子だくさんアフリカの不妊治療事情

投稿日: カテゴリー: アフリカ経済・産業・社会事情

アフリカ諸国の多くは著しい人口増加に直面しており、不妊問題が話題になることは少なく、公共政策として生殖補助医療が推進されることもない。しかし、アフリカの不妊率は高く、少しずつではあるが不妊治療も広がっている。本稿では、アフリカ特有の事情に注目しながら、アフリカの不妊治療をめぐる状況を概観する。

少子高齢化が進む日本では、出生者数が2022年に77万747人にまで落ち込み、過去最低を記録した。出生率は7年連続で低下しており、1人の女性が一生のうちに産むと想定される子どもの数を示す合計特殊出生率は1.26と人口維持に必要な2.07には程遠い。こうした状況の下、出生率の低下に歯止めをかけるために、出産と子育てのしやすい環境を整えようという動きがある。その一つに、不妊治療の促進と普及がある。

不妊治療には、女性の排卵の時期に合わせて洗浄濃縮したパートナーの精子を子宮内に注入する「人工授精」、体外に取り出した卵子とパートナーの精子を一緒にして受精させ、その受精卵を直接子宮に移植して着床を促す「体外受精」、パートナーの精子を針で直接卵子内に注入して受精卵を得る「顕微授精」などがある。世界で初めて体外受精による子どもが産まれたのは1978年の英国で、日本では1983年に最初の体外受精児が誕生して以来、これまでに84万人以上がこの治療によって産まれている。

日本の体外受精の治療件数(治療周期総数)は2016年から2020年まで45万件前後で推移していたが、2021年に過去最多の49万8140件となり、体外受精で産まれた子どもの数も過去最多の6万9797人となった。2021年の総出生数は81万1622人であり、11.6人に1人が体外受精で産まれたことになる。2021年に体外受精の治療件数と出生数が増えた背景には、不妊治療助成金が増額になった影響があるとみられており、それまで対象外だった不妊治療に2022年4月から健康保険が適用されるようになったため、それ以降の伸びが期待される。

では、人口に占める若者の割合が大きく、爆発的な人口増加が懸念されるアフリカの状況はいかがだろう。国連の人口統計資料によると、サブサハラアフリカ(アフリカのうちサハラ砂漠より南の地域。北アフリカを除いた国、ただしスーダンは含む)の人口は2020年時点で約10億9000万人、世界人口の14%を占めていたが、2050年には約21億2000万人へとほぼ倍増し、世界人口の22%を占めるに至ると予想されている。サブサハラアフリカの合計特殊出生率は2021年時点で4.6と世界最高で、世界平均2.3の2倍であり、ランキングの上位50カ国中40カ国がアフリカ諸国によって占められている。アフリカの人々は子だくさんというイメージはデータによって裏付けられているが、では、アフリカに不妊の問題はないかといえば、実はそうではない。合計特殊出生率も低下傾向にあり、2050年には3まで低下すると予測されている。

世界保健機関(WHO)の不妊に関する最新レポート(1990-2021年動向)によると、アフリカではカップルの16.4%が不妊問題を抱えており、その割合は世界の他の地域の平均である12.6%を大きく上回っている。しかも、網羅的なデータがないため、この数値は現実を下回る可能性もあるという。不妊とみなされるのは12-24カ月の定期的な性交渉の後でも妊娠しない場合だが、アフリカでは特に、女性は性感染症が適切に治療されなかったり、安全な堕胎が行われなかったりしたために不妊症になるケースが多い。男性の場合は、世界的な傾向といわれる精子の質の低下に加え、性感染症、ストレス、公害、喫煙などが不妊につながっているという。アフリカの不妊問題は今日に始まったことではなく、1960年代には中部アフリカの女性の20%以上が一生の間に子どもを1人も産んでいなかったという研究もある。そして、不妊が特に多いチャドから中部アフリカ、タンザニアにまで伸びる一帯は「不妊ベルト」と呼ばれた。

しかし、人口の減少ではなく増加が問題となっているアフリカ諸国の大部分では、不妊は公衆衛生上の問題として認識されておらず、国が政策として不妊対策に取り組むことはほとんどない。公共政策の枠内で生殖補助医療に言及することは、的外れにうつる可能性さえあるのだ。不妊治療が主として民間の医療機関で行われ、医療保険の対象となるどころか公立病院で扱われてこなかったのはそのためである。母子の健康のために活動する国際機関や非政府組織(NGO)も、リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)の一環として家族計画は大いに支援するが、不妊治療には関わってこなかった。

