ルノーが上半期の業績を発表した機会に、デメオCEOはレゼコー紙のインタビューに応じて、自らが導入した経営方針の成果を強調した。以下はCEOの談話の概要。
■上半期がアナリストの予測を上回る業績だった理由
上半期には営業利益率(ロシア関連を除く)が4.7%を記録し、アナリスト予測の2.9%や前年同期の2.1%を上回り、受注残も4ヵ月分以上の販売に相当するなど記録的水準に達した。理由の1つ目は、量よりも価値を優先するポリシーの成果で、1台当たりの利益が増加した。また利益率の大きいCセグメントに注力する方針の成果でもある。「アルカナ」の成功などで、Cセグメントは販売の35%を占めるに至った。2025年には45%にすることを目指す。以前は年間350万台を生産していたが、今は250万台しか生産しないのに利益は増大した。
理由の2つ目は損益分岐点が2年間で43%も下がったことだ。利益を出すために、以前は年間350万台の販売が必要だったが、現在は200万台以下ですむ。おかげで、生産能力を調整し、100万台分を削減したため、2023年には生産能力の利用率が100%となる。
利益を確保して、それを研究開発や品質向上に投資するというのが今の基本方針であり、販売台数を追求する罠には陥らない。
ただし、競合メーカーの多くは2桁の営業利益率を達成しており、ルノーの場合は改善の余地がまだある。
■半導体不足の影響
半導体不足は、年間生産台数を30万台ほど押し下げ、特に上半期に影響が出ると予告した通りだ。半導体不足の影響はまだ1年か2年は続くが、状況は安定化に向かっている。
■通年の業績見通し
ロシアの影響を考慮して、いったんは年間の営業利益率の見通しを4%から3%に引き下げていたが、今回これを再修正して5%に引き上げた。これは当初は2025年の目標だった。目標は前倒しで実現されつつある。
■ロシアからの撤退の影響
純利益に23億ユーロのマイナス影響があった。ただし、ウクライナ危機の発生時の金融市場の反応は過剰だったと思う。ロシア事業は販売台数の18%、売上高の9%、利益の5%ほどを占めていたが、現地での債務を返済する必要があったため、ルノーはロシア事業から資金を回収したことは一度もなかった。ロシア事業の譲渡は難しい決定だったが、現地の4万5000人の従業員に対して責任ある選択であり、また、ルノーが毎月資金を無駄に失わないためにも必要な決定だった。
■EV事業と内燃エンジン車事業を分離する狙い
まず明らかにしておきたいのは、今後もルノーは1つのグループのままであり、その中での事業分離だという点だ。EV事業部門「アンペール(Ampere)」の設立計画は、EVにとり理想的な体制を整えて新世代のメーカーとすることが狙いだ。ルノーの従業員総数11万1000人のうちの1万人程度を「アンペール」に割り当て、ルノーが過半数を維持して経営権を維持するが、外部の投資家の資本参加を受け入れる。日産・三菱自とも計画への参加を協議しており、両社は現在、分離計画の詳細を検討中だ。しかし、他の自動車メーカーによる計画への参加は予定していない。
EVは内燃エンジン車とは全く違う事業で、バリューチェーンが異なり、バッテリーや原材料の調達が肝心であり、またソフトウェア関連事業も統合する必要がある。フランス国内で現地生産を行うフランス版テスラを創設するのが目的であり、エンジニアリングから組み立てと販売まで、高付加価値のEV事業の全体を「アンペール」にまとめる。
その一例として、ヴァレオと提携して、レアアースを用いない高性能モーターを2027年からクレオン工場で生産し、他の自動車メーカーにも供給する。
他方で、内燃エンジン車とトランスミッションに関する事業は「ホース(Horse)」と命名される事業部門にまとめ、その拠点はフランス以外のスペイン、ルーマニア、トルコ、ブラジルなどに置く。内燃エンジン車事業を放棄するわけではないが、欧州連合(EU)は2035年には内燃エンジン車の新車販売を禁止するため、内燃エンジン車の市場は欧州の外にしかなくなる。これを先取りして、内燃エンジン車事業を継続できる体制を整える必要がある。内燃エンジン車は2040年の時点でも世界新車販売の6割を占めると予想されており、販売のピークは2026年か2027年に来ると考えられる。内燃エンジン車はすでに必要な投資が済んでおり、利益を生み出せる事業であり、欧州以外でのポテンシャルは大きい。「ホース」にも1万人の人員を割り当てる。また、こちらでは他の自動車メーカーと提携して、シナジーを生み出し、技術を最適化し、供給を合理化する用意があり、日産・三菱自にも開かれている。ルノーは主要株主となり、生産する内燃エンジンはグループ傘下ブランドだけでなく、他の自動車メーカーにも提供する可能性がある。
■日産・三菱自との関係
アライアンスは、事業計画に関する協議を通じて再建途上にあり、ルノーの援助を得て三菱自が欧州事業を維持したことや、仏ドゥエ工場で「日産マイクラ」が生産されることなどが好例だ。他にも10件ほどのプロジェクトがあり、一部は年内に実現する見通しで、アライアンスが機能していることが証明されるだろう。プラットフォームの共通化に向けた努力ももちろん継続する。
■自動車価格の上昇について
新車の販売台数は減るが、単価は上昇する可能性はある。EUが2035年から新車を完全に電動化すると決めた以上は、自動車価格への影響は避けがたい。EV価格は長期的には下がるだろうが、原材料不足のリスクもあり、すぐには下がらない。自動車価格は長期的に上昇すると考えられる。自動車産業にとってはチャレンジであり、将来的には欧州市場の規模を販売台数ではなく売上高で評価すべきかも知れない。ルノーが生産能力を削減したのは、将来的な販売台数の減少を先取りしたためもある。
ただし、ルノーはダチアのおかげで、妥当な価格の自動車を提供できる。ダチアの製品も、2035年までには必要に応じて電動化される。
■EVの利益率
次世代のEVで内燃エンジン車並みの利益率を達成できることを目指している。新型EVはそのライフサイクル全体でみると利益率を押し上げる効果がある。今では「メガーヌ」のEVバージョンのほうが、内燃エンジンバージョンよりも利益幅が大きい。
■ルノーの株価が3年間で半減したことについて、株式の17%を保持する個人株主へのメッセージ
ルノーの株価のポテンシャルは高く、現在の再編はすべて、従業員と株主の利益のために価値を創造することを目指している。債務の返済が先決だが、その後はできるだけ速く配当の再開に向かう。