フランスでは女性が学業成績で男性を上回り、能力面では男性と同等と見なされているにもかかわらず、収入面における格差解消の歩みは遅く、その後の年金格差を起こし、女性には厳しい老後が待っている。男女格差の解消を目指した法的枠組みの整備などの効果もあり、女性取締役の数が増えるといった傾向はあるものの、フランスでも依然として残る男女格差の現状を分析したい。
フランス国立統計経済研究所(INSEE)は、3月8日の国際女性デーの機会に2017年男女格差に関する200ページ近い調査を発表した1。
この調査ではまず、学業成績で女性が男性に勝っていることが確認できる。実際にバカロレア(高校卒業の国家資格)取得試験の合格率では、常に女子が男子を上回る。2016年のバカロレア試験の結果でも、受験生のうち女子の合格率は90.8%で、全体の88.6%を上回ることから、男子よりも成績が良いことがうかがえる。学業における男女差に関する国民教育省の2016年の調査2でも、女子の方が学力も上で、取得資格のレベルも高いと結論している。その一方で、女子は理系課程など、受験における選別基準が高い教育課程を敬遠する傾向が確認される。
INSEEの統計に戻ると、2015年時点で25~34歳の人口のうち、中等教育終了証書以上の資格/証書を取得しないで学業を離れる男子は14.7%、女子は11.8%となり、男子の方が学業を早い段階で放棄する傾向があることが分かる。
成績が良いから、女子の方が新規雇用に有利かというとそうでもない。学業を終了してから1~4年後の動向を見ると、就労している人の割合は男女で同一となる。しかし、女性では、派遣・パート雇用に就く人の割合が男性を上回る現状が浮かび上がる。ただし高学歴になればなるほど、派遣やパートなどの不安定雇用に就く女性は少なくなり、男女差は縮まる。なお、男女にかかわりなく、学歴がその後の労働市場へのアクセスと失業リスクの鍵となっている。
15~64歳の生産年齢人口全体で見ると、生産年齢人口の女性の労働力人口比率は約68%となる。男性の場合は約76%で、格差は8ポイントとなった。1975年時点ではこの格差は31ポイントに上っており、男女格差はかなり縮んだことが分かる。男性の労働力人口比率は、1975年から1991年の間に、勉学期間の長期化、60歳への法定退職年齢の引き下げ、早期退職制度の実施などを受けて減少した。しかし1990年代からは横ばい傾向にある。これに対して、女性のうち労働力人口比率は1975年以降、育児のために就労を断念する女性が減少したこともあり、増加傾向が続いた。
片や女性の失業率は1970年代半ばから男性を常に上回っていたが、この差は2000年前から縮み始め、ついに2013年には男性の失業率が女性のそれを上回るという逆転状態となった。2015年には労働力人口中の女性の失業率(国際労働機関(ILO)基準)は9.5%、男性は10.5%となっている。男性の失業率が増加したのは、2008年から続く経済危機に一因がある。男性労働者が多い建設や製造などの部門が特に経済危機の打撃を受けたためである。
就労している人のうち管理職に就いている人の割合は、1982年の7.9%が2015年には17.7%へ上昇した。管理職ポストの増加の恩恵を受けたのは女性であった。1982年には仕事をしている女性の4.1%(男性では10.5%)が管理職であったが、この割合は1995年には8.7%(男性15.6%)、2015年には14.7%(男性20.5%)に上昇した。しかも就労開始後から3年という若い世代については、2013年では、女性の20%は管理職に就いており、これは男性の20%と同率となる。この世代では管理職ポストを獲得した男女の割合は全く同じということであり、格差が解消されたともいえる。その一方で、部下を持ち、これらの部下を管理する職務を負う女性管理職の割合は男性管理職に比べて低い。また、部下を持つ女性管理職は公職部門でより多く見られる。
雇用・昇進の機会格差が小さくなりつつある一方で、男女間の賃金格差はかなり根強く残っている。男性の給与所得は女性を常に上回っている。2014年には、男性の給与所得は女性の給与所得を23.8%上回っていた。1995年の格差(27.4%)に比べて 3.6ポイントしか縮んでいない。ただし、時給で比較すると男女の賃金格差は17.4%まで低下する。給与所得の格差は、女性はパートタイム雇用に就いているケースが多いこと、女性の労働時間が少ないこと(残業時間が少ない)が理由として挙げられる。給与所得および時給の男女格差は年齢が高い世代ほど大きい。55歳以上では女性の給与所得は男性よりも29.4%低いが、25~39歳ではその差は19.6%となる。また、給与水準が高ければ高いほど格差が大きい。管理職では24.7%に達する格差は、非管理職では10%に低下する。
