アフリカの映画産業、ローカルコンテンツで今後の高成長に期待

投稿日: カテゴリー: アフリカ経済・産業・社会事情

アフリカ輸出入銀行が映画等のクリエイティブ産業支援に本腰を入れている。ナイジェリアの「ノリウッド」は活況を呈し、アフリカ製作の映画やドラマが世界ネットワークの有料配信サービスでも人気を博すようになってきた。こうした映画やドラマは、アフリカ市場での成功の鍵、輸出促進の武器となって、雇用創出や貧困削減の切り札となるかもしれない。

アフリカ輸出入銀行(アフリカ開発銀行グループ)のベネディクト・オラマ総裁は2021年11月、南アフリカ共和国のダーバンで開かれたアフリカ域内貿易見本市(IATF)の席上、同行がクリエイティブ産業振興の「CANEX」プログラムを開始すると発表した。総裁は、「クリエイティブ産業は、アフリカ諸国の国内総生産(GDP)を押し上げて若者を貧困から救うことができる有力なツール」であり、「バンカブルな(儲かる)市場」であると強調した。

CANEXとは、「クリエイティブ・アフリカ・ネクサス」のイニシャルを組み合わせた名称で、2021年のキックオフに続き、年次イベント「CANEX Weekend」が毎年秋に開催されるようになった。

アフリカ輸出入銀行は2020年、クリエイティブ産業向けに5億ドルのファシリティを設定していた。しかし2022年11月、コートジボワールの首都アビジャンで開催された第1回CANEX Weekendにおいて、同ファシリティの金額を2025年までに5億ドルから10億ドルへ倍増する方針を発表した(当初与信枠5億ドルはほとんど貸出済み)。翌2023年11月にエジプトの首都カイロで開催された第2回CANEX Weekendでは、映画産業にターゲットを絞った10億ドル規模のファンド設立が発表された。ファンドは2024年から稼働し、製作費用のほか、大手映画会社との共同製作支援、監督・プロデューサーなどへの支援に資金を振り向ける。

すでに2023年9月のカナダ・トロント国際映画祭では、同行による支援の対象となった映画が上映されたほか、同じく援助を受けたナイジェリア、南アフリカ共和国、ケニアが製作した作品が、有料配信プラットホームで2024年に配信される予定となっている。さらにアフリカ輸出入銀行は、25歳以上のアフリカの若手脚本家を対象に、執筆や、財務・営業・知財権・配給システムまで含めた養成プログラムを実施し、世界の著名脚本家やスタジオ・配給元とのコンタクトも提供していく予定だ。

ところで、アフリカ映画といっても一般的にはまだまだ馴染みが薄いかもしれない。だが、「アフリカの映画大国」として有名になったナイジェリアでは、年間2,000本を超える映画が製作されており、(予算や製作技術に関しては比較にならないとはいえ)製作本数ではハリウッドを超える活況を呈している。同じく映画製作が盛んなインドのムンバイ(旧ボンベイ)が「ボリウッド」と呼ばれるようになったのにならい、ナイジェリアはその頭文字Nを冠して「ノリウッド」というニックネームで呼ばれている。ちなみに、アフリカ輸出入銀行のオラマ総裁はナイジェリア出身の経済学者だ。

国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)の報告書(2021年)によると、アフリカで映画製作本数のトップに立つのはナイジェリアで、年間2,599本と断トツである。2位以下は大きく水があいて、ガーナ600本、ケニア500本、タンザニア500本、ウガンダ200本、チュニジア185本、エチオピア140本、ザンビア105本、リベリア100本、エジプト60本となっている。

ナイジェリアで映画産業が発展したのは1990年代以降。大量の未使用VHSテープの在庫に困った同国の経済的中心都市ラゴスにある電機販売業者が、友人らと短編映画を撮影し、VHSテープにダビングして販売したところ、意外にも人気となったことがきっかけだという。このため現在まで、映画の鑑賞はビデオテープやDVD等の録画媒体を自宅で楽しむ方式が主流となっており、人口2億を超えるこの国で(ラゴスの人口は2,200万人)、映画館は現在でも300ほどしかない。

