コロナ危機に揺れるアフリカ

投稿日: カテゴリー: アフリカ経済・産業・社会事情

新型コロナウイルス感染症の波はアフリカにも押し寄せ、感染者20万人以上、死者6,000人以上が確認された。ただし、当初懸念された感染爆発は今のところ起きていない。その一方で、感染症が引き起こした世界的不況の荒波に直撃され、経済、財政、市民生活に大きな影響が出ている。

新型コロナウイルス感染症の波はアフリカにも否応なく押し寄せた。他の地域に比べて流行の波の到達が遅かったとはいえ、2020年2月にエジプトでアフリカ初の感染者が確認された後、アルジェリア、モロッコなど北アフリカ諸国のほか、サブサハラのナイジェリア、南アフリカ共和国(以下、南ア)など、人口も多く国外との交易も盛んな大陸の経済大国を中心に感染が広がった。

6週間の外出禁止措置を敷いていた南部アフリカの小王国レソトでも最近になって感染者4名が確認されており、感染を免れた国はついにゼロとなった。下表は2020年6月14日の数値として報道されている主な国々の感染・死者数である。アフリカ連合の下部組織、アフリカ疾病予防管理センターによると、アフリカ全体では6月13日時点の感染者は22万6034人、死者6,070人となっている。

【アフリカ諸国の感染者数】(6月14日現在、感染者数が多い国のみ)M000508-34-1.png
出典:AFP通信及びCSSE(ジョンズ・ホプキンス大学)の各種資料を基に筆者作成

しかし、同センターが4月半ばに「死者30万人」を予想し、WHO(世界保健機構)が「最悪の事態に備える」よう繰り返し呼びかけたときの危機感に照らせば、アフリカはこれまで、ヨーロッパ、アメリカに比べても不思議と思われるほど被害を小さく食い止めている。

その理由についてはさまざまな説が出ている。
・流行が遅かったため、国境閉鎖、外出規制、集会禁止等の予防策を導入する時間的余裕があった
・若者が圧倒的に多い(人口の60%以上が25歳未満)
・一部の大都市を除けば人口密度が低い(平均45人/km2)
これらは異論のないファクターだろう。
その他にも、
・感染症が頻発するため地域共同体レベルでの監視態勢のカルチャーが生まれているから
・ウイルス・細菌に頻繁にさらされ、BCG接種・マラリア治療の間接的効果で住民に抗体があるから、
といった仮説が出ている。

しかしながら、アフリカが世界的なコロナ危機を無傷で乗り越えつつあるわけではない。

世界経済に占める比率は少ないとはいえ、さまざまな資源の輸出地域であるアフリカ諸国は国際交易のネットワークにすでにしっかりと組み込まれており、コロナウイルスが世界経済にかけた急ブレーキは、アフリカ経済にも反動の激震を引き起こした。

激震に直撃されたのはやはり航空会社だ。南ア政府は4月、公的支援で生き延びていた南ア航空への資金注入を拒否して新会社設立の方針を発表。ケニア政府も、業績悪化により再国営化が決まっていたケニア航空に対し、コロナ禍を理由とする新たな公的支援を与えるかどうか態度を留保しだした。近年、アディスアベバ・ボレ国際空港をハブ化して発展が目覚しかったエチオピア航空も、50億ドルを投じる空港拡張計画には暗雲が立ちこめ、むしろ、経営立て直しに数年が必要という情勢になってきた。

さらに影響が深刻なのが産油部門、そして石油依存があまりに大きい国々の国家財政であり、その典型が、輸出収入の90%を石油が占める二大産油国ナイジェリアとアンゴラだ。GDPの45%を石油に頼るアンゴラはデフォルトの懸念もあるとされ、2020年予算の30%見直し、支出削減、保有資産の売却など矢継ぎ早の対策を講じている。

ナイジェリアは、アンゴラに比べ多様化が進んでいるとはいえ、経済の規模が大きいだけに打撃も大きい。2020年は3.4%のマイナス成長が予想される。IMF(国際通貨基金)は4月末にナイジェリアのGDPの0.8%に相当する34億ドルの緊急融資を決めていたが、政府予算で当初57ドル/バレルの石油価格を設定していたのを20ドルまで引き下げるという状況にあって、政府はさらに70億ドルの追加融資をIMFに求めざるをえなくなった。

ノルウェーのRystad Energyが発表したアフリカの30の石油・ガスプロジェクトに関する調査によると、全体的に1〜3年の遅れが発生し、収益確保ラインが高い一部プロジェクトは中止となる可能性も大きい。

感染者が最も多い南アは、2020年3月27日からロックダウンを実施、5月1日より段階的な解除に入った。今年は4%程度のマイナス成長となる見通しで、政府はGDPの10%に相当する5,000億ランド規模の大型経済・社会プランを発表すると同時に、IMFを含む諸機関に融資を打診した。南アがIMFに救済を求めるのは今回が初めてだ。

50万人を雇用する鉱業部門は感染予防策を条件としてケース・バイ・ケースの採掘継続が認められ、全体では通常の半分程度の生産が維持された。停電回避に不可欠で機械化も進んでいる石炭部門はほぼ平常通り生産を継続したのに対し、プラチナ部門は不可抗力を宣言。産金部門は、鉱脈が深くなっているだけに作業員間の距離を空けるなどの措置には苦慮しているが、アングロ・アメリカンやゴールド・フィールドのような大手企業は1990年代のエイズ対策を通じて社内の医療態勢を整備しており、検査や陽性者の隔離などの衛生管理を徹底させている。

