アルジェリアにおける自動車産業の発展

投稿日: カテゴリー: アフリカ経済・産業・社会事情

アルジェリアは、主要な収入源である石油の価格下落への対応と経済の多様化という課題に応えるために、自動車輸入の削減と国内製造に向けた政策を進めている。このために同国では、フランス自動車大手ルノーの組立工場誘致に続き、数多くのプロジェクトが進んでいる。

経済のほとんどを炭化水素に頼っているアルジェリアは、ここ数年、原油価格の下落に苦しんでいる。2013年上半期には1バレル100ドル以上で取引されていた原油価格が、2014年半ばから下落し、2016年の前半には一時30ドルにまで落ち込んだ。これによりアルジェリアの頼みの綱である炭化水素の輸出額は減少し、従って税収も大きく減少した。2016年の炭化水素の輸出額は、輸出量が前年比で10.6%増加したにもかかわらず、前年の330億8000万ドルから276億6000万ドルへと後退した。

アルジェリアには、石油税収に絡んで歳入調整基金(FRR)という財布がある。FRRの資産は、予算法において設定された低めの原油価格で価格が推移したと仮定した場合の収入と、実際の石油税収入の差額を繰り入れる形で形成され、FRRにより財政赤字を穴埋めする仕組みになっている。1999年に設立されたFRRは、2012年までは繰入額が財政赤字を上回っていたが、2013年にはこれが逆転し取り崩される格好になった。2014年半ば以降の原油安でこの傾向にさらに拍車がかかった。2016年に政府はFRRの取り崩しを抑えるために国債を発行。それをもっても、2014年末に4兆4882億ディナール(440億ドル相当)だったFRRの運用残高の減額には歯止めがかからず、2017年予算では、これまで設定されていたFRRの残額の下限(7,400億ドル)が撤廃されることになった。ちなみにアルジェリア政府は、2016年予算法までは原油価格を1バレル37ドルに設定していたが、これを2017年予算では50ドルに見直した。これにより自動的に歳入が13%増加することになり、専門家からは現実的なアプローチへの転換と評価を受けたものの、FRRへの繰り入れは必然的に減少することになる。

また、2013年12月時点で1,940億ドルに上っており、潤沢だった外貨準備高も減少の一途をたどっている。外貨準備高が落ち込んでも1,000億ドルを割り込むことはない、と豪語していたアルジェリア政府は2017年3月に、この夏には外貨準備高が960億ドルまで減少するとの予想を示した。アルジェリアにとって、原油安への対応と炭化水素依存型経済の改善が最重要課題となった。

アルジェリア政府は、原油価格下落と経済の多様化という課題に応えるために、さまざまな策を講じたが、これを通じて大きな影響が出たのが自動車業界ではないかと思われる。政府はまず自動車輸入を削減する目的で、2014年にディーラーへの規制措置を強化し、2016年には輸入許可制度を導入した。2016年に輸入許可を付与されたディーラーは、申請80社に対して40社のみとなり、15万2000台を予定していた輸入台数も8万3000台にまで絞り込まれた。輸入額は2012年の76億ドルから、2016年には10億ドル弱まで減少した。

一方で、政府は国内製造を推進し、多くのプロジェクトが実現した。
まず2014年に、フランス自動車大手ルノーが組立工場をオランに開所した。同工場には、ルノーが49%、アルジェリアの公共部門が合計で51%出資した。アルジェリア国内市場向けに、ルノー傘下ダチアの「ロガン」をルノー「シンボル」の名で生産している。年間生産能力は2万5000台で、2019年にはこれを7万5000台に引き上げ、将来的には15万台を目指す。アフリカ諸国への輸出も視野に入れている。

また2014年には、国営SNVI(バス・トラック組み立て)がルイバ工場でメルセデス・ベンツブランドのトラック「アクトロス」の製造を開始した。ルイバ工場にはSNVIを筆頭に、アルジェリア側が51%、アラブ首長国連邦のアーバルが49%を出資している。メルセデス・ベンツとはライセンス生産契約を結んでメルセデス・ベンツブランドのトラック5モデル、バス2モデルを生産。2018~2019年には、生産台数を1万6500台(トラック1万5000台、バス1,500台)まで引き上げることを目指し、将来的にはメルセデス・ベンツからの承認を得た上で、輸出を開始する意向でいる。

2016年10月には、韓国ヒュンダイの自動車組立工場がティアレット県に開業し、小型スポーツタイプ多目的車(SUV)「ツーソン」の組み立てを開始した。同工場への投資額は3億4000万ドルに上り、アルジェリアのTahkoutグループがこのうち40%を自己資金でまかない、60%を銀行から調達した。ヒュンダイからはエンジニアチームの支援を受けている。工場の生産台数は年間6万台を目標とする。「ツーソン」の他に「Grand i10」(4ドア、5ドアバージョン)、「アクセントRB」(セダン、ハッチバック)、セダンの「エラントラ」、SUVの「クレタ」と「サンタフェ」などのヒュンダイ車の組み立てを予定する。

サイダ県当局が2017年1月29日に発表したところによると、スズキブランドの車両の組立工場も、2017年春にオープンする。上記のヒュンダイと同じく現地企業Tahkoutグループが、スズキとの合弁会社を立ち上げたもよう。サイダ市産業地区内のプロメタルの旧工場を利用して組み立てを開始し、最初は年間1万5000台、5年後には10万台を組み立てる予定。スズキブランドの「アルト」と「スイフト」の組み立ての他、エンジンやトランスミッションも製造する。