一方、アフリカ輸出入銀行のイニシアティブとは別に、2023年秋には、Netflix(ネットフリックス)で世界配信されたナイジェリアのアクション&サスペンス映画「The Black Book」が大人気を博し、配信開始から1カ月後のネットフリックス世界ランキング(69カ国・地域)集計でトップ10入りした。過去の犯罪から足を洗ってキリスト教の司祭となった主人公が、犯罪容疑をかけられた息子が殺害されたのをきっかけに犯人探しに乗り出すが、黒幕は、かつて自分を配下に置いていた将軍だったというストーリーで、警察組織の闇を描くスリル満点の展開となっている。この映画の製作費は100万ドルといわれ、資金から製作まですべてナイジェリアとなっている。しかも、配信開始後2日間で550万人が視聴するほどの魅力を持った作品に仕上がりっており、ノリウッド映画の質の向上が確認されたといえよう。ネットフリックスでは今後、ナイジェリアやその他のアフリカ映画を積極的に配信していく方針だ。

ネットフリックス上で最近もう一つ話題となったのは、南アフリカ共和国のテレビドラマ「Blood and Water」だ。このドラマも謎解きのミステリーもので、主人公は南アフリカ共和国ケープタウンに住む思春期の少女たち。偶然に出会ったある私立学校の女子生徒が、17年前に誘拐された自分の姉ではないかと疑いを持ち始めるという物語だ。2020年から毎シーズン6~7話が配信され、2024年にはシーズン4の配信が予定されている。

これらはいずれもアフリカ製のコンテンツが世界配信で成功を収めた好例だ。他方、地元のアフリカ諸国で喜ばれる映画とはどのような作品なのか。この点については、現地の配信企業が経験値を蓄積しており、「アフリカの視聴者は、アフリカを舞台にアフリカの人々を扱った現地物のコンテンツを求める」ことが確認されている。

アフリカの有料配信サービス大手である南アフリカ共和国の企業マルチチョイスによれば、製作技術等の点では欧米やアジアの映画に劣るはずのノリウッド映画を限定配信すると、まずはナイジェリア製作作品の拡大配信を求める声が上がる。続いて、ナイジェリアだけでなく自分の国で製作された作品の配信を求める視聴者の声が多く寄せられるという。

こうした現地の反応を踏まえて、マルチチョイスでは近年、自社の企業の社会的責任(CSR)の一環として、技術移転や製作投資、複数国間での共同製作推進など、現地でのコンテンツ製作の発展を促すためのさまざまな活動を行ってきた。その一つがマルチチョイス・タレント・ファクトリー(MTF)と呼ばれる12カ月間のクリエイター養成プログラムである。これまでにアフリカ14カ国からMTFに参加した206人が映画製作者として巣立ち、各地でキャリアをスタートさせている。MTFで製作された映画は30本、短編映画が16本で、国際連合の広報用動画も製作された。

2023年9月に南アフリカ共和国のケープタウンで開かれた映画・TV・デジタルコンテンツの見本市「MIPアフリカ」において、マルチチョイスはアフリカの映画・TV産業のコンテンツ戦略に関するパネル・ディスカッションを組織したが、ここでも、コンテンツクリエイターにとっては、超地元密着型のオーセンティックなストーリーと、ターゲットとなる視聴者が誰かということについて深い理解が不可欠であると指摘された。

アフリカが今後、映画や動画視聴の大規模市場として成長していくことを見越せば、「アフリカ人による、アフリカ人のための作品」というのは、域外大手にとっても、市場のニーズに合致した妥当なビジネス戦略であることは間違いないだろう。2022年時点での有料配信サービスの利用率は、北米が71%、西欧52%と飽和レベルであるのに対し、アフリカは2%と、今後のアフリカ市場の伸び代は途方もなく大きい。アフリカでの有料放送では、古参のカナルプリュスが西アフリカのフランス語圏を中心に展開し、ネットフリックスが2016年から、2022年にはディズニープラスが南アフリカ共和国と北アフリカに進出した。また、2023年4月には、アマゾン傘下のプライムビデオがノリウッド製作のオリジナル映画「ギャング・オブ・ラゴス」の配信を開始した。

本記事の文脈では、映画の創造性はアフリカの経済発展に寄与するものとして取り上げている。しかし、そこに垣間見える文化的にオーセンティックでローカルな作品を求める消費者の要求には、経済的エンパワーメントの先にある、文化的エンパワーメントへの強い意志が感じ取れる。

(初出:MUFG BizBuddy 2023年12月)