アフリカでは近年の著しい経済成長を背景に、各地で鉄道インフラ整備プロジェクトが推進されている。豊富な地下資源を開発しても、それを効率的に輸送する手段がなければ意味がない。また、地域統合を加速して地元経済の活性化を目指すという意味もある。今回、地域統合を視野に入れたプロジェクトとして、東アフリカと西アフリカの例を紹介する。
アフリカの開発を妨げる要因の一つとして必ず話題になるのが「インフラの不足」だが、アフリカの鉄道事情を見ると「なるほど」とうなずける。
植民地時代に建設された鉄道路線は老朽化し、これもまた老朽化した車両に人々が鈴なりに乗っている写真を見たことのある人は多いだろう。南アフリカ共和国を除いたサハラ砂漠以南のアフリカの鉄道路線の総延長は5万6000キロメートル。これは世界の鉄道路線網のわずか2%にすぎない。アフリカにおける鉄道貨物輸送は2001年以降7%増加したが(旅客輸送は7%減退)、世界レベルでは貨物・旅客共に40%の成長を記録しており、それと比べると大きく見劣りする。これは、アフリカ諸国が、輸送インフラとして道路の整備を優先し、莫大(ばくだい)な投資が必要となる鉄道の整備を後回しにしてきたためでもある。
しかし、近年の目覚ましい経済成長を背景に、数多くの鉄道整備プロジェクトが各地で日の目を見つつある。中でも、豊富な資源の開発と併せてインフラ整備に巨額の投資を惜しまない中国の役割は大きい。
最近も2014年5月11日、李克強国務院総理のアフリカ4カ国の歴訪に際して、ケニアの鉄道敷設に関する38億ドルの契約が締結された。これは、ケニアのモンバサ港からナイロビまで全長609.3キロメートルの鉄道路線を敷設する計画で、費用の90%は中国輸出入銀行(Eximbank)が拠出し、残りの10%をケニア政府が負担する。工事は、モンバサ港拡張も受注した中国交通建設(CCCC)傘下の中国路橋(CRBC)が請け負い、2014年10月に着工、工期は3年半の予定となっている。鉄道工事で約3万口の雇用が創出される見通しで、CRBCは、採用は現地人を優先、工事関連の資材もできる限り現地調達とし、技術移転も積極的に行うとしている。今回の工事は、地元の経済・雇用情勢の改善への貢献も期待される。
モンバサとナイロビは既に植民地時代に建設された鉄道路線によって結ばれているが、設備の老朽化もあり、所要時間は12時間以上かかる。新路線が完成すれば、これが4時間に短縮される。両都市間の主要な貨物輸送手段であるトラック輸送から一部を鉄道輸送へと切り替えることで、投資を妨げる要因である輸送コストの大幅削減も期待できる。そのため、政府は、別の資金源を調達して既存路線の修復も計画しているという。
しかし、アフリカの鉄道インフラには弱点もある。その一つとして、各国の路線が分断され、軌道幅が異なるなどの技術的制約もあり、相互に接続されていない点が指摘されている。
この点に関しても、地域統合の取り組みの一環として数カ国を鉄道路線で結ぶ計画が各地で再浮上している。実はモンバサ港とナイロビを結ぶ路線もその一つで、中国の支援でケニア、ウガンダ、ルワンダが合同で実施する総額138億ドルの鉄道敷設プロジェクトの一部に相当する。同路線は、ナイロビからウガンダのカンパラ、ルワンダのキガリ、ブルンジのブジュンブラまで延長される計画で、さらに、分岐路線をカンパラから南スーダンのジュバにまで延ばす計画もある。ケニア、ウガンダ、ルワンダの3カ国はこの鉄道プロジェクト以外にも石油パイプラインと製油所建設など大型インフラプロジェクトを合同で進めており、地域経済を活性化するための広域的な取り組みが盛んになっている。
