米国の名門大学でのパレスチナ支援運動が飛び火する形で、フランスでもパリ政治学院やソルボンヌ大学で学生がパレスチナ支援運動を展開し、当局は対応に苦慮している。ちなみに、ソルボンヌ大学は歴史が古く、知名度も高いが、特別な名門というわけでなく、バカロレアに合格した生徒なら誰でも入学可能な普通の大学である。それに対して、国際的な知名度は相対的に低いかもしれないが、パリ政治学院はエリート養成を目的とするグランゼコールの一つで、マクロン大統領をはじめとして、有力政治家を多数輩出している。いわばエスタブリッシュメントの中核に位置する名門校なだけに、そこでイスラム左翼勢力の後押しを受ける反体制的な学生運動が活発に展開されることの衝撃は大きい。その背景には、近年、同校が国際交流を活発化させたせいで、米国や中東諸国の影響力が強まったことがあるとの指摘もある。米国のキャンパスを席巻するウォーキズムやキャンセルカルチャーの影響があることは明らかだが、問題はなぜ、こうしたイデオロギーが大西洋を超えて、フランスの若者にも共有されるのか、という点にあるだろう。ウォーキ ズムやキャンセルカルチャーは、かつて世界的に流行したフランス現代思想の影響が米国の大学に浸透して生まれたいわゆる「フレンチ・セオリー」に起源があるというから、その逆輸入版に今のフランスの若者が惹かれるのは当たり前なのかもしれない。ただし、どんな思想も、アメリカ文化というフィルターを通過して加工されると単純化(いや、単なる純化、か?)されて、良くも悪くも明快で分かりやすくなり、広範に流通するポップ思想に転じる。それを左派勢力があまり反省もせずに爆買いしている様は、悪しき資本主義の典型のような気もする。これはまた、米国による思想・イデオロギー上の植民地主義でもあるだろう。人ごとながら、はたで見ていて、ちょっとはらはらしてしまう。
それとは別に、イスラエルとハマスの闘争は、世論操作、外交、イデオロギーなど多くの面でハマスの勝利に終わりつつある。ガザ地区の壊滅という高い代償を支払っての勝利だが、挑発にのったイスラエルをもはや挽回不可能なところまで孤立させつつある。10月7日の直後と違い、ガザの惨状を見ると、心情的にもイスラエルに肩入れすることは極めて難しくなってきた。イスラム主義テロ組織が国際世論を味方につけて勝つ時代がいよいよ到来したのか。