アフリカの住宅市場、デジタルとエコロジーの新手法が登場

投稿日: カテゴリー: アフリカ経済・産業・社会事情

人口増加と都市集中が加速するアフリカでは、住宅としての基準を満たさないスラムに居住する人口が増える一方、政局不安や汚職、土地所有権の不透明、不適切な価格設定などを背景に、政府による大規模プログラムで建設された住宅も庶民の手に届かないままに終わることが多い。こうした中、新しい資金調達方法やIT技術、新資材などを利用した住宅問題への取り組みが活発化しつつある。

アフリカでは人口の増加と都市集中が加速するにつれて住宅問題が深刻化している。国連人間居住計画「ハビタット」の報告書(2012/2013年)によると、サハラ以南アフリカの都市居住人口は3億4550万人、その61.7%に相当する2億1310万人がスラムで生活している。

こうした状況に対処するため、政府による大規模な社会住宅建設プログラムがしばしば鳴り物入りで発表されるが、政局不安や汚職、投資資本の不足、購買力とのミスマッチなどが障害となり、計画の大幅な遅れ、建設された住宅に買い手がつかないといった問題が発生している。

ヨハネスブルクに拠点を置くシンクタンクCAHF(Centre for Affordable Housing Finance in Africa)では、住宅へのアクセシビリティを左右する三つのファクターとして「家計の所得、住宅の価格、資金調達条件」を挙げ、各国別の詳細な分析をまとめたレポートを発表している。CAHFの2017年のレポートで「的外れだったプロジェクト」の一つとして挙げられているのが、ルワンダの社会安全保障評議会が資金を出して建設された首都キガリのビジョン・シティプログラムだ。8年間で2万2000戸の住宅を建設するプログラムだが、2017年7月に引き渡しが始まった第1期では30%しか買い手がつかず「寝室2部屋付きで17万7000ドル」に設定した価格を早々に3割以上引き下げることになった。ルワンダの現在の住宅ローン事情では、一番安い12万4000ドルの住宅でも都市人口の0.1%しか手が届かないのが現状だという。

また、アンゴラの首都ルアンダ近郊のプロジェクトでは、学校・商店・医院を配備して5~13階建て750棟の住宅を建設したものの、1戸12万5000ドルという価格にこれも買い手がつかず、7万ドルまで価格を引き下げた上、政府が住宅ローンの利子を援助する形でなんとか売り切りを図ろうとしている。CAHFの同レポートによると、アンゴラでは価格を2万5000ドルに抑えればようやく38%に手が届く住宅となる。

2012年に「5年間で6万戸の社会住宅建設」という野心的な大統領プログラムを発表したコートジボワールでも、2017年までに実際に建設されたのは1万2785戸、引き渡しが行われたのは4,003戸止まりだった。これを受けて政府は2019年3月、「年間1万~2万戸建設のノウハウを持つ国際的デベロッパー」との契約を通じた「スケールの変更」が必要であると宣言。その数日後には、コートジボワールの投資家グループPAPH(Phoenix Africa Partners Holding)と中国の中国鉄建(CRCC)との間で「緊急課題となっている低価格の社会住宅建設」へ向けた合意調印が発表された。

しかしながら「年間1万~2万戸建設のノウハウを持つ国際的デベロッパー」頼みの住宅開発とは別に、デジタル時代の新しい発想と技術を使って別の角度から深刻な住宅問題に取り組もうとするイニシアチブも活発化してきている。

その一つがクラウドファンディングの活用である。参加型出資プラットフォームであるAfrikstartが2016年に発表したレポートによると、すでに1,000万ユーロ以上がクラウドファンディングを通じて不動産プロジェクトに投資された。アフリカの開発プロジェクトでは欧米諸国へ移住したアフリカ出身者から出身国へ還流する資金が注目されているが、移住者がクラウドファンディングを通じて出身地の不動産プロジェクトに直接投資したり、プロジェクトの資金面での透明性を高めることが期待できる。

住宅利用者サイドの資金調達に関しては、マイクロクレジット枠内での不動産ローン提供の動きが出ている。その先駆けがナイジェリアのLAPO(Lift Above Poverty Organization)である。低所得層の住宅ニーズに新たな解決方法をもたらすべく、フランス開発庁(AFD)と建設資材世界大手のラファージュをパートナーとした「手頃な値段の住宅」プログラムがナイジェリアで2014年にスタートした。AFDが資金を(2013~2016年に500万ユーロ)、ラファージュが技術支援を提供する。LAPOの顧客は期間2~3年で500~1,500ユーロ規模の融資を利用できる。

