合がある。一方で、4人に3人近くが諸外国の影響を肯定的に捉えており、特に中国(82%)、AU(80%)、WTO(80%)、英国(80%)、そして米国(79%)の影響が肯定的と捉えられている。植民地時代の旧宗主国の影響を肯定的とみなすのは55%に過ぎず、31%は否定的とみなしている。また、外国企業が住民への還元なく自分の国の資源を利用したと考える若者は65%、外国企業による腐敗を懸念する若者は68%に上る。
中国の影響力を指摘する若者の割合は、2000年の83%から2024年の76%へ減少する一方で、その影響を肯定的に捉える若者は2022年の78%から2024年は82%に増加した。リーズナブルな製品(41%)、インフラ投資(40%)、融資・支援(35%)が評価されている。中国に次いで影響力が強いとされる米国をポジティブに捉える若者は79%に上り、その理由として融資・支援(41%)、自国における雇用機会の創出(33%)、インフラ投資(33%)が挙げられた。EUに関しては、影響力の強さ(2020年の72%から2024年は59%に低下)と肯定的な影響(同81%から同73%に低下)の双方において減退がみられる。国際社会におけるアフリカの重要性が高まり、世界秩序の多極化が進む中で、EUは重要ではあるものの、唯一のパートナーではなくなったことをよく示している。
民主主義とガバナンス
アフリカの若者の3人に2人以上は今でも「民主主義は他のどんな形の政府よりも望ましい」と考えているものの、その割合は2022年の76%から2024年の69%へと減少し、「場合によっては非民主主義的な政府が望ましい」と答えた若者の割合は2022年の18%から2024年は29%へと増加した。
民主主義の仕組みとシステムに関しては、欧米式の民主主義はアフリカには適しておらず、アフリカ諸国は自分たちに合った民主主義の仕組みとシステムを見いださなければならないと考える若者が60%に上った。民主主義の重要な柱として、法の下の平等(46%)、自由で公平な選挙(40%)、言論の自由(40%)が重視され、61%の若者が次の選挙で投票するつもりだと答えた。しかし、現時点で有権者登録を済ませている若者は46%にとどまっており、64%の若者が「政治を変えるためには時として非平和的な抗議や行動が必要」と答えた。また、自分の国にはアフリカのリーダーやロールモデルになるような女性が十分にいないと考える若者は70%に上った。
生活水準
自分の生活水準が「とても良い」あるいは「良い」と考える若者の割合は、2020年の43%から新型コロナ危機を経て2022年の32%に落ち込んだが、2024年には41%にまで回復した。今後2年間に生活水準が向上すると考える若者は72%、将来的に自分たちの親世代よりも高い生活水準を得られるだろうと考える若者は76%に上る。しかし、公共サービスをめぐる満足度は概して低めで、64%が政府の貧困削減・生活費高騰対策への不満を表明した。
将来への野心
アフリカの若者の78%が、将来どのような人生を歩みたいかを自覚している。世界で最も高い起業率に示されるように、アフリカの若者は成功するために自分独自の道を大胆に歩もうとしている。85%の若者が雇用機会の少なさを懸念し、71%が5年以内に自分のビジネスを始めるつもりだと宣言している。起業する上で最も大きな障壁となるのは、資金調達の困難(52%)であり、もし100ドルを手に入れたら自分のビジネスに投資すると答えた若者は45%に上る。
また、58%が向こう3年以内に外国に移住する可能性があると答えており、移住への関心の高さがうかがわれる。仕事を探すなどの経済的理由(43%)と、より高度な教育を受けるなどの教育上の理由(38%)が、外国への移住を考える大きな要因となっている。アフリカ以外で移住したい場所としては、北米の人気が最も高く(米国37%、米国以外の北米30%)、これに西欧(14%)、中国(13%)と続き、9%が中国以外のアジアへの移住を希望している。「移住」と述べたが、これには留学などの一時的なものも含まれ、65%が一時的な移住、31%が永住を展望に据えた移住を考えている。
家庭生活については、両親より少ない数の子どもを持ち(75%)、両親よりも遅くに家庭を築き(72%)、両親よりも遅くに結婚する(70%)という明確なビジョンを持っている。
環境問題
アフリカは温室効果ガス排出量が世界全体の5%に満たないにもかかわらず、気候変動の影響が膨大な、世界で最も脆弱な地域となっている。気温上昇のペースは加速し、自然災害の脅威は頻度と深刻さを増し、食料安全保障や生態系、経済に打撃を与えている。2023年には、アフリカのいたるところで気候変動に由来する自然災害が起こり、2022年の1,900万人を大きく上回る3,400万人の人々が被害を受けた。こうした中、アフリカの若者の78%が気候変動に懸念を抱いており、気候変動は自分の国の人々や将来世代に害を与えるだけでなく、69%が自分自身も害を被る恐れがあると考えている。
また、気候変動を背景に紛争が増えると考える若者は71%に上る。一方、政府の気候変動対策に満足している若者は48%にすぎず、政府はどのような対策をとるべきかとの問いに対しては、グリーンエネルギーの採用(80%)、水・食料供給への影響の緩和(79%)、炭素排出量の削減(78%)を挙げる。
テクノロジー
今回の調査では、アフリカの若者がインターネットへの接続を基本的な人権とみなしていることが顕著に示された。「Wi-Fiとインターネット接続は基本的人権の一つである」と考える若者は、新型コロナ危機後の2022年に70%に後退していたが、2024年には2020年の78%を超える79%に達した。こうしたインターネット接続を重視する姿勢からは、今日のアフリカの若者の経験・機会において、デジタルアクセスが果たす役割の大きさがうかがえる。しかし、通信およびデータサービスに満足している若者は55%にとどまる(2020年は68%)。職場以外のプライベートでインターネットに定期的にアクセスできる若者は67%と2020年の68%から改善がみられないが、ナイジェリアでは92%、カメルーンでは28%と国によって大きな差があり、理想と現実のギャップは大きい。
デジタルテクノロジーは、アフリカの若者の日常生活にますます浸透し、68%がスマートフォン(スマホ)の視聴時間が1日3時間を超えると答えている(2020年は51%、2022年は55%)。若者の40%が、日々のスマホ視聴時間は適正であると答え、約30%は精神的にも身体的にも良いと考えている。
アフリカの若者が最もよく利用するアプリケーション(アプリ)はSNS(74%)が圧倒的に多く、これにマルチメディア(39%)、生産性向上ツール(32%)、交通・モビリティ(30%)、カメラ・写真(28%)、ニュース・スポーツニュース(22%)、銀行(18%)、健康(17%)、気象情報(13%)、ショッピング(11%)、マッチング(11%)、ビジネス(10%)と続く。
デジタルプラットフォームがアフリカの若者の社会関係に与える影響は大きくなりつつあり、マッチングアプリについても、62%が「他では出会えないような人に会える」と肯定的で、57%は、マッチングアプリはこれまでの社会規範と伝統的な出会いを覆すとみなしている。自分の家族はマッチングアプリで出会った相手を受け入れるだろう、と考える若者は49%にとどまるものの、アフリカの若者はこれらのアプリに対して全体的にオープンな姿勢を示している。
人工知能(AI)に関しても、若者の51%が「進歩をもたらす」とポジティブな見方をしており、「利点よりも害を多くもたらしうる」と考える若者(38%)より多い。ネガティブな要因としては、71%がAIによるフェイクニュースの拡散を懸念している。
参考
2024年若者意識調査
https://ichikowitzfoundation.com/africa-youth-survey?year=2024
(初出:MUFG BizBuddy 2024年9月)