パリ・メトロに「セルジュ・ゲンズブール」駅、反対運動の対象に

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パリ・メトロ11号線の延伸で、新たに整備される駅の一つに歌手・作曲家のセルジュ・ゲンズブール(1991年没)の名前を付ける計画がある。反対運動が持ち上がっている。
延伸部分はパリ市の東側にある自治体を通過。うち、レ・リラ市が2013年にゲンズブールの名前を市内の新駅につけることを提案した。ゲンズブールのデビュー曲は、「リラの門の切符切り」というタイトルで、パリとレ・リラ市の境界に位置するメトロ駅「リラの門(ポルト・デ・リラ)」の切符切りにちなんだ歌だった。その縁で名前が選ばれた。
当時は特段の反対もなかったが、現在は性的暴力に関する論調が厳しくなり、命名に反対する署名運動が最近に始まった。3500人を超える署名が集まったという。ゲンズブールの場合、性的で挑発的な歌詞の作品が多く、また、近親相姦や未成年者との恋愛などをテーマにした作品群もあって、今の時流に照らすと旗色は悪い。性的暴行で追及を受けている俳優ジェラール・ドパルデュー氏の名前をつけるようなものだ、という声も聞かれる。
思えばゲンズブールは生前、酔っぱらって暴言を吐いたり、お札をテレビで燃やしたりと、「呪われた詩人」を意識した不良中年のキャラを熱心に演じていた。作品における様々な禁忌の表現は、当時の抑圧的な社会への挑戦という側面もあったろう。時代背景と歴史性を捨象して倫理感を適用するのはイスラム原理主義などと大差ない。もとより、不良中年として、メトロの新駅に自分の名前がつかないのは本人としても望むところであるだろうから、別の名前を付けることには賛成である。そもそも、メトロの駅に名前がつくことが名誉なのであろうか。