中国のアフリカ進出-再生可能エネルギーが新たな舞台に

投稿日: カテゴリー: アフリカ経済・産業・社会事情

2000年代に入り、中国のアフリカ進出は目覚ましい拡大を遂げた。メード・イン・チャイナ製品の販路、農村労働力の雇用先の確保、経済成長に必要な鉱業資源の獲得という中国側のニーズに、欧米諸国以外の新たなパートナーの出現を待望していたアフリカ諸国側のニーズが一致した。そしてここ数年来、中国はアフリカの再生可能エネルギー分野への進出という形でアフリカとの経済関係をさらに多角化しつつある。

2012年11月5日、フィナンシャル・タイムズ・ドイツ版が「中国SGCCがデザーテック構想参加へ向け交渉を進めている」と報じた。
中国国家電網公司(SGCC)は、中国最大、そして世界最大規模の送配電事業者である。他方、デザーテック構想は、ドイツ企業が中心となって進める壮大な再生可能エネルギープロジェクト。サハラ砂漠というアフリカ北部の広大なサンベルト地帯の太陽エネルギーを利用して発電を行い、地中海に敷設する送電網を通じて余剰電力を欧州へ輸出することで、広域的に最適化した再生可能エネルギー供給網の構築を目指す。最近では、モロッコ、アルジェリア、チュニジア、エジプトなど北アフリカ諸国との間でも協力へ向けた合意を着々と結び、モロッコにおける第1号発電施設の建設も具体化しつつあった。

ところが、デザーテック構想の主要メンバーであるシーメンスが2012年10月、PV・CSP(太陽光・集光型太陽熱)発電事業からの撤退と同時にデザーテックからも出資を引き上げる決定を発表。11月に入ると今度は、同じくドイツのボッシュが出資引き上げを発表したことで、プロジェクト推進ににわかに暗雲が漂い始めた。そして、ほぼ同じタイミングで、中国SGCCによる出資交渉が報道された。

PV・CSP部門でのドイツ企業の苦境は、ユーロ危機や国内でのPV電力買い取り価格の引き下げをはじめとするさまざまな事業環境の悪化が背景にあるが、廉価な中国製PVパネルの流入が、Qセルズなどドイツの有力パネルメーカーの連続倒産を引き起こしたことも事実だ。国の奨励策に支えられていた欧州企業が、中国企業に足をすくわれたといえる。
誇張した一面的な見方であることを承知の上で言えば、欧州における中国メーカーの攻勢でドイツ企業がぐらつき、アフリカでの大規模太陽エネルギープロジェクトから撤退し始めたところに、中国の巨大電力業者がアフリカでの商機を捉えにきたという印象も持てなくはない。

再生可能エネルギーによる広域大規模電力供給プロジェクトでは、電力の生産地と消費地を結ぶ送電系統の整備、特に高圧直流送電の技術が鍵となる。SGCCは2012年5月に、中国西部の新疆ウイグル自治区と河南省を結ぶ全長2,180km、800キロボルト(kv)の超高圧直流送電網敷設計画を発表した。ABB、アルストムらとも提携しつつ、広大な自国の国土で交流・直流の長距離超高圧送電網整備を進めるSGCCにとっては、サハラ砂漠からの送電網整備もそれほどのチャレンジではないのかもしれない。

周知のように、中国のアフリカ進出はここ10年間で驚異的に拡大し、中国は2009年にアフリカにとって最大の貿易相手国となった。2000年の貿易額は100億ドル程度の水準だったが、2011年には1,663億ドル超を達成。2012年上半期の貿易額も986億ドルと前年同期比24.9%の増加を記録した(中国外交部発表)。
さらに、2012年7月に北京で約2,000人を集めて開催された第5回中国アフリカ協力フォーラム(FOCAC)では、中国が向こう3年間で200億ドル相当の対アフリカ資金協力を行うことが発表された。資金協力の内訳は明確でないとはいえ、中国はこれにより最大の対アフリカ・ドナーの座に就くことにもなった。

中国のアフリカ進出は従来、繊維製品をはじめとする安価な中国製品の輸出や、中国人労働者の派遣と抱き合わせにした建設・土木工事の受注、そして何よりも石油、希少鉱物資源の開発を中心に展開されてきた。アフリカ開発銀行が2011年に発表した統計によると、アフリカから中国へ輸出の70%以上は、アンゴラ(34%)、南アフリカ共和国(以下、南ア、20%)、スーダン(11%)、コンゴ共和国(8%)の4カ国が占める。つまり、アフリカ有数の産油国と鉱物資源国ばかりである。

エネルギー・鉱物資源の確保を至上命題とする中国の活発な動きが第1次産品の国際価格上昇をもたらし、一部諸国の輸出収入を増大させた。しかし、鉱業権益確保の一環で中国がアフリカ向けに安易に供与する融資については、欧米諸国からの批判も強く、国際通貨基金(IMF)の進める対外債務軽減策と真っ向から衝突するケースも生じた。中国が2007年にコンゴ共和国との間で結んだ90億ドルの融資は鉱業権益による返済保証付きで、IMFの強い反発を受けて、中国による融資額は結局60億ドルにまで引き下げられた。

そして今、中国は新たに、再生エネルギー市場をアフリカ進出の戦略分野とし始めたように思われる。2009年の第4回FOCACに際して温首相は、対アフリカ協力の主要分野の一つとして再生可能エネルギーを挙げ、アフリカで100のクリーンエネルギープロジェクトを実施する方針を明らかにした。中国は、再生可能エネルギー分野への投資額で世界最多、また、サンテックパワー、JAソーラーなどの企業を筆頭にソーラーパネル製造でも世界トップクラスである。同分野で大きな潜在的リソースを持つアフリカ市場に照準を合わせることは、自国企業の発展のためにも当然の選択ではある。

アフリカの再生可能エネルギー分野における中国の大型プロジェクトとしては、2011年秋に発表されたレソトでの風力・水力発電プロジェクトがある。レソトは、南ア領内の高山地帯に飛び地のように存在する人口約220万人の小国である。2011年10月に発表されたLHPP(レソト・ハイランズ・パワー・プロジェクト)は、15年後をめどに風力発電6,000メガワット(MW)、水力発電4,000MWの発電能力を設置する計画だ。投資額は150億ドル。風力に関しては、高さ80mに及ぶ風車2,000基が建設され、世界最大規模の風力発電ファームが出現する見通しだが、電力の大半を消費する南アの企業とレソト政府の他に、中国の投資家が資金の80%を提供するという。

電気は、鉱物と違って中国には持ち帰れない。しかし、先端エネルギー技術の大規模な実用化に成功すれば、世界的にも大きなインパクトがあるだろう。レソトのプロジェクト第1期では中国の明陽風電集団(Ming Yang Wind Power Group)がタービンを製造する。サハラ砂漠やレソトの高山地帯は、中国の資金と技術の一大ショーウインドーとなるかもしれない。

レソト政府は、2万5000人の雇用創出をうたったこのプロジェクトに貧困脱出の大きな期待を懸けるが、水源の枯渇、風車による環境破壊、南アによる電力吸い上げなどの側面が内在していることも否定できない。相互利益と自助努力支援、多角的協力関係をうたう中国が、今後どのように対アフリカ関係のかじを取るかが注目される。中国外交部によれば、中国企業2,000社が対アフリカ投資を進めており、現地社員雇用率は85%。中国の対アフリカ直接投資のストックは過去10年間で30倍以上増加し、2012年4月には153億ドルに達した。

(初出:MUFG BizBuddy 2012年12月)