19日に総選挙の決選投票が行われた。マクロン大統領の与党連合が最大勢力となったものの、過半数を失った。今後の政局運営の行方は混とんとしてきた。
[選挙結果]
与党連合アンサンブルは、改選前には、全577議席中で345議席と幅広い過半数を保っていた。改選後では245議席となり、100議席の大幅後退を喫した。過半数は289で、それには44議席足りないという厳しい結果になった。
メランション氏の呼びかけで実現した左派連合NUPESは合計で131議席を獲得。中核となるメランション氏の「不服従のフランス(LFI)」はうち71議席を獲得した。NUPESにはほかに、共産党、環境政党EELV、社会党が合流している。メランション氏はNUPESで過半数を制して自らは首相に就任するとの構想をぶち上げて、支持を呼びかけていたが、その実現には至らなかった。
選挙の最大の勝者は極右RNで、北部地方で再選を決めたマリーヌ・ルペン氏(大統領選候補)を含めて、89議席を獲得した。改選前は10議席にも満たず、議員団結成に必要な15議席の獲得が目標だったが、それを大幅に上回る議席数を達成した。最大の野党勢力はNUPESだが、RNは単独政党としてはLFIを上回り、野党中の最大勢力に躍り出た。
保守野党の共和党と中道野党UDIによる右派連合は74議席を確保。改選前の100議席から後退したものの、議会内に確固とした地位を保つことに成功した。特に、数の上では、マクロン大統領の与党連合と結べば過半数を確保するに足る勢力であり、今後の政局運営において発言権を強める可能性がある。ただし、党内はマクロン大統領に協力的な勢力と、強く批判的な勢力に二分されており、ジャコブ党首も19日の時点では、マクロン大統領に対する野党として選挙を戦ったことを挙げて、協力の可能性に否定的な見解を示した。
このほか、左派諸派が22議席、中道諸派が4議席、その他が12議席となった。
棄権率は53.77%に上り、1週間前の第1回投票と比べて大差はなかった。前回2017年の決選投票の57.36%と比べると低下したが、それ以前の水準と比べるとかなり高い。
[大統領派が過半数割れ、前例のない事態]
大統領選挙後に行われた総選挙で、大統領派が過半数を確保できないのは、第5共和政においてこれが初めてであり、先の読めない未曽有の展開となった。政府としては、一部の勢力を引き入れて多数派を擁立することが考えられるが、十分な数を確保する展望は今のところ開けていない。案件ごとに多数派を確保するべく交渉するという方法もあるが、その場合は政局運営が麻痺常態に陥り、必要な改革が遂行できなくなる可能性が高い。先行き不透明を前に、20日の市場がどのような反応を示すかが注目される。
[国民はマクロン大統領に厳しい審判下す]
選挙結果はとりわけ、マクロン大統領の個人的な失敗と考えることができる。大統領は4月末の当選後に、新政権発足を1ヵ月近くも遅らせて、政局運営に及び腰の姿勢を示した。総選挙における対応でも、国際情勢を挙げつつ極右や左翼勢力が台頭すれば混乱に陥るのは必至であるとの論拠を掲げるのに終始したが、この作戦はまったく機能しなかった。国民は、マクロン大統領の再選は認めたものの、マクロン大統領に対する不満の念は大きく、「反マクロン」の掛け声に従う有権者も多かった。現職への不満をぶつけるという投票行動は定番と化しているが、今回の選挙でもそれは同じだった。マクロン大統領への不満の念は、側近であるフェラン下院議長やカスタネル元内相の落選という形で象徴的に表明された。また、総選挙に臨んだ閣僚15人のうち、ブルギニョン保健相、ドモンシャラン・エコロジー移行相、ベナン海洋閣外相の3人が落選。不文律に従って少なくともこの3人は内閣を離れることになる。ボルヌ首相は当選を果たしたが、今後の政局運営の行方によっては、内閣改造を経て辞任を求められる可能性も否定できない。