フランスでは国民の芸術や文化への関心を高めようとさまざまな文化関連のイベントが開催されており、欧州規模のイベントにもフランス発のものが少なくない。文化の民主化、若者の文化への関心を高めることに腐心するフランス政府は、美術館・博物館の入場料を無料にするなどの措置を講じた。この結果、30歳以下の若者の訪問が以前に比べ大きく増えたことは注目に値する。
フランスを含めた欧州では国民の芸術や文化への関心を高めようとさまざまなイベントを開催している。
2011年、フランスでは国立記念建造物(モニュメント)*の入場者数および国立美術館の入場者数とも2010年を5%以上上回った。このうち、国立モニュメントの入場者数は過去最高の900万人以上に達し、2010年に比べ5.5%増となった。国立モニュメントの入場者の80%は観光客で、モニュメントの知名度が高いほど外国人観光客の割合が多い。最も人気が高いのは「凱旋(がいせん)門」で入場者数は150万人に達する。国立モニュメントの70%近くは前年に比べて入場者数が増えているが、欧州からの入場者は減少し、変わってフランスおよび新興国からの入場者が増加している。
一方、2011年における国立美術館・博物館の入場者数は2,700万人で、前年に比べ5%増を記録した。これについては外国人観光客、特に米国からの観光客が戻ってきたこと、新興国の観光客が増えたことが主な要因となった。人気が高いのはパリおよびその近郊にある美術館だ。ルーブル美術館(2011年の入場者数880万人)、ベルサイユ宮殿(同600万人)、オルセー美術館(同290万人)、ポンピドゥー・センターの名で知られる国立近代美術館(同360万人)、ケ・ブランリー美術館(同130万人)などで、これらの美術館では2011年の入場者数がいずれも前年を上回っている。特にポンピドゥー・センターの2011年の入場者数は前年より13%も増加した。地方の美術館で人気が高いのはロレーヌにあるポンピドゥー・センターのメッス分館で、2011年9月には開館から16カ月で入場者数が100万人に達した。各美術館とも、入場者の大半は30歳以下の若者で、以前にあった「美術館・博物館巡りは中高年の余暇」というイメージが大きく変化したことがうかがわれる。ルーブル美術館を例に挙げると26歳未満の入場者は全体の39%、30歳以下は全体の50%、また無料で入場している者は全体の3分の1以上の36%に達する。
フランスでは、2000年1月より、国立美術館については毎月第1日曜日が入場料無料となった。これは当時の社会党政権の下で「文化へのアクセスの民主化」を提唱するトロットマン文化・通信相(当時)の発案により実現したもの。まず1999年10月に100余りの国立モニュメントの入場が無料とされ、2000年1月以降、18歳未満の若者の入場は常に無料となった。また、プティ・パレやパリ市立近代美術館などパリ市立の美術館は2002年以降、常設展を無料にしている。
もっとも、他の国立美術館に先駆けて1996年に試験的に第1日曜日に入場料無料を実施していたルーブル美術館は、2014年から観光客の多いハイシーズン(4~9月)はこの制度を適応しないことを決定した。入場料無料の日曜日の入場者数が3万~3万8000人と膨れ上がり、美術館が大変混雑して訪問者の不満が募った上に、美術館の職員の業務が増えたことなどが理由として挙げられている。
片や、欧州の枠組みで進められている美術館振興のプロジェクトも幾つかある。若年層の文化への関心を高めるため、欧州評議会の支援で行われている「欧州文化遺産の日(Journées européennes du patrimoine)や「欧州美術館・博物館の夜(Nuit européenne des musées)」は代表的なイベントで、共に欧州の文化共同体の建設に貢献することを狙っているが、もともとは「文化の民主化」を提唱するフランスの試みに想を得ている。
「欧州文化遺産の日」は、1984年に当時のフランス社会党政権下で文化相を務めたジャック・ラング氏の発案で普段は一般公開されていない歴史的建造物やモニュメントを一般市民に開放した「歴史的建造物公開の日(Journée portes ouvertes dans les monuments historiques)」に由来する。このイベントがフランスで好評を博したことを背景に、1991年には欧州評議会が毎年9月の第3日曜日に歴史的建造物を一般公開することを正式に決定した。フランスでは2010年のイベントの際には、1万5000カ所の名所・旧跡を1,200万人が訪問した。訪問先として人気があるのは、大統領官邸や首相官邸、上院(ルクセンブルク宮殿)などで、2012年にはオランド大統領自らが大統領官邸を訪問した人々を出迎えた。
いまひとつの有名イベントである「欧州美術館・博物館の夜」も、国内の美術館を春のある日曜日に無料にしようという、フランスの文化・通信省の1999年のプロジェクトが基になっている。これが2001年には「美術館の春(Printemps des musées)」として、欧州評議会の文化協約に署名している47カ国全ての国で行われるようになった。その後2005年には、ユネスコや国際博物館会議(ICOM)の協力を得て、深夜まで美術館を開館する「欧州美術館・博物館の夜」に発展(ルーブル美術館は午後6時から午前1時まで)した。
2012年の第8回「欧州美術館・博物館の夜」には、フランスの美術館(1,304カ所)および、欧州評議会に加盟する諸国の美術館(2,021カ所)が参加した。フランスでは入場者数が200万人に上り、この日のため合計5,000のイベントが国内の美術館・博物館で開催された。2013年の第9回「欧州美術館・博物館の夜」では、この機会を利用して芸術や文化教育の重要性を理解させるため、美術館や文化行事への児童や生徒の引率が特にフランスでは目立った。
芸術の都と呼ばれ、世界有数の観光都市であるパリを首都に持つフランスだが、そのステータスを保つための政策・努力は怠らない。そういった努力は国民から、特に若者からの支持も高いことがうかがわれる。
*****************************************************
* 国が保有する記念建造物。例えばパリでは、凱旋門、コンシェルジュリー、パンテオン、ノートルダム大聖堂などがこれに当たる。
(初出:MUFG BizBuddy 2014年5月)