米国の大統領選挙でトランプ前大統領の再選が決まった。欧州連合(EU)では、欧州委員会が今夏からタスクフォースを設置して「もしトラ」のシナリオを検討しており、2016年のトランプ氏当選のときのような動揺はないが、安全保障や貿易を巡る米国との関係を見直す必要がある。11月7日と8日に現在のEU議長国であるハンガリーの首都ブダペストで欧州理事会の非公式会合を開催し、トランプ次期政権への対応策を協議する。
トランプ氏の政権復帰により、米国が欧州に対して従来以上に距離を置くことが予想される。北大西洋条約機構(NATO)を軸としてきた欧州の安全保障体制が揺るぎ、米国への依存度を減らし、欧州が自力で防衛体制を強化する必要が強まる。また米国がウクライナへの支援を削減ないし停止する場合に、欧州のウクライナ支援における負担が増す。経済面では、米国が保護主義を強め、関税を引き上げることが予想され、貿易摩擦が強まる。欧州製品への関税引き上げへの対応もさることながら、米国が中国製品への関税を大幅に引き上げれば、中国が輸出の矛先を欧州に向ける可能性があり、それへの対処も必要になる。
ちなみに、米国の外交政策における欧州軽視の傾向は第1次トランプ政権でいきなり始まったわけではなく、「アジア・ピボット」を打ち出したオバマ政権以来の一貫した流れであり、民主党と共和党のいずれが政権を握っても、基本的な方向性は今後も変わらない。米外交の焦点はアジア・太平洋地域での中国とのパワーバランスで、対欧州関係は二義的な位置付けにとどまる可能性が強い。トランプ氏の政権復帰はこうした流れをいっそう加速させることが予想される。
こうした情勢に欧州がどのように適応するかが注目される。かねてより欧州の主権強化と独自の安全保障体制構築を提唱してきたフランスのマクロン大統領はいち早くトランプ氏の当選を祝福した後 、25分間にわたり同氏とウクライナ問題や中東情勢などの国際的危機について協議し、平和と安定の回復に向けて協力する意向を表明した。マクロン大統領はまた、ドイツのショルツ首相ともトランプ氏再選への対応を協議し、欧州の団結と主権を強化し、「より強い欧州」を実現する必要性を再確認した。マクロン大統領は、トランプ氏との交渉で欧州のリーダーとして主導権を発揮したい意向だと思われるが、解散総選挙後に仏国内で政権維持に失敗し、欧州でも以前のような発言力はない。ドイツでも6日に連立体制が崩壊し、総選挙の前倒し実施が見込まれ、ショルツ首相も対米外交で影響力を発揮できる立場にない。独仏首脳を尻目に、11月3日時点で、欧州の将来は米国の選挙に左右されるわけではなく欧州自身が決めるものであり、選挙結果がどうであれ対米依存の時代はもう終わったと喝破したポーランドのトゥスク首相あたりが、欧州の新リーダーとして浮上しつつある。それと対照的に、ハンガリーのオルバン首相は、親ロシア派であると同時に、トランプ氏と親しい関係を保っており、同氏の当選に力を得て、欧州によるウクライナ支援への反対を従来よりも強く主張する可能性がある。イタリアのメローニ首相も親トランプの立場で知られ、対米関係の強化を期している模様。
欧州諸国首脳の様々な思惑が交錯する中で、欧州が一丸となってトランプ政権に対峙できるのか、それとも各国が目先の利益を優先して我勝ちにトランプ政権との関係構築に向けた交渉に走るのかは、現状では確かでない。