フランスにおける小売店の日曜営業・夜間営業規制緩和の動き

投稿日: カテゴリー: フランス社会事情

フランスでは長いこと日曜・夜間営業が法律で厳しく規制されてきたが、近年は大きく規制が緩和され、現社会党政権も日曜休業の原則を維持しながらも規制緩和に向け、法の整備を急いでいる。日曜営業は国民の意識にも浸透しつつあるが、労働者の保護を主張し小規模店の消滅を危惧する労働組合の反発も強く、営業違反をめぐる係争が頻繁に発生している。

フランスでは、1906年の法律で日曜日の労働が禁止されて以来、現在まで小売業の日曜日の営業が原則として認められていない。これはローマ帝国時代の4世紀に当時の皇帝コンスタンティヌス1世が日曜日を休日と定め礼拝日として、休業することを命じたことに由来する。日曜日はまた「家族と過ごす日」という意味合いも強く、フランスだけでなく、ドイツ、ベルギー、スペイン、イタリアなど他の欧州諸国でもこの伝統が根強く残っている。これらの国では、夜間労働も厳しく規制されている。歴史的・文化的な理由の他、労働者の保護、小規模小売店の保護も日曜労働、夜間労働禁止の理由として挙げられる。

しかし、時代の経過とともに、小売業の日曜労働禁止の原則には徐々に例外事項が設けられていった。特に、サルコジ政権下の2009年8月10日法(マイエ法)により、自治体が観光地区や人口100万人以上の大消費都市圏(Périmètres d’Usage de Consommation Exceptionnel:PUCE、郊外型の大規模ショッピングセンターなどが対象)の創設を決定することができるようになり、日曜日の営業規制が大きく緩和された。とはいえ、日曜労働はあくまで従業員の自由意志によるもので、雇用主には従業員に平日の2倍以上の賃金を支払うこと、平日に代休を与えることが条件として課されている。

このような規制緩和の動きについて労働組合(労組)は、夜間労働や日曜労働を受け入れているのは、社会的弱者であると主張し反対している。2010年には日曜労働拡大に反対するパリ首都圏の労組が「パリ商業労組連絡委員会(Clic-P)」を創設し、主な労組がこれに参加を表明した。労組は、夜間・日曜労働が一般化すれば当然、特別手当などは支払われなくなると懸念し、特別区以外で日曜営業をしていたスーパーをはじめ、法律で禁じられている夜間労働(午後9時から翌日午前6時)に違反して営業をしたデパートなどを次々と訴えた。夜間営業をしていた大手化粧品販売店や大手スーパーなども営業時間の短縮を命じられた。

一方、2012年に日曜営業を労組に訴えられた大手ホームセンターチェーンは、観光地区やPUCE以外の店舗の日曜営業の中止を命じられ、その後、これらの地区に立地している同業他社を公平な競争をゆがめるとして提訴した。2013年9月の一審判決では、2社の当該地区以外での日曜営業を禁止する判決が下されたが、パリ控訴院の控訴審は一審判決を覆す判決を下した。ただし、労組が日曜営業や夜間営業を訴えるケースが多数発生する中で、行政最高裁判所(コンセイユ・デタ)は2015年2月にDIY店舗を日曜営業許可対象の業種に加えた政令を適法と認定し、2労組が提起した異議申し立てを却下した。

2011年にフランス厚生労働担当省(現在は労働・社会関係・家族・連帯省調査研究統計局(DARES))が行った調査によると、2011年時点で日曜日に働く人は被雇用者(2,580万人)全体の25%に当たる650万人で、このうち300万人は常に日曜労働をしている。「営業時間の制限のないeコマースに対抗するためにも日曜営業は必要」とする小売店は少なくない。

一方、日曜営業をしていてライバル店に告発され罰金刑を科された店の店主は、年間売上高の10%弱が日曜日の売り上げで、従業員には通常の3倍の給料を支払っていたと説明し、働きたい者が働いて何が悪いのかと疑問を投げ掛けている。しかし、フランスのあるエコノミストは、日曜営業・夜間営業の全面解禁について「経済状況が改善されなければ、日曜日に営業しても結局、全体としての売り上げはあまり変わらないだろう」と指摘し「他の店が閉店しているからこそ日曜営業をする店がもうかる。しかも日曜営業ができるのは、通常の2倍以上の賃金を支払える大手小売店だ。従って、日曜営業はつまるところ小規模小売店の消滅を意味する」と分析している。

また、2014年10月パリ市の要請によりフランスの世論調査機関IFOPが行った調査によると、パリ市民の75%が商店の日曜営業に賛成している。また、調査対象者の68%が従業員の日曜労働を認め、57%が自らも日曜日の労働を受け入れると答えた。この他、現在日曜営業が認められている「観光地区」の拡大に賛成する人は83%、オスマン通りのデパートの営業に賛成する人は78%、パリ中の店の営業に賛成する人は65%で、市民の間で日曜営業への意識が浸透してきたことがうかがえる。

こうした中で、ファビウス外相は2014年、日曜日に買い物ができないのは外国人観光客の誘致という点で問題があると指摘し、フランスを訪れる外国人観光客の数を2012年の8,300万人から近い将来1億人に引き上げるという目標を達成するためにも、日曜労働の従業員にしかるべき処遇を認めた上で、観光客向けに日曜営業規制を緩和することが望ましいとの見解を明らかにした。

2015年2月には、フランス経済の活性化を目指して経済の多分野の規制緩和をまとめた「マクロン法案」が下院で採択された。この法案では、日曜休業の原則を維持しながらも、日曜営業・夜間営業規制を緩和し、自治体による日曜営業許可をこれまでの年5日間から12日間へと引き上げることなどを規定している。ファビウス外相、マクロン経済相は共に、ロンドンなど他国の都市に外国人観光客を奪われないためにも、現在日曜営業が認められていないオスマン通りのデパートの日曜営業を望んでいる。

これに対して、イダルゴ・パリ市長は、現在首都圏に設けられている七つの観光地区の数をさらに増やすことには消極的で、関係者とのコンセンサスが形成された場合のみ日曜営業を認め、特に日曜労働や夜間労働を受け入れる従業員の扱いを一本化することを主張している。オスマン通りのデパートの日曜営業に関しては、デパートの営業に伴う地下鉄、バスをはじめとするロジスティクスの整備などにコストが掛かると指摘して難色を示し、観光客は日曜日以外に買い物をすれば問題ない、と話している。

日曜営業や夜間営業がフランス経済にもたらす影響について、フランスの経営者団体、フランス企業運動(MEDEF)は、直接・間接雇用を合わせて4万~10万人の雇用機会の創出を予想しているが、売り上げへの影響に関しては明言を避けている。ちなみに、日曜営業が可能なDIY店舗では、日曜日の売り上げが週全体の20~25%を占めている。これに対して、独立系の小売店は、日曜労働を受け入れる従業員に対して必ずしもしかるべき処遇をすることができないため、日曜労働の条件が雇用者に義務付けられることを望んでいない。

いずれにせよ、大手小売店が日曜日に営業するようになれば、大半の小規模小売店は消滅すると予想される。日曜営業論争が続く中、フランスの中道政党・民主運動(MoDem)のフランソワ・バイルー党首は「週に1度ビジネスが最優先されない日が必要だというのは非常に立派な文明の考え方だ」とコメントしている。

(初出:MUFG BizBuddy 2015年5月)