フランスの各種中古市場の発展と今後の見通し

投稿日: カテゴリー: フランス産業

フランスでは、不動産、自動車、携帯端末、パソコン等の中古市場が隆盛期を迎えている。中古品売買のECプラットフォームが飛躍し、流通大手による市場参入も目立っている。フランスにおける中古市場は、2009年の金融危機により加速し、昨今の新型コロナ危機によりまた大きく発展したようだ。本稿では、その背景と今後の見通しについて考察する。

フランスでは、不動産や自動車、携帯端末、パソコン、衣料などの中古市場が隆盛期を迎えている。2019年にはフランス人の60%が中古品を購入、古着を購入した人も40%に達した。この割合は10年前には15%に過ぎなかった。

仏視聴率調査機関メディアメトリによると、リトアニアの古着ECプラットフォーム・アプリであるVintedは、2020年12月に、仏電子取引サイト全体で米Amazon、仏Cdiscount(ECサイト)、仏Fnac(書籍・CD・DVD、家電などの販売)、蘭Booking.comに続いて上位5位につけた。Vintedの月平均ユニーク・ビジター数は1,500万人に達する。この調査には、中古品ECプラットフォームの仏Leboncoin(ノルウェーのAdevinta傘下。メディアメトリ調査において、2020年6月時点のユニーク・ビジター数2,947万人)の名がなぜか見られないが、2006年に創設されたLeboncoinも、仏中古市場の発展を体現するサイトだ。

このようなECプラットフォームの成功に刺激され、流通大手の中古市場への参入も増えており、カルフール、オーシャン、ルクレールなどが実店舗での中古品販売に乗り出している。

カルフールは、2020年3月に、中古品売買チェーンのキャッシュ・コンバーターズ(オーストラリア)と提携、傘下のハイパーマーケット内で中古品売買のショップ・イン・ショップの展開を開始した。これらショップ・イン・ショップでは、キャッシュ・コンバーターズの専門家が中古品の売行き動向をチェックし、買値及び売値を決定する。

オーシャンも、オンライン古着販売のPatatamと提携し、2018年に傘下のハイパーマーケットに古着販売コーナーを設置した。

ルクレールは2020年3月時点で、古着コーナーの設置テストを実施している。

仏オンライン・ショップのラ・ルドゥート(仏百貨店ギャラリー・ラファイエット傘下)も古着販売に目をつけた大手の一つで、2020年12月に「La Reboucle」という古着・中古インテリア専門のECプラットフォームを開始した。ラ・ルドゥートは、中古市場への進出に際して、自社の顧客の半分が過去に中古品の売買をしたという調査結果から、中古品取引を自社サイトに取り込んだと説明している。同社は、同社のプラットフォームでの中古品買い取りに当たって、金銭以外に25%割増付きの商品券を提案することで売り手ユーザーの購買力をあげ、自社の売上増を狙うという工夫もしている。

このような中古市場の隆盛は、全く新しい現象というわけではない。フランスには、以前から大規模な中古市場が存在していた。例えば、中古車市場は1980年代時点で新車市場の約2.5倍の規模に達しており、中古車の方が好まれるという傾向は、多少の上下動はあるものの今も続いている。フランスでは、超高級車を除いて、自動車に社会的ステータスとしての役割がさほどないことが働いているだろう。フランス人にとって自動車は足代わりであり、別に10年前の中古車に乗っていても構わないのだ。

不動産市場も、基本的に中古市場である。これは、地震のないフランスの建築が石造りを中心としており、いわゆる「石の文化」圏に属していることから当然ではあり、筆者が住んでいる建物も18世紀のものだ。「木の文化」圏にある日本なら文化財扱いになりそうな古さであろうが、我が家の周りの建物は実は全て18世紀のもので、この国では珍しいことではない。必然的に、不動産取引では中古住宅が中心になる。既存の建物は洪水など自然災害の少ないところや、交通の便利なところに位置することが多いので、新築よりも価格が安いとは言い切れないが、逆に、転売の際にも価格は下がらない。大幅なリフォームなどを施した場合には、逆に価格が上がるくらいだ。

このように既存の中古市場はそれぞれ規模が拡大しているが、それだけでなく、携帯端末やパソコン、ゲーム機、家電などさまざまな分野に渡るようになりつつある。このような変化の最大のファクターは、身も蓋もない言い方になるが、まずは国民の購買力の低下である。1980年から2019年までの中古車販売台数の新車販売台数に対する割合を示すグラフを見ると、不況期には上昇し、好況期には減少していることが見て取れる。インターネット・バブルが弾けた2000年代初めや、リーマンショックが発生した2009年後半には増加に向かっており、その後の好況期には減少しているのだ。このような動きは、経済対策として政府が実施した廃車手当(車齢が10年以上の車を廃車にして、新車に買い替えた場合に支給される)などにより緩和されてはいるものの、明確に確認することができ、中古品の購入が「必要に迫られた」という消極的な動機によるものであることがわかる。

