総選挙第1回投票:与党連合による過半数確保が微妙に

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総選挙の第1回投票が6月12日に行われた。マクロン大統領の与党連合「アンサンブル」が僅差で得票率トップとなったが、過半数確保は微妙な情勢となった。1週間後の19日に決選投票が行われ、当選者が出揃う。
総選挙は完全小選挙区制で行われ、総議席数は577。第1回投票にて、有権者数の25%以上の得票数を得て、得票率50%超を達成した候補がいた場合、決選投票を待たずに当選が決まる。当選者が出なかった場合、得票率上位2名の候補の間で決選投票が争われるが、それ以外にも有権者数の12.5%以上の得票数を得た候補がいた場合、決選投票に進出する権利を確保する。
今回の投票では、棄権率が52.5%と特に高く、前回(2017年)の51.3%をさらに上回り、過去最高となった。2012年以前は棄権率は50%を顕著に下回っていたが、マクロン政権が発足して以来で2回の総選挙では50%を上回っている。国民の政治不信が一段と強まっていることをうかがわせた。
政治勢力別の得票率では、マクロン大統領の保守連合「アンサンブル」(マクロン大統領のルネサンスと中道MODEM、右派「地平」)が25.75%の得票率を達成し、メランション氏が率いる左派連合NUPES(メランション氏のLFIのほかに、共産党、社会党、環境派EELVが合流)の25.66%を抑えて僅差で首位に立った。これに、極右RNが18.68%で続き、保守野党の共和党と中道野党UDIは合計で11.29%を確保した。大統領選挙に出馬した右翼の論客エリック・ゼムール氏が率いる「失地回復」は4.24%の得票率を達成したが、南仏の選挙区から立候補したゼムール氏をはじめとして全員が決選投票に残れずに落選した。
IPSOSとソプラ・ステリアによる獲得議席数の予測を見ると、与党連合アンサンブルが255-295議席となり、過半数である289議席の獲得は微妙な情勢となった。左派連合NUPESは150-190議席を獲得し、議会における第2の勢力の地位を固めるが、メランション氏が掲げている過半数の獲得と自らの首相就任という目標は達成できない見通しとなった。共和党とUDIの保守連合は50-80議席を獲得する見通しで、改選前(共和党で100、UDIで19)に比べて後退するものの、壊滅的な状況に陥るのは免れる見通しとなった。極右RNは20-45議席を獲得する見込みで、念願の議員団結成に必要な15議席を超えるのが確実となった。
NUPESのメランション氏は開票速報の発表を受けて「勝利宣言」を行い、決選投票の結果は決まっておらず、取り沙汰されている予測は無意味だと言明。定年年齢の60才への引き下げや法定最低賃金(SMIC)の大幅引き上げなどの公約実現に向けて、また、マクロン政権による国民無視の自由主義的政策推進を止めるためにも、決選投票でNUPESに投票してほしいと国民に訴えた。与党連合のアンサンブルでは、自らも出馬したボルヌ首相がコメントを発表。左右の「過激主義」の手から国を守るために、マクロン政権に明確な過半数を与えてほしいと国民に呼びかけた。首相は、極右勢力に加えて、舌鋒鋭く警察批判を展開しているメランション氏を明確に意識して、左右両方の「過激主義」を、国の安定に対する脅威として挙げて、与党勢力を過激主義に対する守り手として位置づけた。
なお、現職閣僚では、15人が総選挙に立候補しており、選挙で落選した場合、不文律により閣僚に残留することはできなくなる。立候補した閣僚らはいずれも、決選投票に進出することができた。選挙出馬が初挑戦というボルヌ首相は、カルバドス県の選挙区から立候補し、34.32%の得票率でトップとなり、NUPES候補(24.53%)と決選投票で対決する。性的暴行疑惑の渦中にあるアバド連帯相は、アン県の地元選挙区から立候補し、33.38%の得票率でトップで決選投票に進んだ(23.54%のNUPES候補と対戦)。閣僚の候補の中では、モンシャラン・エコロジー移行相(得票率31.46%、38.31%のNUPES候補と対戦)とボーヌ・欧州担当相(得票率35.81%、40.43%のNUPES候補と対戦)で厳しい戦いとなっている。また、ブランケル前教育相は、ロワレ県の選挙区から立候補したものの、決選投票に残れず落選(極右RNがトップ、NUPES候補と決選投票)しており、与党連合の苦戦を象徴する事件となった。