生ごみ分別の行方

投稿日: カテゴリー: フランス社会事情

フランスでは、2024年1月1日から有機廃棄物の分別が義務付けられた。2020年2月12日付で施行された「循環経済法」(AGEC法)の一環である。落ち葉や枯れ枝のみならず、台所から出る野菜くずや果物の皮、食べ残し(いわゆる生ごみ)を有機ごみとして分別する。有機ごみを堆肥化して再利用すると同時に、焼却炉へ回るごみを減らせて一石二鳥と見える施策だが…。

フランスでのごみの分別は大雑把だ。パリ南郊の拙宅の界隈では、植物系ごみ(落ち葉や枯れ枝など)が月曜日、ガラスが木曜日、包装・紙類(プラスチック容器、缶、アルミニウム、紙箱、段ボール、新聞・雑誌など)が水曜日、その他のごみ(いわゆる「家庭ごみ」)が火曜日と土曜日に収集される。包装・紙類は材質の区別なく同じごみ箱にいっしょくたに入れてよい。びんや缶も、中身が空なら洗わずに捨ててよい。乾電池は近所のスーパーの「乾電池回収箱」へ捨てに行く。家電製品や自分で運べる程度の大きさの家具を処分したい時は、土曜日の午前中に市役所前に来る回収車へ持って行く。粗大ごみは係に電話して取りに来てもらう。

ドイツでは、ごみを10種類位に分別してそれぞれのごみ箱に捨てると聞いたことがある。東京の実家に帰ると、牛乳パックは洗って切り開いて同じ向きに重ねてかさばらないように捨てる準備をしている。私は実家のプラスチック用ごみ箱に入れてよいモノ、だめなモノの区別を覚えられず、そのたびごとに母に聞いている。迷惑をかけたくないと思うと、実家ではごみ出しもままならない。

話をフランスへ戻すと、植物系、ガラス、包装・紙類に分別できないモノは「家庭ごみ」として捨てる。「分別できないモノ」を「何でも」と解釈した家人が、家庭ごみの日にごみ捨て場に置いてきた紙袋が、我が家の戸口に戻って来たことがあった。なぜ、うちのごみだと分かったのだろう? リサイクル可能のロゴが付いていても、包装・紙類のごみ箱に捨ててはいけないモノもある。ある日、アパートの掲示板に「たまごパックとヨーグルト容器は家庭ごみ用のコンテナに捨てましょう」と貼紙があった。リサイクル可能のロゴが付いた包装材なのに、家庭ごみとして捨てるべきモノをどこで判断するのか? 悩んでいたら、2023年1月から包装は何でも全て包装・紙類のごみ箱に入れてよいことになった。

2023年9月、消費者雑誌にコンポスターの商品比較記事が出た。室内用4種類(80~110ユーロ)と屋外用10種類(45~210ユーロ)。記事の冒頭には「2024年1月から生ごみの堆肥化が義務になる」。大変だ! 屋内用はミミズコンポスターかバクテリアコンポスター。だが、ミミズコンポスターは家でミミズを飼うようなもので、玉ねぎ、ニンニク、柑橘類、乳製品、肉、魚はだめ(ミミズって偏食)、甘いものを捨てるとコバエが湧くらしい。バクテリアコンポスターは、使い方を読んだら私には無理。それに堆肥化が義務と言われても、コンポスターででき上がった堆肥(土状または液状)をどうしたらよいのだろう? 我が家はアパートの4階で、ベランダはあるが鉢植えは置いていない(私には、庭仕事が得意な「緑の手」がないのだ)。街路樹の根元へでも撒きに行くのだろうか?

アパートの裏庭に屋外用コンポスターを置くのが現実的な気がするが、ご近所の誰も言い出さない。家から徒歩3分の小公園か、徒歩5分の市役所広場に、市がコンポスターを置いてくれたら、そこまで生ごみを捨てに行くのにやぶさかではないのだが…。

2023年10月、11月、テレビニュースのルポルタージュコーナーで時折自宅でコンポストをしている人が紹介され、「来年から皆するんですよ」と念を押される。だが、私の周りでは誰も「生ごみ堆肥化」を話題にしない。アパートの管理組合にも動きがない。皆すでに自宅でコンポストをしているのだろうか? それとも、堆肥化が義務になることを知らないのだろうか?

