ルノーの社風改善に取り組むデメオCEO

投稿日: カテゴリー: 欧州自動車・モビリティ情報

仏キャピタル誌は2020年7月にルノーのCEOに就任したデメオ氏(53)が、経営の再建に向けてどのような取り組みを進めているかを、CEO自身と他の経営幹部の談話を通じて紹介している。
電子音楽愛好家のデメオCEOは、自らの仕事について、「巨大なミキシングボードを前にして、その調整を完全に変更するためにあらゆるボタンを回しており、時には強い抵抗もあるので、無理強いすることもある」などと説明。デルボス副CEOによると、デメオ氏の就任以来、経営陣の仕事のペースが大幅に加速したという。
ただし、デメオCEOは就任後、首切りは行わなかった。また、ルノー・グループには成功に必要なすべての能力が備わっていると判断した上で、足りないのは正しい方向性だと診断している。CEOによると、これまでのルノーは、事業規模の拡大とアライアンスによるシナジーがコスト競争力の強化と利益の確保につながるとの想定の下に、成長を追求してきたが、これは実現せず、2022年に500万台の販売を目指すと予告しながら、ピークだった2019年にすら360万台に留まった。
デメオ氏が就任する前のルノーでは、2018年11月のゴーン会長の逮捕、日産との関係悪化、2020年の過去最高の損失(80億ユーロ)、ゴーン氏を後継したボロレ前CEOによる再建の失敗などを経て、スナール取締役会会長が再建策の策定に取り組んだ。デルボス氏や、PSAから移籍してエンジニア部門責任者に就任したルボルニュ氏とともに考案した再建計画案には、3年間で30億ユーロのコスト削減と、世界で1万5000人(フランスで4600人)の人員削減が盛り込まれた。販売台数よりも価値創出を優先する方向転換もこの時点で決まった。その上で、会長は、この計画案に自分ではもたらすことができない自動車に関する戦略をもたらすことができる人材が必要だと考えて、セアトで成功を収めていたデメオ氏をスカウトしたと説明。
デメオCEOはルノーのOBでもあり、30年前に2代目「クリオ」のプロダクトマネジャーだった。CEOは「自分の夢だった自動車業界での仕事を実現させてくれた会社」であるルノーにロマンチックな愛着があるという。
CEOは自らの経営スタイルについて「マニュアル式にスタイルを決めているわけではなく、直観的なもので、経験と性格のミックス」と説明。自動車を熟知しているのがCEOの強みで、30年間にわたり、生産、エンジニアリング、デザイン、品質、販売、金融など自動車産業のあらゆる領域について経験を積んできたという。側近もCEOが即座に問題を見抜く目利きであることを認めており、ルノーが準備中だった製品ラインナップを見て即座に、利益の小さいセグメントに偏っていることに気づき、1週間のうちに、7件のプロジェクトを停止して、8件の新たなプロジェクトを開始させたという。
CEOはチームワークと迅速性を重視し、社内に「The Source」というシンクタンクを設置し、これに社内のあらゆる部署から優秀な幹部社員40人ほどを集めて、取締役会の監督下で、経営再建に向けた再編計画を策定させた。この方法により、再編計画は早くも2020年末に完成した。
再編計画は3段階からなる。2021-2023年は「復活」の段階で、コスト削減と組織再編に注力する。2023-2025年は「刷新」の段階で、新型車の投入と利益率の改善を進める。新型車では小型車よりも利益の大きいCセグメントを優先する。またかつての人気車である「R5」を電動化で蘇らせるなどのサプライズも用意する。2025年以降は「革命」の段階で、新たなモビリティサービスを「Mobilize」ブランドで展開し、10年後にはグループ売上高の2割をモビリティサービスで達成することを目指す。
ルノーは伝統的にサイロ型の縦割り組織で知られ、部門横断型のチームワークを導入することは簡単ではないが、記録的な速さで再編計画を策定した「The Source」の成功を機に、社風は急速に変わりつつあるという。経営幹部の査定でもチームワーク能力が重要な基準となっている。また、オンラインでのインタラクティブセミナーが開催され、参加者はCEOと直接にやり取りできることもあって、刺激になるという。イントラネットでの定期的な「オープンフォーラム」を通じて、社員が2ヶ月毎にCEOと意見を交換できるという工夫もなされている。
さらに、経営陣が陣取る本社ビル7階では、以前は各人が個別オフィスを持ち、同僚との会合にもアポが必要だったが、デメオCEOは自分のオフィスも含めて完全にオープンスペースに改装してしまい、意見交換の風通しを良くした。
ルノーの従来の組織について、サッカー好きのCEOは「同じボールに同時に4人のプレイヤーが集まっているようなもの」とその重さを指摘。再編によって、ブランド別の組織に簡素化し、各ブランドの責任者が利益、顧客満足度、投資リターンなどについて明確に責任を負うという新体制に変更した。CEO自身はルノー・ブランドの責任者に就任。
Mobilizeの責任者を兼任するデルボス副CEOは、「以前は、うまく行っても行かなくても、責任の所在が曖昧だったが、新体制では各人の責任が明確になった。そのかわりに、より大きな裁量権を与えられ、自分の責任で自由にイニシアチブを発揮できる」と証言する。ただし、ブランド責任者には、固定費の削減、製造に用いられる部品数の削減による原価の抑制(2023年から1台当たり600ユーロの引き下げ)、新型車開発に要する期間の25%短縮(3年以内に開発)など厳しいノルマが課される。
こうした厳しい規律の実行もルノーの伝統的社風にはそぐわないところだが、デメオCEOはフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)のCEOだったセルジオ・マルキオンネ氏の下で働いたことで、人を動かす術を学んだという。
デメオCEOは部下とフレンドリーに接し、信頼して仕事を任せるが、仕事の進み具合については監視を怠らないし、経営会議も以前より頻繁に開いている。会議では、簡潔で明確な発言が求めれる。CEOはまた、決定を迅速に実行するために、「OKR(objectives and key results)」というツールを導入した。これはルノー社、ブランド、役職の各レベルにおいて、3つの目標を設定し、各々の目標について年度内に達成すべき3つの結果を決定した上で、その実施状況について、四半期毎にチェックし、最終目標に向けた具体的成果があがっているかどうかを確認するというもの。ルノーは2025年までに24種類の新型車を投入する見通し。