ニジェールの資源開発、治安問題に直面

投稿日: カテゴリー: アフリカ経済・産業・社会事情

西アフリカの貧困国といわれるニジェールでは近年、ウランの生産量が増加し、新たに石油生産も開始され、資源開発への期待が高まっている。しかし、収入の公平な分配を求めるトゥアレグによる反乱をはじめ、サヘル地域やナイジェリアで活動するイスラム過激派の脅威にも直面し、資源開発の行方に無視できない影響を与えている。

ニジェールはサハラ砂漠の南端に位置するサヘル地域に所在し、北をアルジェリアとリビア、東をチャド、西をマリとブルキナファソ、南をナイジェリアとベナンに囲まれた内陸国。国土面積は126万7000平方キロメートルと日本の3倍強、人口は2012年末実施の国際連合(国連)統計によると1712万9076人に上る。国連開発計画(UNDP)の人間開発ランキングでは過去10年来、同じくアフリカのコンゴ(旧ザイール)、チャド、中央アフリカ、シエラレオネなどと共に最下位グループを形成しており、2014年ランキングでは187ヵ国・地域中187位の最下位に落ち込んだ。

生存のための農業が主要な産業であり、貧困が深刻なニジェールだが、北部では1971年以降ウランを生産しており、東部アガデム鉱区では2011年に石油生産を開始し、地下資源の開発に期待が高まっている。ウラン生産は2010年以降に大幅に伸び、2012年に4,667トン、2013年に4,528トンを記録した。同じくアフリカのウラン生産国であるナミビアを抜いて、現在、カザフスタン、カナダ、オーストラリアに次ぐ世界第4位につける。ただしアフリカ諸国の多くと同じく資源開発を外国の事業者に依存しており、事業者の利益と国益が必ずしも一致しないという悩みを抱えている。

ニジェールのウラン開発を主導するフランスのアレバとニジェール政府は2009年にイムラレン・ウラン鉱床の開発を目的とした合弁会社を設立し、30年以上にわたって年間5,000トンのウランを生産する計画で合意していた。これが実現すれば、世界第2位のウラン生産国に躍進できるはずだったが、その後両者の間ではウランに由来する利益の分配などをめぐる対立が深まり、その結果、2013年末に失効したウラン開発協定の更新に関する交渉が難航した。

18カ月にわたる困難な交渉の末にようやく新たな合意にこぎ着けたものの、アレバ側の要求により、イムラレンの開発は延期されることになった。その背景には、福島第1原子力発電所の事故を受けて原子力産業が深刻な危機に陥り、ウラン価格が暴落したことがある。それでも、計画自体が中止になったわけでなく、フランスのバルス首相は先頃ニジェールを訪問した際に、2020年までに開発を再開させたいとの希望を表明した。

一方、東部アガデムの油田では中国石油天然気集団(CNPC)が2011年9月に生産を開始し、ニジェールは産油国の仲間入りを果たした。アガデムで採取された原油は同じくCNPCが運営するジンデル製油所(同年11月稼働)に全長約500キロメートル(km)のパイプラインで輸送されて精製される。生産量は日量2万バレルと少なめで、現在は国内市場のみに供給されているだけだが、そのおかげで国内のガソリン価格は引き下げられ、翌2012年には国内総生産(GDP)成長率が10.8%を記録するなど、経済けん引効果は大きい。

アガデム鉱区ではCNPCの他にも、英サバンナ・ペトロリアムなどの外国企業が投資を計画しており、将来的には日量8万バレルの生産を目標としている。隣接するナイジェリアやアンゴラなどの石油大国と比べると生産規模はずっと小さいながら、国内需要を賄った余剰分を輸出するためのパイプライン敷設計画も進められている。これは、チャドとカメルーンを結ぶ既存のパイプラインを利用してニジェール産石油をカメルーンのクリビ深水港から輸出する計画で、アガデム鉱区からチャド国境まで193km、国境からさらに400km、合計約600kmのパイプラインを新たに敷設して既存パイプラインに接続する。

ニジェールのような貧困国では資源開発に当たって外国資本の参入が必要不可欠だが、外国投資家が重視する治安情勢という観点からみると、皮肉なことに、資源開発はむしろ治安の不安定化をもたらす一因であることが分かる。特に40年も前からウラン開発が行われてきたにもかかわらず貧困にあえぐ北部では、トゥアレグによる反乱やイスラム原理主義勢力の活動による治安の悪化をたびたび経験してきた。

トゥアレグはサハラ砂漠とその周辺部(アルジェリア、リビア、マリ、ニジェール、ブルキナファソ)で生活する遊牧民だが、20世紀後半以降に定住化が進んだ。ニジェール北部では1990年代から反政府武装勢力による反乱が繰り広げられ、和平合意締結を経て一度は収束したものの、その後2007年に再燃した。その際に運動を率いた「正義のためのニジェール運動(MNJ)」は、前回の反乱に終止符を打った1995年の和平合意の順守、特に旧兵士の社会経済復帰と鉱業企業による地元住民の優先雇用を要求し、アレバのイムラレン・ウラン開発基地やアガデズの空港、軍基地などを襲撃した。しかし、MNJはタンジャ大統領の強硬路線の下で政府軍による激しい攻勢を受け、最終的にはリビアのカダフィ大佐の調停により武装解除を受け入れ、2009年に政府との和解が成立した。