給与・キャリアの違いは、年金の受給開始年齢および年金額の格差にも反映され、シニア女性には厳しい状況が待っている。1946年生まれでは、退職年齢は女性で61.1歳であるのに対して、男性は60.2歳で、出産・育児により途中で仕事を中断した時期を経ることが多い女性が、男性よりも平均で1年は長く仕事を続けている。年金の満額支給に必要な条件がそろっておらず、年金額の減額対象となっている女性の数も男性をかなり上回っている。
また年金額については、65歳以上の月間手取り額は2014年には男性で1,543ユーロ(1ユーロ=121円、2017年3月19日)、女性で891ユーロとなり、その格差は42%に達する。女性が受け取る平均年金額はシニア向け生活保護(月間800ユーロ)をほんのわずか上回る程度という状態にある。年代が上がれば上がるほど格差は大きく、65~69歳では34%(男性1,603ユーロ、女性1,058ユーロ)、75~79歳で44%(男性1,480ユーロ、女性829ユーロ)、85歳またはそれ以上で52%(男性1,521ユーロ、女性730ユーロ)となる。その一方で、夫または妻が死亡した場合に、残された方が減額された年金を受け取ることができる寡婦(夫)年金を加えると、65歳以上の月間手取り年金額の格差は上記の42%から26%へ低下する。
2012年5月に誕生したオランド政権はまもなく5年間の任期を終えるが、同政権の格差解消に向けた最大の取り組みとして「男女間の真なる平等実現に向けた2014年8月4日法」がある。この法では育児休暇の改革、メディアにおける性別による格差の是正、スポーツ連盟や独立行政機関における責任あるポストへのアクセス平等の保証、性別による格差で有罪判決を受けた企業の公共市場からの締め出しなどが盛り込まれた。
これ以前の女性の機会均等化を目指したさまざまな措置の成果も出始めている。企業の取締役会および監査役会における女性役員比率の最低限の設定を決めた2011年1月27日法(通称コペ・ジマーマン法)は、2017年末までに取締役会における女性比率最低限(40%)を達成することを義務付けた。従業員数が500人を超え、売上高が過去3年間に500万ユーロを超える企業が対象となる。当局機関の調べによると、上場企業520社と非上場企業397社がこの措置の対象となる。
SBF120指数を構成する大手企業120社では、2016年末時点で女性取締役は平均38.4%(2013年比で43%増)とほぼ達成されつつある。しかし、上場企業全体では女性取締役は27.8%にとどまり、非上場企業に至っては14%とかなり低い。中堅企業では、取締役会長や取引銀行、公認会計士などの周辺にいる女性から取締役を採用するケースが多い。公的投資銀行のBPIフランスでは、投融資先の企業での女性取締役の採用を支援するサービスを開始した。
最後に男女格差に対する意識調査の結果を紹介したい。一般的に、女性の持つ能力への疑いは少ない。例えば2017年3月6日のレゼコー紙が紹介した調査によると、国民の87%が女性も男性と同じだけの「科学的な素質」を有していると評価し、91%が定期旅客機の女性パイロットに男性パイロットと同じだけの信頼感を寄せていると回答している。その一方で、女性の母親としての役割には今も変わらず思い込みが強い人もおり「女性が家にいるのが理想的」「男性は外で稼ぎ、女性は家庭を仕切る」という考えを否定しない人の数は一定数を維持している。ただし、就労する女性が増えたことで「主婦」モデルを支持する人は2002年の43%から2014年には22%へ低下した。伝統的な女性の役割を支持する人はシニア、宗教的信仰心の強い人、学歴があまり高くない人で多く、また当然といえるかもしれないが男性の間で根強い。育児休暇の取得についても、女性では母親と父親が平等に取るべきであるとの声が強く、男女の間で温度差があるようだ。
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1 https://www.insee.fr/fr/statistiques/fichier/2586548/FHEGAL17.pdf
2 http://cache.media.education.gouv.fr/file/etat26/13/1/depp-etat-ecole-2016-scolarite-filles-garcons_675131.pdf
(初出:MUFG BizBuddy 2017年3月20日)