アフリカで初めて体外受精による子どもが産まれたのは、世界初の「試験管ベビー」誕生から8年、日本初の「試験管ベビー」が誕生した翌年にあたる1984年の南アフリカ共和国のケースである。その後、ナイジェリア(1989年)、セネガル(1989年)、トーゴ(1997年)、カメルーン(1998年)、マリ(2000年)、コンゴ民主共和国(2002年)、モーリタニア(2005年)、ケニア(2006年)、コートジボワール(2009年)、ガボン(2010年)、ルワンダ(2015年)と続いた。体外受精が行われていない国はまだまだあり、国による格差が大きいが、それでも、最近では2023年2月に赤道ギニアで初の体外受精児が産まれたとの報道もみられ、不妊治療が徐々に広まっているのは間違いない。

西・中部アフリカ12カ国の研究者が参加する生殖医療学会「Gieraf」によると、生殖補助医療の成長は著しく、コートジボワールだけで5つの不妊治療センターがある。以前は不妊治療の最も初歩的な形である人工授精だけが主に行われていたが、今では、体外受精の中でも進んだ技術と設備を必要とする顕微授精や、代理出産さえ行われているという。カメルーンのヤウンデ生殖医療センター(CHRACERH)は2018年10月に62歳の女性が出産したことで知られる。これほどの高齢出産をめぐる医療面・倫理面での議論は尽きないものの、公共医療機関が不妊治療を推進することの意味は大きい。同センターでは2022年までの6年間で350人の体外受精児が誕生しており、2025年までに500人を達成するのが目標だという。

2010年に最初の体外受精を成功させたマリの民間医療機関では、25歳から35歳の女性で40%、40歳以上の女性で20%の臨床妊娠率を誇る。日本産科婦人科学会によると、日本で2018年に行われた体外受精の胚移植1回あたりの妊娠率は31.9%、欧州の平均は33%程度とされ、出産率では劣るものの、妊娠率だけを見れば、先進国に負けない水準を達成している。欧州で学んだ院長は、「アフリカでこの水準を達成できるのは、アフリカの女性が一度に複数の胚を移植することを望むからだ」と説明する。アフリカの体外受精で多胎妊娠が多いのはそのためだろう。

このように近年著しい成長を遂げているとはいえ、不妊治療を受けられるアフリカのカップルはまだまだ少数派だ。まずは、自分の国で不妊治療を受けられるかどうかという問題があり、受けられたとしても不妊治療を行っている医療機関の数は限られているため、農村部や遠隔地に住むカップルが治療を受けるためには都市部にある医療機関に通院しなければならないという制約がある。さらに、費用の問題がある。例えばセネガルでは、民間の不妊治療センターで治療を受ける場合、最大で400万CFAフラン(約97万円)がかかるが、これは平均月給の45倍に相当する。ガボンでは1回あたりの体外受精にかかる費用は280万-350万CFAフラン(約68万-84万円)、カメルーンで公共医療機関を受診すればその半額程度で済むが、民間医療機関では最大で400万CFAフランが必要となる。不妊治療は医療保険でカバーされていないため、これらの費用は全て自腹となる。

こうした物理的・経済的な制約に加えて、不妊治療そのものに対する偏見もある。したがって、アフリカで不妊治療を受けるという「贅沢」を自らの意思で選択できるのは、主として、ある程度の知識と収入のある都市部の共働きカップルということになる。近年の興隆が注目される、いわゆるアフリカの新しい中流階級の人々だ。

アフリカの不妊治療を民族学的・社会学的な視点から調査したドリス・ボネとヴェロニック・デュシェヌによると、不妊治療を受けるのは主として結婚したカップル、あるいは数年前からの事実婚カップルで、再婚の場合もある。女性が高学歴で結婚したのが遅いカップルも多く、若いうちに結婚して子どもを作れるうちにたくさん作り、家の存続に貢献するという伝統的な図式とは異なっているのが注目される。

不妊治療を始めるにあたっては女性がイニシアチブを取ることが多く、女性にある程度自由になるお金があり、治療の費用を一部でも負担できる状況にあることが、不妊治療を受けるというカップルの決定に大きく影響しているという。宝石などの所持品や財産を処分して資金を作る女性もいるようだ。また、他国への移民や仕事が理由で別居を余儀なくされているカップルが、体外受精という手段を用いて子どもを作ることもある。不妊治療を受けたある男性が言うように、「妻と一緒に暮らさずにいかにして子どもを作るか、というアフリカの昔からの問題を体外受精が解決してくれる!」というわけだ。