輸出用農産物も世界的な需要低迷の影響を受けた。世界第1位のカカオ生産国コートジボワールは、昨年度の取引終了後にコロナ危機が発生したため、カカオについては即時の影響は免れたが、今年度の見通しは不透明。一方、インドなどアジア諸国への輸出が多いカシューナッツや綿花はこれら地域での需要後退で大きな値崩れが生じている。政府は4月に、輸出作物支援のため3億8000万ユーロの援助プランを発表した。

年間130万台の自動車を生産する北アフリカ諸国と南アでは、3月半ば以降、ルノー、フォルクスワーゲン、PSA、BMW、日産、トヨタなど主要メーカーが相次いで工場の操業停止を発表。一部で再開の動きが見られるものの、アルジェリアのルノー工場などでは工場閉鎖の懸念も出ており、見通しは極めて不透明だ。

モロッコでは、同国計画庁が4月後半に実施した調査によると、企業の57%が事業の一部又は全面停止を余儀なくされ、部門別では、宿泊・飲食部門の89%を筆頭に、繊維・皮革76%、金属・機械73%、建設60%と広範な経済分野に影響が及んでいる。

観光業がGDPの14%を占めるチュニジアでは、テロによる不振から立ち直りつつあったところのコロナ禍で打撃は大きい。今夏の観光シーズンには、衛生面の仕様を徹底させて、なんとしてでも国外からの観光客を呼び込みたい構えだ。

もう一つ、市民の生活に大きな打撃を与えたのは在外就労者からの送金の中断だ。コロナウイルスによる被害の大きかったヨーロッパ、特にフランスに12万人の出稼ぎ就労者を送り出しているマリでは、国外からの送金が公式にはGDPの6.5%、闇送金も含めると11%、実際にはおそらくその2-3倍を占める。移民として働く在外就労者は飲食、建設、輸送、荷揚げなど危機に直撃された部門で働く者が多いうえ、自国の家族への送金は賃金の半分にも達する。世界銀行(以下、世銀)のエコノミストによると、アフリカへの現金移転は23%の落ち込みが予想される。

こうしたなか、IMF、世銀、EU(欧州連合)などのドナーは緊急支援を次々と発表。4月15日のG20で低所得国に対する債務返済猶予の方針が固まったことを受け、パリクラブ(債権国会議)ではすでにマリ、エチオピア、チャド、コンゴ共和国などとの間で2020年いっぱいの債務返済猶予合意に調印した。ただし猶予では不十分として、債務帳消しを求める声も強い。IMF・世銀の4月半ばの試算によると、アフリカにおけるコロナ危機対策に必要な予算は1,140億ドルに達する。債権国レベルで570億ドル(うち180億ドルがIMF・世銀)、民間債権者レベルで130億ドルの支援のメドがついたが、現状ではなお440億ドルが不足している。

しかしながら、今回のコロナ危機によりアフリカ経済・社会の変革が否応なしに進むことへの期待がないわけではない。

サブサハラ地域での普及が目覚ましい携帯電話を使ったモバイル・マネーは、危機下に最適な金融ツールとして利用が一層加速しそうだ。2019年にはサブサハラ人口の半数近い4億6900万人が利用し、取引額は前年比28%増の4,560億ドルに達した。西アフリカ諸国中央銀行(BCEAO)は2020年4月2日、個人間の電子送金と一定額以下の光熱費支払いを無料とし、電子決済にかかる業者側手数料の撤廃を決めた。他の中央銀行も追随するとみられる。アルジェリアのカード電子決済団体も、QR決済導入によりスマホ決済を推進する方向を発表した。

モロッコでは、航空機部品製造技術を利用した100%国産の人工呼吸器の製造(センサー装備のモデルも含む)、マスクの製造、国産ドローンの開発など、蓄積された技術をコロナ危機対策に活用していく底力が見られた。マスク着用義務化に先立ち、3月24日には繊維企業SoftGroupが記録的スピードでマスク1,000万枚を生産して当局に提供。その他の繊維企業もマスク製造の認証を取得し、国内の生産能力は1日当たり500万枚に達している。近年利用が進んでいたドローンは外出規制下の監視で需要がさらに拡大し、これまでの中国製品の購入一辺倒から、国産ドローン開発へのシフトが加速しつつある。

医療・製薬部門も当然ながらそうした期待がかかる分野だ。米国際開発金融公社(DFC)は、アフリカを中心に医療分野に3年間で50億ドルを投資する「健康と繁栄」イニシアチブを実施する。DFCが20億ドルを拠出し、民間セクターに30億ドルの投資を促す。以前から計画されていたイニチアチブだが、コロナ危機下の実施となったことで投資の一部は関連の医療設備、治療、ワクチン開発に振り向けられる。製薬会社はアフリカには375社しかなく(中国は7,000社、インドは1万1000社)、アフリカ開発銀行のアデシナ総裁も公衆衛生分野への投資拡大を呼びかけていた。

民間では医療デジタル部門のスタートアップであるナイジェリアのヘリウム・ヘルス(Helium Health)が1,000万ドルの資金調達に成功した。計10社が出資し、シンガポールに拠点を置く日本資本のAAIC(Asia Africa Investment and Consulting)も加わっている。ナイジェリア、ガーナ、リベリアに続き、ケニア、ルワンダ、ウガンダ、モロッコへ進出する予定。

なお、今回のコロナ危機では過度に石油に依存する産油国の脆弱さが露呈されたが、ケープタウン大学のカルロス・ロペス経済学教授は、「石油・ガスの埋蔵量が世界の8%に満たないアフリカは、将来的にも同部門でプライスメーカーになれる可能性はなく、今回のように市場の変動に振り回される結果となる」と指摘し、むしろ、価格競争力が増しつつある再生可能エネルギーをテコに世界のエネルギー市場で勝負すべきであると強調している。

(初出:MUFG BizBuddy 2020年6月)