欧州議会選挙と共和国の衰退

投稿日: カテゴリー: アライグマ編集長の日々雑感

6月9日の欧州議会選挙を控えて、フランスでは極右野党RNが圧倒的な支持を得て選挙戦の先頭を快走している。与党連合は下手をすると、中道左派野党・社会党に抜かれて3位に後退しかねない。各党の筆頭候補者の個人的資質も多かれ少なかれ影響しているに違いないが、世論調査によると、欧州自体の問題よりも、国内の景気や治安に関する問題に、有権者の多くが切羽詰まった危機感を覚えていることが、政府に批判的な政党への支持の高まりにつながっている模様だ。財政赤字と公的債務の膨張に関する不安はあるが、フランスの経済状況がさほど悪いわけではないことは、先ごろの外国投資誘致イベント「チューズ・フランス」の成功でも明らかで、フランスがビジネスフレンドリーな国だとの評価を定かなものにしたのはマクロン政権の手柄だろう。さすがは銀行家出身の大統領だ。だが、一般市民の経済的関心は物価高を背景とする購買力低下にあるため、外国投資が増えていると言われてもすぐにピンと来ない。確かに生活は確実に苦しくなっている。治安悪化に関しては、一連の事件がフランスの移民政策の失敗を示唆している。フランス (あるいは、より広く欧州)の価値観やモラルやものの考え方・感じ方と相容れない文化的・歴史的背景を持った人々を経済的・人道的配慮だけで迎え入れてきた結果が、共和国の「群島化」などと呼ばれる社会の分断・断片化を招き、「共和国の失われた領土」を都市郊外や学校制度の中にもたらしたという認識は今や広く定着しつつある。共和国の法 (俗法)とは相容れないより宗教の法(聖法)に従うことを明確に選択する人が人口の一定の割合を占めれば、共和国は衰退するほかない。いまそうした現象が眼前で起きている中で、これを排他的・独善的な方法で強引に解決することを目指す勢力(極右)と、問題を頑迷に否認し続けることで非現実的な調和と安寧を目指す勢力(左派)の間で、効果的な解決策を見いだせないでもがいている政府・与党の権威と信用が低下している状況だと言えるだろう。共和国の一員となることを拒否するような移民を安易に受け入れれば、そうした人々に教育を受けるフランス生まれの子どもたちも含めて、共和国の敵を内部に抱え込むはめになる。これがフランスの現状で、他の国も参考にすべき教訓だろう。