欧州委員会のフォンデアライエン委員長は5日、ウルグアイのモンテビデオで開かれたメルコスール(南米南部共同市場)の首脳会議に参加した、欧州連合(EU)とメルコスールの自由貿易協定に署名した。
この協定の交渉は1999年に開始された。25年を経てようやく署名に至った。メルコスールへの輸出の90%程度で関税が撤廃されるという内容で、フォンデアライエン委員長は、双方にとって利益となり、消費者と企業の両方に利益をもたらす内容だと強調した。
EU内には反対論もあったが、フォンデアライエン委員長は、そうした反対論には譲らず、署名を急ぐことを決めた。米国でトランプ政権が近く復活し、関税引き上げを決める公算が強まる中で、欧州委としては、他の地域との経済関係の強化を通じて保護主義の動きに対抗することが急務と考えて、署名に踏み切ったものと考えられる。加盟国中では、工業製品等の輸出拡大を期待できるドイツのショルツ首相が署名を歓迎するコメントを発表。南米諸国との歴史的な関係が強いスペインのサンチェス首相も署名を歓迎した。
その一方で、反対派の旗手だったフランス政府は面目をつぶされた格好になった。マクロン大統領は5日の署名前に、フォンデアライエン委員長と電話会談し、現状の協定案なら署名に反対する意志を伝えたが、翻意させることはできなかった。フランスでは、政局混迷の末にバルニエ内閣が瓦解したばかりで、国内の混乱で欧州レベルでの影響力も損なわれた感がある。フランスでは、農業部門を擁護する観点から、ほぼすべての政治勢力がメルコスールとの協定に反対しており、政府も抵抗を続ける考えを捨てていない。
今後、国際協定を批准する手続きが残っているが、政治的合意が伴わない通商協定という扱いなら、欧州連合(EU)理事会による特定過半数による承認と欧州議会の過半数による承認で批准は完了する。政治的合意が伴う協定という扱いなら、EU理事会による全会一致と加盟国議会による批准が必要になる。前者の扱いになった場合に、フランスは、その決定に異議を唱える提訴を欧州司法裁判所に起こす方針といい、それと並行して、理事会で議決を阻止できるだけの勢力のとりまとめを目指す方針だという。今のところポーランドとオーストリアのみがフランスと同様に反対を表明しており、イタリアの説得がカギになるとみられている。