ニジェールではその後、2010年2月の軍事クーデターによってタンジャ政権が打倒され、軍事政権が成立。移行期間を経て2011年3月に大統領選挙が実施され、民政移管が実現した。政情が安定しない中で、トゥアレグの旧兵士の武装解除は遅れ、トゥアレグの人々は暫定政権から取り残される恐れもあったが、選挙実施に向けて設置された国家諮問評議会(暫定議会)に議席を獲得し、1995年の和平合意の実施状況を監視する委員会の設置を勝ち取った。

そして、2011年に就任したイスフ大統領は、2007年のトゥアレグ反乱の地であるイフェルアネ出身のブリジ・ラフィニ氏を首相に登用。この他にも元反乱勢力のリーダーらが地方議会議長などの要職に就くなど、トゥアレグ出身者が政界で重要なポジションを得るに至った。2012年1月にはアルリット近くで「北部の平和と開発のためのフォーラム」が開催され、15億ユーロ規模の開発プログラムの実施が約束された。ニジェールが、隣国マリでのトゥアレグ反乱を契機に発生した北部危機の波及を免れているのは、トゥアレグの人々の社会統合を推進し、北部の安全保障と開発に努力してきたおかげだともいえる。

しかし、アルジェリアの「イスラム・マグレブのアルカイダ(AQMI)」やマリの「西アフリカ統一聖戦運動(MUJAO)」などのイスラム原理主義勢力によるテロ活動はニジェール北部でも活発に行われている。2010年9月にはアルリットでアレバ関係者ら7人の誘拐事件が起き、2013年5月にはアガデズのニジェール軍基地とアルリットのウラン開発施設を標的にした連続自爆テロ事件が発生し、アレバの事業にも影響を与えている。

マリ北部では2013年1月に始まった国際軍事作戦によってイスラム原理主義勢力が一時的に追放されたが、その後帰還したトゥアレグ勢力による軍事行動も盛んで、イスラム原理主義勢力も復活の機会を狙っているとみられる。これらの武装勢力は、カダフィ政権崩壊後の混迷状態が続くリビア南部からニジェール北部を経由して武器を調達しているとされる。

フランス軍はサヘル地域のテロ対策の一環としてリビア国境にも近い北東部のマダマに臨時基地を設置し、この武器供給ルートの分断を目指すという。また、米軍もテロリストの温床となっているサヘル地域の監視活動を強化するため、これまでニアメに置いていたドローン(無人航空機)基地をアガデズに移転する計画で、ニジェール北部はサハラ地域におけるテロ対策の要所となっている。

一方、外部からの脅威にさらされているのは北部だけではない。ナイジェリア北東部を拠点とするイスラム過激派「ボコ・ハラム」がニジェール、カメルーン、チャドなど近隣諸国でも襲撃や誘拐事件を繰り返し、治安の大幅な悪化を招いている。ナイジェリアとの交易が妨げられたり、観光客の足が遠のいたりと、地元経済に与える打撃も大きい。

国境地帯の治安悪化とチャド湖周辺部におけるボコ・ハラムの脅威拡大は、ニジェール産石油をチャド経由でカメルーンから輸出するためのパイプライン敷設計画の行方にも影響を与えている。メディア報道によると、ニジェール政府は計画の見直しを検討し、代替案として、治安問題が比較的少ないベナンに向けてパイプラインを建設する案が再浮上しているという。

この案は、西アフリカ環状鉄道建設プロジェクトの一環として進めることができるという利点がある一方で、ニジェールからベナンまでのパイプラインだけでなくベナン国内でもパイプラインを新たに建設する必要があるため、予算が2倍に膨れ上がるという難点も抱えている。ベナン政府の積極的な働き掛けにもかかわらず、コスト高を理由に一度は却下された計画だ。ちなみに、北部で産出されるウランはベナンのコトヌー港までトラックで輸送されているが、西アフリカ環状鉄道の一部として2014年4月に着工した、ニジェールの首都ニアメとコトヌーとを結ぶ区間が完成すれば、鉄道を利用したより円滑な輸送が可能になる。

以上、簡単に見てきたように、ニジェールではウランと石油を中心に資源開発への期待が高まる一方で、開発を阻害しかねない治安問題にも直面している。アレバがイムラレン・ウラン鉱床の開発延期を決めた背景には、福島第1原子力発電所の事故に起因するウラン価格の下落といった世界的な事情の他に、依然不安定な情勢の続くマリとリビアに挟まれ、テロリストの脅威にさらされているという安全上の理由もある。

ニジェール政府は今のところ、トゥアレグの人々の社会統合を推進して反乱勢力を取り込むことに成功しているが、約束通り北部の開発を進めるためにはサヘル地域のテロ対策を強化して北部の安全を保障することが必要になり、危ういバランスの上に立っているといえる。サヘル地域のテロ対策に注力する国際社会の支援を得て、どこまで治安を回復できるかが今後の資源開発の鍵となるだろう。

(初出:MUFG BizBuddy 2014年12月)