夫婦に子どもができない場合、一族の子どもを養子に迎え、自分たちの子どもとして育てるという可能性がある。しかし、アフリカの多くの国では、血のつながりのない養子を後継とすることは、民法では認められていても慣習的には認められていない。そのため、周りの親族は不妊を補うための養子縁組を嫌うという。体外受精によって産まれた子どもであれば、自分たちの子どもだから問題は解決される。配偶子(卵子あるいは精子)がドナーによって提供されたものだとしても、原則的には夫婦と同じ血筋に属するとみなされるため問題はない。配偶子の提供は匿名で行われるのが基本だ。とはいえ、「親族から配偶子の提供を受けたかった」というカップルがいるのは、血のつながりを重視する伝統的な心性が今でも残っている証拠だろう。

アフリカの伝統社会では家の存続が重視されているため、子どものいない夫婦は社会的な役割を果たしていないとみなされる。結婚して数年たっても子どもができないと、女性の肩身は非常に狭くなり、親族や共同体から圧力がかかることになる。筆者は、日本で不妊治療が盛んなのは「結婚したら子どもを作るのが当たり前」という社会的な通念のせいもあるのではないかと思うが、事情はアフリカも同様のようだ。ただし、アフリカの方が、不妊治療以外の手段で子どもを確保する道がさまざまに用意されている。

まずは一夫多妻制の伝統だ。宗教にかかわらず、アフリカ諸国のほとんどで一夫多妻制が認められており、夫婦に子どもができないと、夫は2番目の妻を娶るように促される。不妊の原因が女性にある場合はこれで解決できるかもしれない。かつては子どもができなかった女性が追放の憂き目に遭うこともあったし、それは離婚という形で現在も続いている。

次に親族の男性を代理とする方法である。一番いいのは夫の兄弟が、夫の代わりに父親として子どもを作ることである。夫が子どもを残さずに亡くなってしまった場合、残された妻が亡き夫の兄弟と再婚する風習も残っている。さらに、女性同士の結婚というのもある。これは、子どものいない女性が自分よりも若い女性を「妻」として娶って子どもを作らせるというタンザニアの一部地域の風習である。元々は夫が亡き後に男子の後継を確保するための手段だったが、(男性の)夫による暴力から逃れる手段としても用いられるようになった。タンザニアでは同性愛は禁止されており、この女性同士の夫婦は性交渉を持つことはできない。女性同士の結婚であっても、年長の女性が「夫」として若い方の「妻」を支配するという構図は変わらないとの指摘もある。

都市部に暮らし、時に高学歴で知識も収入もあるカップルが、こうした慣習を疎ましく感じ、親族や共同体の関与しないところで自分たちの不妊問題を解決したいと考えるのは当然なことだろう。そこには、家とは関係なく自分たちの家庭を築きたいという願いと、「子どものいない夫婦」のレッテルを貼られたくない、親族や共同体の圧力から逃れたいという望みが併存している。そしてそのためであれば、彼らは大金を投じることも、外国に出向いて治療を受けることも厭わない。

アフリカでは不妊治療を受けられる国に限りがあることもあり、医師の推薦で、あるいは人に知られたくないために、外国に行って治療を受けるカップルは多い。行き先としては、自国に近い近隣諸国以外に、不妊治療先進国である南アフリカ共和国や北アフリカのチュニジアなどが挙げられるが、縁者を頼ってわざわざフランスにまで行って治療を受けるカップルもいる。不妊治療に関わる医師や関係者も外国で学んだり医療に従事した経験があるのが一般的で、国境を越えた移動を伴うことも、アフリカにおける不妊治療の特徴の一つと言えるだろう。

最後に、アフリカでの不妊治療は「結婚した異性の夫婦あるいはそれに相応するカップル」が子どもを持つための手段として位置付けられている。そのため、独身者やホモセクシュアル(同性愛者)を含む全ての女性が子どもを持つための手段として位置付けられているわけではないことに触れておきたい。その点では、日本の状況によく似ている。アフリカでは唯一、南アフリカ共和国が同性婚を認めており、ホモセクシュアルの女性が不妊治療を受けることができる。

(初出:MUFG BizBuddy 2023年10月)