もちろん、中古品の購入には、普通では手の届かない製品を購入できるという積極的な理由もある。しかし、不況期には「強いられた選択」である場合が多いという傾向は否定できない。中古車市場や中古住宅市場を例に取って前述したように、フランスでは中古品に対する抵抗感が元から少ないというファクターも考慮されるべきだろう。内装にしても、大規模なリフォームでも施さない限り、むしろ中古家具や骨董品の方がしっくりくる場合も少なくない。フランス全土において、蚤の市やガレージセールが定期的に開催され、大きな人気があるのもうなずける。筆者自身も蚤の市を結構見て回り、ガレージセールに出店したこともあるが、「なぜこんなものが」という物が売られていることも、また、そういう物が実際に売れることも多々ある。「物好きな収集家がいるものだ」と最初は思ったものだが、前述したような文化的背景や経済動向事情もあるのだろう。

これまで述べてきた中古市場の発展のファクターは、消極的なもの、あるいは伝統的なものだが、近年になって、積極的なファクターが現れた。それは、「環境への配慮」だ。中古品を購入することにより、新品を生産するのに必要なリソースが消費されることを回避するという、循環経済に通じる考え方である。ちなみに、仏ADEME(仏環境・エネルギー管理庁)の報告によると、フランスのテレビ受像機の寿命が1年延びると、CO2排出量170万トンの削減につながるのだそうだ。これは、大都市であるリヨン市(人口100万人)の年間CO2排出量に相当する。

「環境への配慮」のため、家計に余裕があり、新品を買える人々の間でも中古を買う傾向が出てきた。「必要に迫られた」人にも、「環境への配慮」という大義名分が与えられたわけだ。これは心理的に見ると、非常に大きいファクターだと思われる。誰にも「心理的合理化」の傾向はあるもので、「新品を買いたかったが、手が届かず、中古で我慢した」と思うのと、「新品を買うよりも中古を買った方が地球のために有益だ」と考えるのでは、気分が全く違う。あるいは、「値段にそれほど差のない新品と中古品の間で迷ったが、地球のために中古品にした」でもいい。これまでは「値段があまり変わらないなら、新品にしておこう」の方が普通だったはずだ。

この点で注目されるのが、フランスで2020年に施行された「循環経済法」に含まれる「修理可能性指標」だ。「循環経済法」は、使い捨てプラスチックからの脱却、消費者への情報提供、廃棄物対策および再利用の推進、計画的な(製品の)陳腐化の防止、環境への負荷を抑えた生産推進などを柱としたものだが、その一環として「修理可能性指標」を導入した。これにより、ドラム式洗濯機、ノートブック型パソコン、スマホ、テレビ受像機、芝刈り機のそれぞれに、修理の可能性の度合いに応じて評点が与えられ、販売業者はそれを表示することが義務付けられた。これは、本稿のテーマである中古市場とは直接には関係ないかもしれないが、「新品を買わずに中古を買う」と「新品を買わずに修理する」は一脈相通じるものがある気がする。

以上、中古市場のプラス面を主に扱ってきたが、中古市場の隆盛に問題がないわけではない。その一つとして、長い目で見ると、新品の方が実は省エネで環境フレンドリーな場合も多いことが挙げられる。例えば、中古住宅の場合、断熱不足などで、長期的には環境への負荷が大きい場合がある。いずれリフォームが必要となり、それによる環境負荷が大きくなる可能性もある。家電や乗用車でも似たようなケースは多いだろう。次いで、中古市場は消費促進効果が小さく、経済成長に関して大きく寄与せず、ひいてはマイナスとなる可能性もある、というデメリットもある。地下経済の拡大につながるリスクもあるかもしれない。

とはいえ、衣料などの場合は、中古品の方が環境面では絶対にプラスである。中古市場で得られた購買力が、別の形での消費に回る可能性もある。例えば、フランスでは、中古住宅のリフォームは不動産価値を高めるため、あるいは居住性を高めるために頻繁に行われるが、これはDIY市場の発展に直接つながっているだろう。また、上記の「修理可能性指標」に絡んで、「修理可能性」や再利用に向けた技術革新やエコ・デザイン(design for reemploy and reuse, reparability)の可能性も開かれる。

これらの諸点を考慮すると、フランスにおける中古市場の発展には、学ぶべき点が多々あると考える。もちろん中古住宅市場などは、「木の文化」圏である日本とは条件もかなり異なる。また、日本には「初物」を好む伝統が根強くあり、フランスと同一に論じることはできない。しかし、修理可能性の向上などは、企業にとっても、長期的には競合との差異化につながり、新たなビジネスチャンスにつながる可能性がある上、今後は消費者の購入の動機の一つとなっていく可能性を秘めていると思われる。

(初出:MUFG BizBuddy 2021年2月)