ネットゼロの実現可能性

投稿日: カテゴリー: アライグマ編集長の日々雑感

英保守党(最大野党)のケミ・ベイドノック党首が、2050年のネットゼロという英国の目標は実現不可能だ
と断言して波紋を投じている。そもそもこの目標は2019年に当時のメイ保守党政権が法制化したものであ
り、リフォームUKなどの極右勢力を除くと、政治的立場の違いを超えて幅広いコンセンサスが成立してい
たはずだが、ベイドノック党首は再エネ優先の政策がエネルギー価格を押し上げている一方で、環境保護効
果は薄いなどとし、イデオロギー的観点からではなく現実的な観点から2050年のネットゼロは無理だと主張
している。これにはメイ元首相が即座に「難しいが実現可能」と反論し、保守党内にも対立があるが、英国
の石油大手が次々と再エネ投資を減らし、化石燃料に再び注力する方向に向かっていることを見ても、経済
的現実はネットゼロの実現可能性を疑わせる方向に向かっている。米トランプ政権の動きもネットゼロに逆
風となりそうだ。もっともトランプ大統領の関税引き上げで貿易戦争が激化して、世界的に経済が後退すれ
ばエネルギー需要が低下し、温室効果ガスの排出量は減るかも知れない。コロナ禍の時期には実際、意図せ
ぬ省エネと排出削減が実現した。ベイドノック党首は、ネットゼロは生活水準の低下なしには実現しない、
などと述べていたが、いみじくも世界的に否応なく生活水準が低下し、ネットゼロの実現可能性が急に高ま
るかも知れない。環境保護のために経済の減速化を要求する硬派の環境派には朗報となろう。