さらにフランス大型車両製造のルノートラック(スウェーデン産業大手ボルボ傘下)は2017年1月11日、組立工場の建設に着工した。アルジェリアのBSF Souakriとの提携で、メフタ(ブリダ県)に2万4000平方メートルの工場が新設されることになっている。2017年末には操業を開始し、年間2,000台の車両を組み立てる予定。2019年には組み立て台数を年間5,000台に引き上げることを目標にしており、輸出も視野に入れる。

2017年年初には、ティアレット県知事が、間もなくアルジェリアTahkoutとイランのサイパの提携による自動車組立工場が開所すると発表した。24ヘクタールの工場跡地に建設され、2016年末には「整地作業がすでに始まっている」と報道されていた。新工場にはTahkoutが51%、サイパが49%を出資。サイパブランドの自動車を年間10万台組み立てる計画であるとされる。

実現したプロジェクトに加えて、自動車の国内製造への関心もかなり高い。
フランス自動車大手PSAプジョー・シトロエンは2016年6月に、アルジェリアへの工場設置を検討していることを明らかにした。PSAは隣国モロッコでの工場設置を実現している。アルジェリアでのプロジェクトは交渉が続いている状態で、2017年4月にフランスのカズヌーブ首相がアルジェリアの首都アルジェを訪問した際にも新たな発表は行われなかったが、アルジェリアのセラル首相は2017年内には誘致を実現させる意向を明らかにしている。

ドイツ自動車大手フォルクスワーゲンは2016年11月27日、アルジェリアへの自動車組立工場の設置で合意したと発表している。新工場は北西部ルリザンヌ周辺の産業地区に設置される。投資額は2億ユーロ。フォルクスワーゲンにとっては北アフリカ・中東における初めての工場となる。組立工場の過半数資本は、2001年からフォルクスワーゲンの輸入代理店となっているアルジェリアのSOVACが確保し、フォルクスワーゲンは少数派株主として出資する。新型ゴルフ、セアト・イビサ、シュコダ・オクタビア、フォルクスワーゲン・キャディの4モデルの製造を予定し、操業開始から5年後には年間10万台の自動車製造を予定している。

さらにアルジェリア政府は2015年9月16日、アルジェリアを訪問していたイタリアのグイディ経済開発相(当時)との共同記者会見の席で、イタリア企業との提携で二つの自動車組立工場設置計画が進行中と発表した。一つ目は、ブーメルデスとブイラでイタリア「イヴェコ」(バス、トラック、産業用車両など)ブランドの商用車を製造する計画。イヴェコとそのアルジェリアの販売代理企業イヴァルとの合弁で実現する。「イヴェコ・デイリー」の複数のモデルを年間1,000~1,500台のペースで生産する予定。組み立ての他、交換部品も製造する。二つ目はFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)との提携によるものだが、アルジェリア側の提携先など、詳細は明らかにされなかった。

2017年年初にはバトナ県庁が「韓国の起亜自動車が県下に車両組立工場の設置を予定している」と発表した。アルジェリアで起亜ブランドの販売を手掛けるグロービスと提携して、工場を開設する。投資額は10億ディナールに上る見込み。

日本勢もアルジェリアでの組み立てプロジェクトを検討している。トヨタ自動車のアルジェリア子会社は2016年4月11日、組み立てと交換部品の製造に関して三つの計画を年内に始動すると発表した。一つ目の計画は「日野」ブランドの小型トラックの組み立てで、年間2,000台の製造を予定する。現地の報道によると、SKD(Semi Knock Down)生産の年内開始を検討するために日野自動車の幹部がアルジェリアを訪れ、この計画に同意した。二つ目の計画はトヨタブランドの自動車のSKD生産に関するもの。三つ目は交換部品の国内製造に関するもので、ブレーキパッドを年間20万個、ブレーキシューを10万個製造することを目指すという。
これに関しては、駐アルジェリア藤原特命全権大使が2016年12月13日に「トヨタ自動車が日野自動車のバス・トラック組立工場を設置することを検討していると」と発言している。同大使は上記のスズキの組立工場設置に言及した他、日産自動車もアルジェリア政府の許可を待って、具体的な組立工場建設計画に着手すると述べた。

以上のように、ざっとリストアップしても、アルジェリアへのメーカー進出がここ数年で急激に増えていることが見て取れる。ただし、自動車輸入額が減り国内製造が増えても、製造のための部品輸入が増加しているという現実もある。現在のところ、アルジェリア進出国外ブランドの現地調達率はせいぜい10%程度。各ブランドは、この比率をここ数年で30%から40%に引き上げると約束しているが、これも調達先が育たないことには話にならない。現地調達を巡っては、最近、Tahkoutグループのヒュンダイ車組立工場でちょっとした疑惑が持ち上がった。2017年3月中旬にSNS(Social Networking Service)上で流布した写真により、完成車を輸入して実際には組み立てていないのではないかといううわさが広がったのだ。アルジェリアのセラル首相は同年3月下旬に調査団を工場に派遣し、従業員および管理職から事情を聴取。実際に工場で自動車が組み立てられ、プロジェクト仕様が順守されていることを確認したと発表した。セラル首相はこの機会に、生産開始から4年を経過したメーカーに対して、生産する自動車の3分の1を輸出することを義務付ける措置が新たに適用されると述べた。

幾つかのプロジェクト誘致を果たしたアルジェリアだが、今後の課題は、自動車裾野産業をいかに育成し、輸出ができるまでの生産体制をいかに確立するか、という点になりそうだ。

(初出:MUFG BizBuddy 2017年4月)