ところで、地域統合を加速するために鉄道の敷設を計画しているのは東アフリカだけではない。西アフリカでも、ベナンの港湾都市コトヌーとニジェールの首都ニアメーを結ぶ鉄道プロジェクトが先ごろ始動し、コートジボワール、ブルキナファソ、ニジェール、ベナン、トーゴを通過する西アフリカ環状鉄道の実現に向けて大きく前進した。内陸国ニジェールにとっては、ニアメーが鉄道路線によってコトヌー港と結ばれることで、海へのアクセスを確保するという長年の夢がかなうことになる。ニジェールのイスフ大統領は2014年4月7日に行われた起工式の席上で「われわれは80年も前から鉄道が来るのを待っていた!」と述べて、国民の感激を代弁した。
西アフリカ諸国を鉄道で結ぶ計画は植民地時代から存在したものの、コトヌーのほぼ真北、約1,000キロメートルに位置するニアメーまで延びるはずだった路線は、1936年にパラクー(コトヌーの北約400キロメートル)まで敷設されて終わり、コートジボワールのアビジャンから、ブルキナファソの首都ワガドゥグを通ってニアメーまで延びるはずだった路線も、ワガドゥグから100キロメートルほどに位置するカヤで止まっていた。今回スタートしたプロジェクトでは、コトヌーからパラクーまでの既存路線を修復し、パラクーからドッソ(ニジェール)経由でニアメーまで、全長574キロメートルの路線を新たに敷設する。同路線の総延長は1,200キロメートル、建設費は総額10億ユーロに上る。
ケニアの鉄道プロジェクトが中国の資金拠出により可能となったのとは異なり、こちらは、プロジェクトの戦略的パートナーとなったフランスのボロレ・グループが建設費用を調達する。ニジェールとベナンの両国政府とボロレは2013年11月調印の覚書に沿って、資本金1億ユーロの合弁会社を設立して路線の修復・建設・運営に当たる。新会社にはニジェールとベナンの両国政府が10%ずつ、両国の民間セクターが20%ずつ出資し、残りの40%をボロレが保有する。完成は2016年末。ニアメーに初の鉄道駅が登場する日も近い。ニアメー駅は国際空港のある東郊に建設される予定で、建設予定地であるグリーンベルト内の土地(3ヘクタール)の保護指定を解除するための法令案も最近、閣議で採択された。
こうしてコトヌー・ニアメー線実現の見通しが立つ一方で、西アフリカ環状鉄道が完成するためには、アビジャンからワガドゥグ経由でカヤまで延びた西側路線をニアメーまで延ばす必要がある。既存区間(延長1,200キロメートル)は現在、ボロレ子会社のシタレールが運営を担当しているが、最近の報道によると、ボロレは、この区間の修復をめぐる入札で競合の英国・ティミシュを退けて4億ユーロの契約を獲得したもようだ。この報道に関して政府筋の確認は取れていないものの、いずれにしても、ボロレが西アフリカ環状鉄道の実現に向けプロジェクトをけん引する意欲を示していることがうかがえる。
西アフリカ環状鉄道については10年近く前にも、インド政府の支援を受けてパラクー、ニアメー、カヤを結ぶ未設区間(延長1,300キロメートル)の路線を建設する計画があった。予算は2006年当時で15億ドル。インド政府が第1期工費として5億ドルを拠出することを約束、残りを当該国(ベナン、ニジェール、ブルキナファソ)が負担することとなっていたが、最終的には実現しなかった。
ボロレが今回のコトヌー・ニアメー線建設プロジェクトで資金調達を買って出たのは、外国の支援や当該国の資金拠出を待っていてはプロジェクトの実現が遅れるばかり、という現実的な判断があったためだろう。コトヌー・ニアメー間の着工で弾みがついたところで、西アフリカ環状鉄道が民間資本によって完成に至るかどうかが注目される。
中国資金で実現のめどが立った東アフリカ鉄道と民間資本で完成を目指す西アフリカ環状鉄道、どちらも「アフリカの今」を如実に反映している。
(初出:MUFG BizBuddy 2014年6月)