建設資材企業にとってアフリカは将来的な有望市場であることは間違いない。ラファージュは2014年7月にナイロビで、Housing Microfinace Academyというセミナーを世界銀行グループの国際金融公社(IFC)と共同開催。8カ国から15の金融機関が参加し「手頃な値段の住宅」開発のノウハウについてのトレーニングが行われた。

アフリカにおける土地有効利用の大きな障害となっているもう一つの問題は、土地の所有権をめぐる問題だ。農村部では土地をめぐる部族対立が今も絶えず、最悪の場合には死者も発生する。都市部においても土地台帳の操作が汚職の温床となっている。この古くて新しい土地所有権問題を解決する一つの手法として、ブロックチェーン技術を使った土地台帳透明化の動きが出始めた。

土地の78%が登記されておらず、汚職と閥族主義の横行で土地台帳の公正性も疑わしい状態にあるガーナでは、この弊害を一掃して不正な改変のない公開土地台帳を構築する試みが進行しつつある。スタートアップのBitlandによるイニシアチブで、一般市民が土地の計測や取引の結果をネット上の土地台帳モデルに登録、公開していく。5年間をめどに、ガーナのクマシ市でパイロットプロジェクトが進行中だ。これが土地台帳としての有効性を確立するには法的枠組みの整備が必要とされるが、中米のホンジュラスでは政府が国土全土の土地台帳作成にブロックチェーン技術を活用したという例もあり、Bitlandの試みが将来的に、透明な土地所有権の確立と休眠状態にある土地資産の活用につながることが期待される。

なお、同じくガーナで2019年12月、2021年から毎年2万戸、10年間で20万戸建設という大規模住宅建設プログラムが発表された。南フランスに拠点を置く新興市場専門のコラボレーティブ・ネットワーク、CIOAが施主代行契約を受注し、地元デベロッパーと提携して建設にあたる。50万企業が参加する土地整備・不動産開発分野のコラボレーティブ・ネットワークの動員、首都アクラに開設するトレーニングセンターでの地元就労者7,500人の訓練・雇用、建設資材の80%がリサイクル素材、予算の3%を学校・保育園・病院・商店など共同体施設の設備に充当するなど、社会、環境面での配慮も含めて、元請け/下請けを軸とした従来の大規模不動産開発とは異なるアプローチが注目される。

アフリカにおいて「手頃な値段の住宅」を迅速に普及させる道筋のもう一つは、標準化を通じた簡易なプレハブ住宅の建設、風土やインフラ、さらには近年の環境問題を考慮した建築資材の供給といった技術的アプローチである。上出のラファージュでは、土に少量のセメントを混ぜて焼成なしで自然に固める低炭素の建設資材「デュラブリック」を、英国の開発機関CDCとの合弁14Treesを通じて2016年から本格販売している。2017年にはマラウィに初の工場を開設した。CO2発生量が従来資材の10分の1、コストも20%減という資材で、14Treesという呼称も「樹木14本分を守る」という意味でつけられた。この新資材は、適切なトレーニングを行えば建設現場で製造することも可能というメリットがある。

オーストリアのGHS(Global Housing Solutions)では、PVCとコンクリートを使った特許取得のモジュールシステムにより衛生的で安全、組み立ても用意な社会住宅を提供しており、アフリカではアンゴラ、モザンビーク、ジンバブエなどで供給実績がある。緊急時の仮設住宅用のユニットも用意されている。

庶民の多様な住宅ニーズに応えていくためには二次市場の流動性を高めることも必要だが、この分野でも、ガーナのmeQasa、ナイジェリアのHutbay、ルワンダのHome Africa/House in Africaなど、個人間の住宅売買・賃貸を仲介するためのサイトが出現しつつある。ガーナのmeQasaは地元の若者3人が2013年に開設したスタートアップで、2015年にはマレーシア籍のVCファンドFrontier Digital Venturesから50万ドルの投資取り付けに成功した。さまざまな分野におけるアフリカの遅れを取り戻す機会をもたらしているデジタル技術が、ここでも新たな可能性を切り開きつつある。

(初出:MUFG BizBuddy 2019年12月)