12月に入って、在仏日本人会から「2024年1月1日以降、台所の生ごみや庭のごみは、自治体が堆肥としてリサイクルできるよう、各家庭に分別が義務付けられました」「分別と回収は自治体ごとにさまざまな方法で徐々に実施されます」とお知らせが来た。消費者雑誌の9月号を改めて見直すと、記事の中ほどに「年内に各自治体が住民に堆肥化の手立てを提供する」とある。そうか、市のお知らせを待てばいいのか。「パリ市では折々キャンペーンを行って、希望する住民にミミズコンポスターを渡している」とも。だが、例えばパリ11区では、事前に研修を受けた人にしかミミズコンポスターを渡さない。きっとミミズを死なせないための飼育研修に違いない。それにパリ市は、ミミズコンポスターでできた堆肥を公園に撒いたり、第三者に譲ったりすることを禁じているらしい。

さて2023年12月半ば、市報12月-1月号が届いた。目次に「2024年の生ごみ分別」の見出しが。どれどれ。

「欧州連合(EU)法に沿って2020年2月に採択された循環経済法(AGEC法)では、2024年1月1日までに有機廃棄物の分別を義務付けています。当市民のために分別システム導入を手配するのは、市ではなくX社です。有機ごみは家庭ごみの3分の1を占めており、フランス環境法典では「庭や公園から排出される廃棄物全て、及び家庭、レストラン、小売店、食品製造・加工業者から排出される食品廃棄物」と定義されます。

この新しい義務は、堆肥化による有機物の再利用、メタン化によるバイオガスの生産、より良い廃棄物管理など、エコロジー移行の機会にもなります。市がこの義務の実施についてX社に再三質問した結果、2024年後半に開始予定で、12月中旬に市民に通知するとの回答を得ました。この重要な問題に関する準備の遅れと連絡不足を遺憾に思うばかりです」

なんと、市はごみ収集請負業者に丸投げして責任転嫁。でも、市がそういう態度なら、市民である私もX社が対応してくれるのを気長に待てばよい。

年が明け、お昼のニュースで「今年から生ごみの分別が義務になりましたが、フランスの3分の2の市町村ではまだその準備ができていません。この規則には罰則がないので、分別しなくても罰せられることはありません」との報道。決まりができても期日を守ろうと頑張らない、フランス的な事例がまたひとつ増えた。

我が家では当面今まで通り、生ごみを家庭ごみと一緒に捨てている。皆はどうしているのか、ちょっと興味がわいて、同僚たちにアンケートを試みた。決まりができたのは知っているが、自治体から生ごみ分別のお知らせが来ないから、今まで通り家庭ごみと一緒に捨てている、が多数派。1人だけ、パリ近郊の一戸建て住まいの同僚が自宅でコンポストをしていると回答。トゥール都市圏は戸建て住宅向けにコンポスターを提供したそうで、これから使ってみるとのこと。庭があれば、コンポスターを置きやすいし、土に穴を掘って自前の生ごみ捨て場を作ることもできる。だが、大都市の庭がない集合住宅の住人向けに、全国の自治体はどのような解決策を考えてくれるのか?

ルーアン市では今のところ住民への生ごみ分別のお知らせはないが、駅に食べ残し用のごみ箱が設置されたそうだ。グルノーブル市は生ごみ分別回収を前倒しで実施した少数派で、2023年半ばに生ごみ用のプラスチック製コンテナがアパートに配布され、ごみ収集車が回収に来ているとのこと。パリ市は3年前から、市内の市場(いちば)70カ所に食品廃棄物専用のごみ箱を設置した。2024年は公共スペースに食品廃棄物用のごみ箱を増やすので、誰もが自宅から徒歩3分以内で生ごみを捨てられるようになる、と広報している。

堆肥化できるごみを分別して捨てるだけで、回収と堆肥化を自治体が行ってくれるなら、それに越したことはない。そういえば、「家庭ごみ収集税」という地方税がある。自治体のごみ収集と処理費用に充てられる。2022年までほぼ据え置きだった課税額が、2023年には33%上がった。生ごみを分別し個人で堆肥化して「家庭ごみ」の量を減らせたら、ごみの収集頻度や焼却費用が減ってこの税金も減額されるのだろうか? あるいは、生ごみ用のバケツや家庭用コンポスターの新規配布、生ごみ処理・再利用設備の新設などに費用がかさんで、当面は税額もよくて横ばい、悪くすれば増税、になるのだろうか? 不安は尽きない。

※本記事は、特定の国民性や文化などをステレオタイプに当てはめることを意図したものではありません。

(初出:MUFG BizBuddy 2024年1月)