欧州委員会の委員長を長らくつとめたジャック・ドロール氏が亡くなった。享年98才というから大往生と言ってよいだろうし、政治家として充実した人生だったに違いない。ただ、立候補すればほぼ確実に当選するとみられていたフランス大統領にはなろうとしなかったのはなぜだろう。なんらかの信念に基づく選択だったのか、欧州委員会委員長としての激務で疲弊しきっていたのか、あるいは、なにかいわく言い難いほかの事情があったのか、本当のところは謎に包まれたまま、という印象を残したまま逝ってしまった。もしかしたら、フランスの大統領などは欧州委員会委員長よりも格下であって、いまさら務める気になれるか、とでも思っていたのだろうか。実際、欧州統合をもはや後戻りできないところまで推し進めて、しっかりと基礎固めをした事績は、同時代のフランスの歴代大統領たちより偉大かも知れない。欧州統合自体の功罪はともかく(議論は色々ある)、ドロール委員会が欧州の歴史に大きな足跡を残したことは間違いない。