「ルノー・ゾエ」の将来に暗雲

投稿日: カテゴリー: 欧州自動車・モビリティ情報

(challenges.fr 2021-10-26)
https://www.challenges.fr/automobile/actu-auto/pourquoi-l-avenir-s-assombrit-pour-la-renault-zoe_786437
テスラのEV「モデル3」が9月に欧州販売台数で首位に立った。EVが内燃機関エンジン車を凌いで首位に付けたのは初めてで、自動車業界における一種の事件と言える。
この「モデル3」の快挙の陰で、電動化のパイオニアである「ルノー・ゾエ」の衰退が起きている。「ルノー・ゾエ」は「モデル3」に抜かれる前は、欧州で最も売れるEVだった。2020年8月に発売したフォルクスワーゲン(VW)の「ID.3」も「ゾエ」の地位を深刻に脅かしつつある。2021年の年間販売台数では「ID.3」が「モデル3」を上回る可能性もあるほどだ。欧州でのベストセラーEVの地位は2019年に「モデル3」が獲得し、2020年には「ゾエ」が奪回したが、2021年には「モデル3」か「ID.3」が獲得する可能性が高い。
2021年1-9月のEV各種モデルの販売状況を見ると、EV全体の販売が2倍以上に急増し、「ヒュンダイ・コナ」「キア・ニロ」「プジョー・e208」などが過去最高記録を更新する中で、「ゾエ」だけは販売が減っており、前年同期比24%減の4万7000台に低迷した。
9月のみを見ると、「モデル3」は前月比で58%増(前年同月比では93%増)の2万4591台の販売を達成したのに、「ゾエ」は40%減を記録した。もちろんテスラの納車数は以前から変動が大きいことを考慮する必要はあるし、テスラは半導体在庫が他のメーカーより多いので、半導体不足の影響が小さいという面もある。
それにしても、「ゾエ」は販売価格をほぼ同じに維持しつつ、航続距離を発売時の2倍に延ばすなど性能をコンスタントに改善してきたのに、それが報われず、販売は低下している。しかし、これはEV市場の変化が加速している中で、「ゾエ」がもはや大きく進化していないことに一因がある。
デメオCEOは7月に新たな事業プランを提示し、フランス国内で2024年までに7種類の新型EVを生産し、モーターも国内で生産するとの野心を掲げた。こうした流れの中で、ルノーは「ゾエ」の刷新よりも、次世代EVの開発に全力を傾注することを選択したかに思われる。国内生産の労働力コストの高さというハンデを克服するために、ルノーは生産性の向上とバッテリー製造原価の低下に期待しており、2024年に投入が予定される新型EV「R5」の製造原価は「ゾエ」を33%ほど下回る見通しとなっている。「R5」の製造原価を「クリオ」のガソリン車並に抑え、60kWhバッテリー搭載モデルの販売価格を3万ユーロ程度とすることが目標となる。
現行の「ゾエ」は52kWhバッテリーを搭載し、販売価格は3万2500ユーロで、高速道路での実質的航続距離も含めて、もはやEV市場で際立ったモデルだとは言えない。バッテリーの充電率を20%から80%に引き上げるには1時間近くを要し、これで得られる実質的な航続距離は、時速130キロメートルで走行した場合に、190-200キロメートルにとどまる。「e208」も似たようなものだが、韓国メーカーのEVは多少価格が高いものの、バッテリー性能は遥かに上であり、しかもEV市場の進化は速い。
「ゾエ」にとって不運なことに、数ヶ月前から、同じルノー・グループの新型EV「トゥインゴE-Tech」「ダチア・スプリング」EV版が登場し、3万台の受注を獲得して、さらに競争が強まっている。この両モデルは確かに航続距離こそたいしたことはないが、価格競争力が強みとなっており、それとの比較で、「ゾエ」が性能のわりに高価なモデルのように見える結果となっている。